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1.騎士様は魔女に出会いました。

 リーリエは雲一つない真っ青な空を見上げて一言呟いた。


「あぁ、今日は面倒なことが起こる気がするな」


 此の手の感は中々外さないので、多分当たるだろうと嫌そうな顔をしながら、目の前の皿に大量に盛り付けられているクッキーを一つ手に取り頬張った。


 ☆ ☆ ☆


 ラウルスは憤っていた。

 唯でさえ鋭い目つきが、今日はいつにも増して鋭くなっており、今なら人も射殺せそうな雰囲気が漂っている。更には、怖いとよく言われる顔を更に顰めて、周りの通行人を怯えさせているのにも気が付かないくらいには気が立っていた。

 今、ラウルスは『時の魔女』が営んでいるという店に向かっている。

 陛下の登城の要請をことごとく無視した『時の魔女』を迎えに行くためだ。

 魔女と呼ばれる者はそれぞれが特化した何かを持っていると言われている。例えば、『知の魔女』なら知識について、『先の魔女』なら未来のことについて、といった具合にそれぞれが得意なことを通り名として持っており、様々な人々に頼りにされている。

 そのような魔女を迎えに行くというような仕事は、騎士団の中では栄誉として扱われているらしく、逸れものが集まるような第二騎士団ではなく、花形と呼ばれるような貴族の多い第一騎士団に話が向かうはずだった。

 ところが何を間違ったか、第二騎士団の団長であるラウルスに陛下直々に命が下った。

 そのことで、後に第一騎士団の奴らに散々嫌味を言われるだろう。

 まあ、それも聞き流せばいいことだ。まだ我慢できる。

 陛下の要請を散々無視するような輩の迎えも、陛下直々の命令だと思えば、これもまだ我慢できる。

 なによりラウルスが腹を立てたのは、今から『時の魔女』を迎えに行くと言ったときの部下の反応にだった。


「団長、その店なら可愛い店番の子がいるって噂ですよ。いいなぁ。俺が代わりに行きたいですよ。…………あぁ、でも団長だったら顔見ただけで泣かれてしまうかもしれませんね」


 そう言って大笑いをしたオーキッドの頭を思いっきり殴ったことをラウルスは後悔していない。

 オーキッドはいつも一言多いが、ラウルスは今回ばかりは許せなかった。思い出しただけでも腹が立つくらいには許せない。

 この目つきも顔つきも生まれつきだからどうにもならず、特に気にしていることでもあったので腹立ちは倍増した。

 イライラしながら馬を走らせていたら、いつの間にか目的の『時の魔女』が営んでいるという店の前についていた。

 ラウルスは馬から降りると、店の端にある木に馬の手綱を括り付け、店の扉を開けた。


「邪魔する。ここに『時の魔女』殿がいると聞いてやって来た。陛下のよう、せいで……」


 城まで同行願いたいと告げようとした言葉は目の前の光景を見たら消え失せてしまった。

 今、ラウルス目には、カウンターの向こう側で、フードの付いた真っ黒なローブを羽織った幼い少女が、クリームがふんだんに使われた菓子を頬張ろうと大口を開けたところが映っている。

 ラウルスはいきなり目に飛び込んできた光景に、暫し固まったが目の前にいるのが幼い少女であることを思い出し、泣かれるのではと思い身構えた。

 ところが少女は泣くことはせず、一度首を傾げた後、何事もなかったかのように再びケーキを食べ始めた。

 その少女の反応にラウルスは驚いた。今までは、この目つきの悪さのせいで、女子供には泣かれることしかなく、良くても怯えられるくらいだった。

 だが、この少女はそのどちらもせずに、黙々と目の前にある菓子を食べている。

 今までそんな対応をされたことのなかったラウルスは、何かがおかしいことに気が付かなかった。

 例えば、客が来ているにもかかわらず、無視して何事もなかったかのように菓子を食べていることとか、この暑い中、少女の身体に合っていない大きなローブを着ていることに、胸の内で感動しているラウルスには気が付くことが出来なかった。

 とにかく、ラウルスは先程のイライラしていた気持ちもどこかにいき、この少女なら大丈夫だろうと『時の魔女』の行方を尋ねることにした。


「陛下の要請で『時の魔女』殿を迎えに来た騎士団の者だ。すまないが、『時の魔女』殿はどこにいるのか教えてはもらえないだろうか?」


 ラウルスは目の前の少女を泣かせない様に丁寧な言葉遣いを心がけ尋ねたのだが、目の前の少女は不思議そうな顔をしながら再び首を傾げた。


「『時の魔女』ならここにいるが?」


 子供の少女には似つかわしくない言葉遣いで、ラウルスには少々理解しがたい答えが返ってきた。


「……それは、お前がそうだということか?」

「さっきからそう言っているじゃないか」


 ラウルスは頭に浮かんだ考えを、まさかと思いながらも尋ねると、出来れば信じたくない答えが返ってきた。

 目の前の少女とラウルスがこれまで聞いたことのある『時の魔女』とは特徴が一致しない。

 『時の魔女』は男女問わず一度は振り向いてしまうような、年齢不詳で妖艶な美人であるという話だ。

 瞳の色も緑で、髪は金色だと聞いたことがある。

 一方、目の前の少女は小柄で、紫色の瞳で銀の髪をしていて、これはラウルスの聞いた『時の魔女』の特徴とは合わない。

 なにより、少女の顔立ちは整っていると思うが、美人と言うには年齢が足りないだろう。美人ではなく美少女と言った方が正しい気がする。

 しかし、こちらもラウルスが聞いた話とは違うことになる。

 どう考えてもラウルスの、いや、陛下の求める『時の魔女』とは違うので、どうしたものかと困ってしまう。


「俺が聞いた『時の魔女』殿の特徴がお前とでは全然違うのだが、本当にお前がそうなのか?」

「特徴?」


 ラウルスが無意識に失礼なことを少女に言っていたが、少女は気にすることなく、どういうことかと問いかけてきた。

 ラウルスは先程思い浮かべた時の魔女の特徴を目の前の少女に話してやる。

 すると、しばらく考え込むような様子を見せていた少女が、あぁ、それなら、と呟いた。


「多分、それ、師匠の事だろうね」

「師匠?」

「あぁ、前の『時の魔女』が師匠なんだ」


 だったら、この少女はラウルスの求める『時の魔女』の娘か何かなのだろうと当たりをつける。

 何故なら、魔女は代々血縁者から受け継がれていくものだからだ。

 目の前の少女が『時の魔女』の名を継ぐには幼く、恐らく、この少女はラウルスの求める『時の魔女』の娘か何かなのだろうと当たりをつける。

 多分、前の『時の魔女』に憧れて名乗ってみたのだろう。子供のしたことだと、いつもなら考えられない位寛大な気持ちでラウルスは先程のことを流すことにした。


「じゃあ、その前の『時の魔女』に会わせてくれ」


 ラウルスはいつの間にか口調が元の荒いものに戻ってしまっていることにも気が付かずに、目の前の少女に『時の魔女』の行方を尋ねた。




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