その愛ゆえに道を違えた同士の結末を彼は知りたくなかった
どさり、ロリコーン皇帝が倒れる。
額を打ち抜かれた彼はもう動かなかった。
ロリコーン至高帝はしばし彼を見下ろし、そして天井に視線を向け、静かに目を閉じる。
「なぜ、道を違えてしまったのです同士よ……」
流れる涙は戦友の死を悼むかのよう。
だけど、ぴくり、皇帝の指先が動いた。
ダメだ至高帝、あいつまだ……
「幼女が、見ているのだぞぉッ!!」
飛び上がるように身を起こした皇帝がステッキを突きだす。
涙を流し続ける至高帝向け、致死の一撃が襲いかかった。
驚く面々が割って入ることすら出来ない絶対回避不可の一撃を、閃光と化したステッキが弾き飛ばす。
「なっ!?」
「すでに勝負は付いている。あなたは負けを認める以外に決着はありません。認めなさい皇帝。幼女を守ることを忘れたあなたに勝ち目はないのです」
「黙れっ、黙れ黙れ黙れッ、我はロリコーン皇帝、王は引かぬ、媚びぬ、顧みぬっ!! 我と幼女の楽園は、必ずや作ってみせる。それが幼女の幸せに繋がると、我は信じ貫くのみっ」
どっかの拳帝様みたいな台詞吐いたな。最後は拳突き上げて自殺するんだろうか?
そんな皇帝は紳士の嗜みとして背中からステッキを取り出す。
「そう、ですか……残念です皇帝。あなたと私は同じ種族でありながら、選ぶ道を違えてしまった。もう、交わることはないでしょうな」
「我等の決着はどちらかの死あるのみ! 我が理想のため、死ね至高帝!!」
「「カスタムバルカンストライクッ」」
ステッキ同士が火を噴いた。
閃光を越える勢いで無数の連撃が交錯する。
ステッキが一つ、空を飛んだ。
武器を無くした男がもう一人の連撃をモロに受ける。
直撃した連撃に全身を穿たれる。
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっっ!!」
このまま沈め! とステッキの勢いをさらに高め、敵を屠る初老の紳士。
あまりの連撃に受ける男が宙に浮き上がり、全身から砕ける音を轟かせる。
「FUOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOッ!!」
閃光を越えた連撃が止まる。
男だったモノがどさりと地面に落下した。
男を倒したそいつは彼に背を向け、漢の背中越しに語ってみせた。
「貴様に幼女は微笑んでいるか?」
敗北した男は涙を流す。
それは今際の際の屈辱か、叶わぬ実力への慟哭か、それとも、ありし日の幼女を悼む追憶か。
ロリコーン皇帝は震える腕を虚空へと伸ばした。
「ヘルザお嬢様……今、私も参ります……」
虚空へと伸ばされた手が力無く下ろされた。
皇帝の目から光が消えていく。
涙を流し、ロリコーン紳士達が王の崩御を見守った。
伯爵も至高帝もルグスも、ワンバーカイザーすらも男の死に涙する。
幼女の涙を無くすため、無理矢理に王国を作ろうとした男の野望はここに潰えた。
だが、紳士たちが幼女を思う愛を間違えた時、きっと第二、第三の皇帝が現れるだろう。
「紳士たちよ。そして伯爵も、聞いてほしい」
涙を飲んで、至高帝は告げる。
「我等が使命は幼女が笑顔で健やかな成長をすることを見守ること。幼女が女性として成長し、我等の元を離れることは辛い。だが、覚えていてほしい。我等は確かに、彼女達を守ったのだ。守り切れた者は誇りに思え。守りきれず、道半ばで挫折する者もいるかもしれない、だが、それで道を間違ってしまったならば、我等同士がその道を正す。もう、新たな皇帝が生まれぬよう、我等は幼女たちの涙を優しく拭き取り、紳士たる行いを心がけていかねばならない。だから、心に刻め、復唱せよ。YES ロリータ、NO タッチ!!」
「「「「「「「「「「YES ロリータ! NO タッチ!!」」」」」」」」」」
うわぁ……なんかいろいろ台無しだ。
――なぜか既視感が……あちしは今回何もしてないはずですがね――
しかもなんか声が聞こえた。
多分天からの声だ。なぜ今聞こえたし?
しばし復唱し続けていたロリコーン紳士たちが一人、また一人と去っていく。
彼らは各地の幼女たちを見守りに向かったのだろう。
変態紳士ながら幼女の味方であるうちはある種人々にとっても頼れる存在だろう。だけど一たび暴走すれば皇帝のような厄介な存在が生まれてしまう。この種族も、結構難儀な生命体だよなぁ。
「あれぇ? もしかして終わっちゃいました?」
大団円に移ろうか、そんな雰囲気をブチ壊すように洞窟入り口から現れたのはアマンダ。
どうやら今更合流して来たようだ。
遅いよ、いや、居てもそこまで闘いに参加できなかっただろうけどさ。
「アマンダ。あんたどこ行ってたのよ!」
服をそそくさと着込んだアカネさんが問い詰め口調で尋ねると、アマンダはふふふ。と不敵な笑みを浮かべた。
その背後から、グルルと何かの唸り声。
「何処にいっていたかって……? 捕獲していたんですよ、こいつらを!」
アマンダの背後からやって来る黒きコボルト達の群れ。その頭には、アホ毛がぴょこぴょこと揺れていた。




