もふもふは好きですか?
ここは、どこだろう。
先程まで旅客機に乗っていた。
乱気流に機体が揺れていたところまでしか記憶がない。どう見ても森…いや斜度からみて、山の中だろうか。墜落…?。しかし、見える範囲には私しかいない。
ひんやりする地べたに座り込み呆然としながら出ない答えに頭を悩ませる。
そうだ、携帯。と、思いつきポケットから取り出してみる。
しまった、山の中だから圏外か。
GPSで、現在位置を確認しようとしたが、こちらも反応なしだ。取り敢えず、誰か探してみよう。そう思い、ようやくここで私は立ち上がった。
元の場所に戻れるよう印を付けながら歩き始めて二時間ほどたった現在、私はヒールである事を絶賛後悔中である。
なにしろ足場が悪く足を取られ、通常の倍以上疲労している。だからといって裸足では歩きたくないので、その辺で拾った手頃な木の枝を杖代わりについている。
「はぁ、はぁ、どの辺なんだ。ここは…」
呟きながら、少し休憩したくて腰を下ろした。喉が渇いて仕方がない。
この近辺を歩き回ったが人には会えていない。本当は最初の場所から動かない方がいいのかもしれない。けれど、待って助けが来なかったら?来るにしてもどのくらいの時間がかかるだろうか。それまで私は何とかなるだろうか。
決めた。山を降りてみよう。
このままじりじりと、不安と格闘しながらじっと待っているのは精神的に辛い。たとえ足が痛くても動いていれば気がまぎれる。夜になる前にもしかしたらふもとに着いて、助けを求められるかも知れない。
夜に、山の中にいるのは怖い。そして何も分からない状況が、何より私の不安を煽る。
踏みならされていないけもの道を、ゆっくり歩き始めた。
人に会いたい、お風呂に入りたい、ビール飲みたい、おいしいご飯が食べたい、水…水。頭の中にぐるぐると同じ言葉が回る。長い髪の毛がうっとおしい。掻き上げて一つに縛った。そんなに気温が低くないのが助かっている。低くないということは、標高もそんなに高くないんじゃないかとふんでいる。だがいつの間にか足に豆が出来て痛いし、スーツが枝に引っかかって綻びている。だがここで立ち止まっても意味がないことはわかっているので自分を励ましつつなんとか進んでいる。
私はふと立ち止まった。
声、のようなものが聞こえる。もしくは何か動物の鳴き声か…。
声のする方へ、わたしは慎重に近づいて行った。木の陰から伺いながら距離を縮めていく。だんだん声、いや…泣き声が大きくなってきた。辺りを見渡してみたが私と泣いているもの以外見当たらない。私は意を決して手の届く範囲へ近づいた。
木の根元に、赤ん坊がいた。
私はつい思考停止して呆然としてしまった。事故?親は近くにいるの?…捨て子?
恐る恐る抱き上げた。そのとき赤ん坊が被っていたフードが外れた。
「耳…」
頭の上にのっているのは獣の耳だった。
抱いたら赤ん坊は泣きやみつつある。私はじっとこの子を見た。紺色の耳、金色の目のはっきりした顔立ちのとてもかわいい子だ。
どうやらさほど遠くなく人里に降りられるかもしれない。…人とは限らないが。
このままここにいてこの子の連れをまつか、この子を連れて歩き回るか。
私の中で、この子を置いていくという選択肢はなかった。冷静に考えて足手まといではあるが、ここにきて初めて会った人だ。私はだいぶ心細かったらしい。何よりなぜかだいぶ情がわいてしまった。会って間もないにもかかわらず、守りたいという気持ちが強く心をしめた。
誰かが迎えに来るんじゃないか?その可能性も考慮して、少しの間ここ近辺をうろついてみたが人影は見えなかった。それからの私の決断ははやかった。この子を連れてまた山を降り始めたのである。
連れていくと決めた手前、この子のこの先の責任を持つことを自分の中で決めて。
それから5年の月日が経った。
この世界は、元の私の世界とは違う世界だった。パレスティーナというこの世界は獣人と人間、その他の種族が住んでいて、人と獣人はあまり仲良くない。私の拾った赤ん坊は人と獣人のハーフだった。どんな理由かわからないがおそらく捨てられたのだと思っている。
今は、紆余曲折を経てこの子をコウタと名付け養子に迎えた。周りからはいろいろな理由で反対された。確かに自分のわがままを通す形となってしまったが、そんなよそ者の私をなんだかんだ言って受け入れて、手助けしてくれるみんなに、この町、国を心から感謝している。
「サヨコ!元気にしているか?旨いものが手に入ったから差し入れを持ってきたぞ。ど…どうだ?今度、しょ…食事でも行かないか?」
ちなみに私は小夜子という。いまさらだが。
「警備隊長さん。こんにちは、いつもありがとうございます。まあ、美味しそうですね。」
その時、腰のあたりに衝撃を受けた。
「サヨーただいまー!!」
「まあ、コウタ。おかえりなさい、手を洗ってらっしゃい。」
「サヨもーー一緒に行こう~!」
「あらあら、あまえんぼうね。ごめんなさい、警備隊長さんまたゆっくりお話ししましょう。」
「あ、ああわかった。」
わたしはコウタを抱き上げ家の中へ入っていった。しょんぼりした警備隊長と得意げな顔のコウタに気づかないまま。
私の中でもいろいろな葛藤があった。仕事に慣れるまで子育てと両立は大変だったか、知らない土地で逆にコウタこそが私の心の支えとなったのは間違いない。私一人だったらここまで頑張ることはできなかっただろう。まあとにかく確かなことはひとつ、
うちの子かわいい。