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5.騎士様、濡れ衣を着せられる。

 ラウルスはいい加減に城の中に入りたいと思い、少女を連れて行こうとするが、部下の連中の中に埋もれていてどこにいるのか分からない。

 仕方がないので、時間がないからと解散させ、オーキッドに馬を厩舎に返しておくようにと頼む。

 ラウルスは少女にこっちだと告げると前を向き歩きだした。

 しかし、しばらく歩くと違和感が生じる。ラウルスの後をついて来ているはずの足音が全く聞こえなくなったのだ。

 何事かとラウルスは後ろを振り向くと、それはワザとかと聞きたくなるくらい、ゆっくりと少女が歩いていた。

 一瞬、ラウルスが速かったせいかとも考えたが、どうやらそうでもなく、本当に普段道理に歩いてこのスピードのようだ。

 のろのろ、のろのろと歩く少女に段々苛立ちが増してきたラウルスは、後先考えずに少女を抱き上げた。

 小さな少女は軽く、持ち運びがしやすい。それに、ラウルスの腕に乗せて抱えてやるとちょうどいい感じだ。


「な、何をする!?」


 急にラウルスに抱き上げられ、腕に座らされた少女は驚き、下ろせと抵抗する。


「お前が自分の足で謁見の間まで歩いていたら今日が終わっちまう。大人しく運ばれろ」


 抵抗していた少女を抱え直し、宥めるように少女の背中を軽く叩いてからラウルスは城の中を進んで行く。

 暫しの間、もぞもぞと動いていたが、ついに少女は諦めたのか腕に大人しく座っている。


「なあ」

「何だ」


 少女の呼びかけにラウルスは前を向いたまま答える。


「その、……重たくないのか?」


 少女がとても言い出しにくそうにしているので、何を言い出すのかと思い身構えていたラウルスは拍子抜けしてしまった。


「重くない」


 自分の体重を気にするなんてこいつも女だったんだなと思ったり、人並みに羞恥心とかあったのかなどと、少女が聞いたら憤慨しそうなことを思いながら、ラウルスは少女に返事をする。


「本当に本当だな?」


 尚も念を押す少女に少々呆れたが、それでもラウルスは律儀に答えてやる。


「本当だ。嘘はついていない。お前は寧ろ軽すぎるくらいだ。ちゃんと飯を食べているのか?」


 まさか菓子だけ食べていないよなと、疑いの目で少女を見ると、ラウルスとばっちり目が合った少女はゆっくりと視線を逸らしていった。

 これは、真面な食事は食取っていないなと確信したラウルスは、後で少女に食事は3食しっかりバランスよく取るように言い聞かせなければと頭の中にメモをした。

 とにかく今は陛下との謁見が先なので、謁見の間まで躊躇いなく歩いて行く。

 門番からラウルスが城まで戻ってきたことが陛下まで伝わっているはずで、何より、陛下から『時の魔女』を連れて戻ってきたら、直ぐに謁見の間まで来るようにと言われていたのでこのまま向かう。

 いくつかの角を曲がり、何回か階段を上がって謁見の間を目指す。

 人とすれ違うたびにこちらに視線を感じたが、そちらを振り向いても恐らく顔を青褪めさせているだけだと、悪い意味で慣れてしまっているラウルスは気にすることなく進んで行く。

 ラウルスに抱えられている少女が心底不思議そうに小首を傾げているのにも気が付かずに。


「第二騎士団団長ラウルス・ガルデニアだ。『時の魔女』を連れて参った。陛下に謁見を願いたい」


 謁見の間の扉の前にいる近衛に話しかけると睨まれた。


「陛下に謁見したければ、先に謁見の申し込みがいることを忘れたのか、ガルデニア?」


 厭味ったらしくそういう男に、今日はこいつが当番だったのかと、自分の運のなさを嘆いた。

 第一騎士団に所属するこの男は何故だかラウルスを毛嫌いしており、こういった嫌味をよく言われる。

 この男はラウルスの顔を怖がらないが、やたらと突っかかって来るので、ラウルスは苦手としていた。


「陛下から『時の魔女』を連れて戻ったら謁見の間に直接来いと言われているんだ。早く通してくれ」


 この男が苦手だからと来た道を戻るわけにもいかず、謁見の申し込みをしていない理由を説明し、通すよう告げる。

 するとこの男はまだまだ嫌味が言い足りないのか忌々しそうな顔をしながらも静かに謁見の間の扉を開けた。

 どうやら近衛にも話は通っていたらしく、この男はラウルス達が来ることを分かってはいたが嫌味を言う為にワザとラウルス達を通さなかったらしい。本当に質の悪い男だ。

 ラウルスはこの男に何か文句を言ってやりたい気もしたが、近衛によって扉が開かれようとしているので止め、抱えていた少女を下ろし髪の乱れを直してやる。


「…………みたいだ」


 少女が小声で何か言ったようだがラウルスは聞き逃してしまった。

 しかし、聞き返している暇はなく、ラウルスは完全に開かれた扉の中へ少女を促して中に入る。

 謁見の間には普段待機しているはずの近衛がおらず、扉を閉められるとラウルスと少女の二人だけとなった。

 普段ではありえないような状況にラウルスはどういうことかと不安を感じたが、立ち止まっているわけにもいかず、扉から王座までの道のりを静かに歩き、王座の手前の辺りで止まりその場で膝を折って待機する。

 膝をついた瞬間、そう言えば、少女に謁見の間に入ったらどうすればいいかと教えていなかったことに気が付いたラウルスは、少女がどうしていいか分からず立ち尽くしているのではないかと思い、慌てて少女の方を振り向いた。

 しかし、ラウルスが振り返った先にいた少女は予想に反して、お手本に出来るくらいの綺麗な姿勢でラウルスの斜め後ろで待機していた。

 ローブで見えないが恐らくラウルスと同じ帳に膝を折っているのだろう。

 正装するための服もなく、また、大口を開けて菓子を食べる様なマナーのなっていない少女だからと、謁見の際の所作など全く知らないと思っていたラウルスは、信じられないものを見るような眼で少女を見てしまう。

 ラウルスは、どこで覚えたのかと場もわきまえず少女に尋ねそうになったが、寸前で陛下の到着を報せる先触れがあったので、前に向き直り姿勢を正す。

 先触れから少しすると陛下と、何故かフィークス殿下までもが入室してきた。

 まさかフィークスまで来るとは思ってもいなかったので驚いたものの、頭をたれるのは忘れなかった。


「面を上げよ」


 陛下の言葉にたれていた頭を上げる。


「ガルデニアよ。無事に『時の魔女』を連れて戻って来たな。ご苦労であった」

「いえ、臣下として当然のことを行ったまでです」


 この黒ずくめの少女を見て、陛下は違うとも何もおっしゃらなかった。

 そこでラウルスは、やはり陛下は先代の『時の魔女』が亡くなり、代替わりしていたことを知っていたのだと確信した。

 だが、何故、自分に何も説明がなかったのかと疑問が残る。


「しかしだな、確かに『時の魔女』を連れてきてくれと頼んだが、幾ら気に入ったとはいえ、幼子を本人の確認もなしに誘拐同然に連れてくるのはいかがなものかと思うぞ」


 ラウルスは唐突に言われた言葉に先程の疑問も吹き飛び、陛下が何を言っているのか理解が出来なかった。いや、理解したくなかったのかもしれない。

 それぐらい脳みそが陛下の言葉を理解することを拒否していた。

 自然と眉がより顔が一層怖くなっていることは分かっていたが、自分ではどうすることも出来なかった。


「おや、違ったのか?わしが聞いた話によるとお主が『時の魔女』殿を気に入って求婚したが断られ、誘拐してきたと聞いておったのだがな。城の中でも誰にも取られないよう抱きかかえて移動しておったと聞いていたのだが、……違うのか?」

「違います!!私は陛下に命じられた通りに『時の魔女』を連れて戻って来ただけです!!」

「そ、そうか。それは、すまなかったな」


 ラウルスが混乱していることが分かったのか陛下が戸惑いながら自分が聞いた話を教えてくれた。

 陛下には即座に否定しておいたが、よく考えると陛下が聞いたという話はどうやら陛下の命を受けた話と通報されてしまったらしい話が混ざり、更に、尾ひれがついた結果こうなったようだ。

 もしやオーキッドのせいではないだろうなとラウルスが検討を付けていると、二方向から吹き出すような笑い声が聞こえてきた。

 一つは恐らく少女から、もう一方は……


「あはは。うん。違ってたんだ。ごめんね。聞いたとおりに父上に僕が話したから、ははは、悪かったね」


 全然悪いと思っていない態度で笑い続けるフィークスに軽く殺意が湧いた。

 恐らく、というか確実に話に尾ひれを付けたのはフィークスだろう。

 この方はこの国の王太子なのだが、どうにも面白いことが好きなようでラウルスはよく餌食になっていた。

 謁見の間で陛下の前だというのに何も気にせず笑い続けるフィークスの笑いの虫が収まるまで、暫し、謁見の間には笑い声が響いていた。





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