勇者(にもつ)と女性騎士(うんそうや)・9
魔物が住みついた森、と聞いていたからおどろおどろしく不気味な場所を想像していたけれど、マルダードの森はとても綺麗な森でした。
木々は青々としているし、鳥の鳴き声が聞こえる。昼前についたから、森の中も木漏れ日が差し込んでいて、討伐というより散歩にきたような気分になる景色だ。
森の前まで来ると、騎士さん達は荷物を置きテントを用意し始めた。あれ? と思っていると、ぽんと肩を叩かれた。
振り向くと、銀の甲冑に身を包んだアメリアさんが立っている。
「これから討伐に向かいます。ジュジュ様は危険ですので、ここで騎士達とお待ちください」
「え? あの」
当たり前のように言われた言葉が理解できずに、少し混乱してしまう。
えっと、アメリアさんは討伐に向かう。
で、わたしは騎士さん達とここで待つ。
「え? 騎士さん達は討伐に行かないんですか?」
「ええ。彼らは森の前で待機です」
「森の中には、魔物が居るんですよね?」
「はい」
「……あの、もしかして、エリオットさんとアメリアさんだけで行くんですか?」
「今回はジェイク様も参加して下さるそうで助かります」
笑顔を見せるアメリアさんを見て、胸の中に言いようのない不快感が広がってきた。
これだけ大勢の騎士がいるのに、討伐に行くのは二人だけって。嫌がらせとしか思えない。いや、命がかかっているんだから、嫌がらせなんていうかわいいものじゃない。
「なんで騎士さん達も行かないんですか?」
「彼らはいざと言う時の要ですから」
「それって」
エリオットさんが死んだ時。そう言う事?
押し寄せる不快感に口を噤むしかできなかった。
「申し訳ありません。貴女に不快な思いをさせてしまったようですね」
アメリアさんではない、優しい声がして顔を上げると、灰色のフードをすっぽりかぶった人がアメリアさんの隣に立っていた。
「貴女は彼らが討伐に参加しないことを不満に思っていらっしゃるようですが、この依頼は勇者である私に来たものです。私が討伐に行くのは至極当然のことなんですよ。むしろ此処まで来てくれた事、それに戦力であるアメリアさんを共につけて下さったことに感謝しなくては」
フードの下から覗く口元が優しく微笑むのを見て、何も言えなくなってしまった。
彼の隣では、アメリアさんが複雑そうな顔をしている。もしかしたら、彼女もまたわたしと同じく歯痒く思っているのかもしれない。エリオットさんを慕っている様子を思い返すと、そう思う事の方が自然に思えた。
「アメリアさんがおっしゃったように、今回はジェイクさんも参加して下さるそうなので本当に助かります」
「え、えーと」
助かる……のかなぁ。
ジェイクさんの事だ。エリオットさんとアメリアさんが戦っているのをのんびり見学しているだけという光景がありありと思い浮かぶんですけど。場所が森の中か外かというだけで、エリオットさんに全部押し付けるのは騎士さん達とあまり変わらない気がする。
返答に困っていると、頭の上にずしっと重みが加わった。
「ジェイクは置いといて、ついでに俺達も参加するから。よろしくな」
「雷翔」
わたしの頭に肘をかけて話に割って入ってきた雷翔に、アメリアさんが目を見開いた。
「ライカ様。貴方も参加して下さるんですか?」
「ああ。久しぶりに体を動かしてぇし」
「ありがとうございます! でも、ジュジュ様は……」
「ま、こいつは戦力外だけど、気にしなくても大丈夫だって。ほら、肩に護衛が付いてるし。な?」
「任セロ!」
雷翔に声をかけられて、クーファは嬉しそうに胸を張った。
そんなやりとりを見て、アメリアさんが微笑む。
「では、よろしくお願い致します。エリオット様。彼らも同行しても大丈夫ですよね? ジュジュ様には力強い護衛が付いているようですし」
「……そのドラゴンが居なくても、貴女は大丈夫だと思いますが」
「え?」
エリオットさんの言葉に、わたしを含め全員がきょとんとした顔をした。
けれど、エリオットさんは特に説明する気はないようで、にっこりと口元に笑みを浮かべて頭を下げた。
「協力して下さりありがとうございます。よろしくお願いします」




