表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/7

4.誘拐されてきたらしい魔女。

 昼前、急に来た騎士はリーリエよりも先に外に出て、馬の準備をしている。

 その間にリーリエは店の戸締りをし、騎士が何と言っても決して譲らなかったローブを羽織っていた。


「お前、馬は乗れるのか?」


 リーリエの準備が終わった頃を見計らい、そう尋ねてきた騎士にリーリエは、乗ったことがないと答えた。


「そうか。……じゃあ、持ち上げてやるから自力で乗れ」


 騎士は少し考える素振りをみせてから、そう提案してきたが、言い切る前にリーリエを持ち上げていた。

 急に高くなった視界に驚くものの、騎士の指示通りに動き、何とか馬に乗ることが出来た。

 リーリエの後に乗った騎士は、さすが本職なだけあって、スマートに馬に跨っている。

 内心で感心していると、リーリエの後ろから手が伸びてきて馬の手綱を握った。


「じゃあ、動くぞ」


 騎士はそれだけ告げると後は無言で馬を進めていく。

 リーリエは自分の店からどんどん離れていくことに、不安よりも気分の高揚を感じていた。

 基本的にリーリエは店に入り浸ることが多く、余り外に出ない。

 外に出るのは大抵買い物か、幼馴染や友人の所に行くくらいだ。

 それでも、いつもと違う高さから見る景色はまた違ったもので、外に出ようとも思わないリーリエをワクワクさせるには十分だ。

 きょろきょろと周りを見回すリーリエを、呆れた顔で、やはり子供だな、と思いながら騎士が見ていたなんて、リーリエは気が付くことはなかった。

 しばらくすると、リーリエの興奮も収まり、落ち着きを取り戻していた。

 そして、城までの道のりを無言で進む中、考えるのは先程のことだ。

 朝方、今日は嫌な予感がすると思っていたが、当たってしまった。

 まさか、『時の魔女』として城に行くことになるとは思ってもみなかった。

 そして、迎えに来たのがこの騎士だったことにも驚いた。

 今日は朝から嫌な予感のことでイラついており、幼馴染が届けてくれた滅多に食べることがないクリームがふんだんに使われたケーキをやけ食いしてやろうと考えていた。

 それも、師匠がいつも怒る大口を開けて食べてやろうと思い、まさに口を開けた瞬間にこの騎士はやって来た。しかも、すごい形相をして。

 リーリエは初め強盗か何かかと思ったのだ。それくらい、怖い顔をしていた。

 しかし、よく見たら騎士服を着ており、とりあえず、強盗ではないだろうことは分かった。

 それから、色々あり、命令されたり、怒鳴られもしたが、リーリエはこの騎士のことを嫌いではない。

 何せ、行動が亡くなった師匠に似ているのだ。

 リーリエが大口を開けてケーキを食べることを怒るくせに、口の周りに着いたクリームを優しく拭いてくれること。

 それに、リーリエの部屋が汚いから片付けろと小言を言うこと。

 それから、自分の長い髪が結えずに、いつも溜息を吐く師匠にやってもらっていたことを思い出した時も、この騎士は同じように溜息を吐いてから髪を綺麗に結ってくれたこと。

 同じなのだ。師匠と全く、同じ。

 顔は怖いし、良く怒鳴るが悪い人ではない。

 それに、表情もよく変わる、といっても、怒った顔か呆れた顔ぐらいしか見たことがないけれど、それでも、面倒事を嫌うリーリエよりも人間味あふれていると思う。

 だから、嫌いじゃない。寧ろ、どちらかと言えば好きな方ではないだろうか。

 だが、リーリエがいくら好ましいと思っていても、この騎士にとってリーリエは余りいい印象はないだろうと思う。何せ、やたらと怒らせていたからだ。

 まあ、それも仕方のないことかとリーリエは諦めの溜息を吐く。


「どうした。疲れたか?」


 この騎士はリーリエの溜息を、慣れない馬に乗っている疲れから出たものだと勘違いし、こちらを気遣ってくる。

 こうやって気を使えるということは、騎士は基本的にはいい人なのだろう。

 あんなに怒っていたのもリーリエの態度が原因だったのだと推測する。


「いや、大丈夫だ」

「そうか、ならいいが。まあ、もうすぐ着く。あと少しだけ我慢してくれ」


 騎士はそう言うと、再び無言の時が訪れる。

 しばらく無言の時を過ごしていると、ようやく城門が見えてきた。

 城門前にはこの騎士と同じ様な騎士服を着ている門番がおり、なんだかその門番はうろたえてこちらを見ているような気がしたが、この騎士の顔が怖いからだろうと決めつけ、放置する。

 すると、門番は何の確認もせずにリーリエ達を城の中へと入れてしまった。

 リーリエは、この城は大丈夫なのかと思ったが、自分には関係ないので、まあ、いいかと流すことにした。


「だだだだ団長!?な、な、何をやっているんですか!!」


 門から少し馬を走らせたところで、信じられないと言った顔をした金髪の騎士が、何かを叫びながらこちらに走って来た。

 その人の後ろには、リーリエを視界に入れた瞬間に青褪める人たちが呆然と突っ立っていた。

 一体、何ごとなのかとリーリエが首を傾げていると、その疑問には先程叫んでいた人が答えてくれた。


「団長!!いくら女・子供にモテないからといって、誘拐してきちゃダメでしょう!!」


 その金髪の騎士は言い終わったと同時に、いつの間にか馬から降りていた騎士に頭を殴られていた。

 それを見ながら、そう言えば、リーリエは騎士の名前を知らないことに気が付いた。

 だが、この金髪の騎士が団長と呼んでいるので、団長でいいかと思い直す。

 リーリエは面倒になり、心の中で勝手にそう決めた。


「お前は毎度毎度、いい加減にしやがれ!!なんでそんな話になるんだ!!」


 怒りが限界を超えたのか、思わず耳をふさいでしまうような怒鳴り声で、団長は金髪の騎士を怒鳴りつけていた。


「だって、黒髪の人相の悪い男が、『時の魔女』が営む店で少女を脅しているって通報があって、その子供とも特徴が一致するし、てっきり、可愛い子だから誘拐してきたのかと……」


 この金髪の騎士は言い終わる前に、団長に再び頭を思いっきり殴られていた。

 団長はそれでも怒りが収まらないらしく、凄い人相で金髪の騎士を睨みつけている。

 リーリエはこの金髪の騎士の後ろにいた騎士たちの顔色が青を通り越して白くなっているのに気が付き、何とも言えない気持ちになった。

 馬に乗っている最中に道行く人がこちらを見て青ざめていたが、リーリエはこの団長の顔が怖いせいだと流しており、まさか誘拐犯と誘拐された子供だと見られていたなんて思いもしなかった。

 多分、その人達も通報したんだろうと思うが、初めの通報は近所の人だろうと当たりを付ける。


「お前は、何を言っているんだ!!俺は陛下の命で『時の魔女』を迎えに行くと言っただろうが!!だったら、ここにいるのは『時の魔女』に決まっているだろうが!!」

「団長!!『時の魔女』は妖艶な美人ですよ!!子供じゃありません!!」

「魔女が代替わりしていたんだよ!!それは先代の話で今はこいつが『時の魔女』なんだよ!!」


 人のことを散々好き勝手言ってくれていた金髪の騎士は、団長の言葉が信じられないと言う様にリーリエを凝視してきた。


「えっと、お嬢さん。君が『時の魔女』だっていう団長の話は本当なのかな?」


 子供に話しかけるように聞いてくる金髪の騎士にイラっとしたが、それよりも全く、恐らく団長の部下であろう金髪の騎士が団長の言葉を信じないのはどうかと思う。

 まあ、誘拐犯の疑惑をかけられているのだからしょうがないちゃあしょうがないのかとリーリエは溜息を吐いた。


「本当だよ。――悪かったな。先代みたいに美女じゃなくて」


 リーリエは自分が『時の魔女』であることを肯定すると、同時にちくりと嫌味も言っておく。

 身長があまりにも低いので、子供のように見えるらしく、子ども扱いされるのは慣れているが、なんだかこの金髪の騎士が言うと腹が立つのは何故だろうか?


「ほ、本当だったんだ。こんな幼い子が『時の魔女』なのか」

「お前、さっきから子供子供と連呼しているが、こいつは立派に成人した大人だぞ」


 感慨深げにしみじみと呟く金髪の騎士に嫌味は通じておらず流された。

 そのことで更に腹を立てたリーリエが再び何か文句を言ってやろうとすると、団長がフォローをしてくれた。

 この国では成人は16歳からなのでリーリエは成人してから数年は経っていることになる。

 金髪の騎士は驚きすぎて呆然としているが、小さな声で、嘘だろと言ったことをリーリエは聞き逃さなかった。

 再びリーリエは溜息を吐くと、団長の時と同じ様に金髪の騎士の前に腕輪の付いている手を差し出した。

 思わずといったように金髪の騎士はリーリエの手を取る。


「オーキッド、信じられないなら、こいつの腕輪を確認すればいい」


 無言で腕を差し出すリーリエに金髪の騎士、改め、オーキッドは困惑していたが、団長の言葉を聞き、食い入るように腕輪を確かめている。

 どうやら、他の騎士たちも気になるようで、リーリエの周りに集まってきた。

 皆が口々に本当だと呟くと、やっと納得したかとリーリエは疲れの溜息を吐いた。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ