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魔王候補と勇者たち  作者: まる
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勇者(にもつ)と女性騎士(うんそうや)・11

「大丈夫ですか?」

「すみません……ははっ、情けないですね」


 さくさくと歩きながら尋ねるアメリアさんに、青白い顔で自嘲気味に笑いながらエリオットさんが答える。

 彼の言う「情けない」は、アメリアさんに背負われて運ばれているこの現状の事でしょう。……なんというか、すごい光景です。エリオットさんが長身だから余計に違和感がすごい。


 魔法を使いすぎたせいか、エリオットさんはかなり体力を消耗してしまったらしく、自力で立つことも出来なくなってしまい、それをアメリアさんが何の躊躇も無く背負って移動し始めたんですが……あの手際の良さからすると、これも彼らの日常なのかなと思う。見かねた雷翔が「代わるか?」と声をかけたけれど、アメリアさんが「私の役目ですので」ときっぱり断っていた。


 こんな妙な状況の中ではあるけれど、わたしの心中は穏やかじゃないです。

 だって、エリオットさんが倒れる前のあの言葉。……彼は、確実にわたしの正体に気が付いている。

 でも、意識が戻った今になっても何にも言ってこないし。こっちからわざわざ掘り返す話でもないし。というわけで、とにかく静かに後ろをついていくしかありません。


 しばらく歩いていくと、エリオットさんが「ここで」と声をかけて、アメリアさんが彼を背中から下ろしました。

 地面に足を下ろすと少しふらついたので心配になりましたが、倒れる事は無く背筋を伸ばしてフードをかぶり全身を隠すような「幻影の勇者」の姿をとったエリオットさん。その行動で、やっと騎士さん達が待っている場所が近いんだということに気が付きました。

 アメリアさんがわたし達に向き直って、深々と頭を下げる。


「みなさん、ご協力ありがとうございました。ジュジュ様には恐ろしい思いをさせてしまいすみません」

「え、いえ……」


 印の話をする前と何ら変わらない対応をするアメリアさんに一瞬戸惑う。あれ、もしかして、あの話は聞いてなかったのかな。アメリアさんのことだから、体調が悪そうなエリオットさんに気をとられていたのかも。少しほっとする。


「あの、魔物退治はもういいんですか?」

「あ、すみません。話していなかったですね。エリオット様が戻ると言う事は、もう魔物がいないということなんです。エリオット様は魔物が持つ微量な魔力を感知できるので」

「それって、魔物がどこにいるかが分かるってことですか? じゃあ、魔物を避けることもできるんですね」


 わたしの言葉に、エリオットさんは小さく首を振った。


「いえ、それは難しいかと。どうも私の魔力は魔物を惹きつける力があるようで、避けようにも向こうから寄ってきてしまうんです」

「そりゃ、難儀な体質だな」


 一緒に話を聞いていた雷翔が、思わずといったように呟いた。


「確かに厄介な体質ではあるかもしれませんね。でも、こういう依頼の場合には対象を探さなくても寄って来てくれるんでありがたいですね」


 深くかぶったフードのせいで表情は見えないけれど、苦笑いのような自嘲を含んだような声でエリオットさんが答える。

 そんなエリオットさんをじっと見てから、雷翔は頭をかいた。


「それにしても、あんたは勇者に向いてないよな」

「え?」

「ちょ、雷翔!」


 ずばり言ってのけた雷翔に焦ってしまう。

 わからないでもないけど、なにもアメリアさんの前で言う事じゃないでしょ! ほら、顔が強張ってる!!

 無言の訴えを試みるけれど、雷翔はどこ吹く風だ。


「確かに魔法使いとしては凄いと思うけどな。でも、魔法使うたびに倒れるなんて、欠陥もいいとこだろ。あんただって、いつ倒れないかとはらはらして見守ってるみたいだし」

「それは……」


 話を振られたアメリアさんが言い淀む。

 その反応は、肯定しているのと同じだった。雷翔がアメリアさんからエリオットさんに視線を移す。


「あんたはどうして勇者になったんだ? この女に迷惑をかけてるのだって分かっているんだろ?」

「雷翔様! 私は迷惑なんて……!」

「分かっています」


 アメリアさんの言葉をエリオットさんが遮る。


「私が欠陥品の勇者だと言う事は、私が一番分かっています。それでアメリアさんに迷惑をかけている事も自覚しています。ですが、クルウェークの勇者であることを覆す気はありません。少なくとも、自ら勇者を継ぐ者が現れるまでは」


 きっぱりと言い切ったエリオットさんに、雷翔が意外そうな顔をした。

 エリオットさんは軽く頭を下げて先頭に立って歩き出した。その後をアメリアさんが慌てて追いかける。


「ちょっと雷翔。なんであんな失礼な事言ったの」

「思った事を言ったまでだろ。お前はそう思わなかったのか?」

「それは……でも、別に本人に言う必要は無いでしょ」

「構わないだろ。あいつは気にしていない」


 ふいに低い声が割って入る。


「ジェイクさん」

「本人も言っていただろ。欠陥品の勇者だってな」

「そんな、欠陥品だなんて」

「お前が気にする事じゃない。欠陥品だろうがなんだろうが、あいつは何をするべきか分かっていて覚悟をしている。十分だろ」


 言い残して、ジェイクさんはのっそりとエリオットさん達が行った後を歩き出した。


「それで済む問題か? ……どうした?」


 雷翔が顔を覗き込んでくる。きっと、わたしの表情が暗いからだろう。


「……エリオットさんが勇者らしくないなっていうのは、確かにわたしも思ったことだよ」

「ん?」

「でも、でもね。……雷翔にはそんなこと言ってほしくなかった」


 病弱なエリオットさんは、確かに他の人から見て勇者にふさわしくないだろう。でもそれは力の無い魔王候補(わたし)にも言える事で。

 雷翔はわたしにとって唯一わたしを認めてくれている味方だ。その雷翔がエリオットさんに「勇者に向いてない」といった。深い意味なんてない。雷翔は思った事を言っただけ。

 だけど、「魔王候補に向いてない」。わたしもそう言われたみたいで。


「……そうだよな。悪い。大してあいつの事を知らない俺が言える事じゃなかった」

「……」


 わたしの思っている事なんて、雷翔はお見通しなんだろう。

 黙って首を振るわたしの頭を雷翔がぐしゃぐしゃと撫でた。

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