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その彼の名を誰も知らない  作者: 龍華ぷろじぇくと
第四話 その真なる王の出現を僕は知りたくなかった
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AE(アナザー・エピソード)・その父たちの咆哮を彼は知りたくなかった

「トパーズァァァァッ!!」


 ゴードンが走る。

 迫り来るゴードンに危機を察したペドコーンはトパーズァにかけようとしていた手を引きステッキを構える。


「邪魔だゴルァッ!!」


 巨漢から繰り出された巨剣の一撃にステッキがミシリと音を立てる。

 想定以上の負荷にペドコーンは慌てて飛び退いた。

 するとゴードンはけほけほと喉を押さえるトパーズァを背後にペドコーンと対峙する。


「テメェ、ぜってぇ許さねぇ! ウチの娘に何してくれてんだ? ア゛?」


「これはこれはお父様のご登場ですか、我らが千年王国の為、お宅の娘様を頂戴いたします」


「誰がテメーらなんぞにやるか!」


 振りあげられた巨剣が襲いかかる。

 無防備に切り裂かれるペドコーン……の幻影。


「残像ですぞ?」


 背後に回ったペドコーンの奇襲。ゴードンの虚を突いた攻撃は、しかし割り込んだ緑色の傘が受け止めた。


「なにっ!?」


「ウチの隆弘に……何をしたァッ!!」


 ゴードンだけではなかった。子を奪われ怒り心頭なのは彼、唯野忠志も同じであった。

 アルブレラを振りステッキを弾くと、ゴードンの背後を守りながらペドコーンへとアルブレラを突き刺そうとする。


「くぅっ!?」


 ぎりぎりで避けた先に槍の穂先。

 再び残像で回避するも、冷や汗が止まらない。


「くっ。逃したか! ミーズ、無事か! 助けに来たぞ!!」


「お、お父さんっ!? お父さ……おどぉじゃあぁんっ」


 絶望的状況に現れた父に安心したのだろう。嬉しさが決壊したミズイーリが泣きだした。

 オーゼキはそれを優しい顔で見つめ、彼女の頭を優しく撫でる。


「もう少しだけ、待っていなさい」


 そして、険しい顔でペドコーンを睨みつけた。

 ミズイーリも、隆弘も、トパーズァも、皆が必死に頑張った。その光景が父親達を奮起させる。

 この男だけは絶対に許さんと。絶対に倒すと、彼らの想いは一致した。


 全員がアイコンタクトを行う。

 交わされた合図で動き出すゴードン。

 オルァ! と振るわれた一撃をペドコーンが受ける。

 ミシリと軋むステッキのせいで動きが止まったペドコーンに背後から襲いかかる槍の一撃。


「残像で……っ!?」


 残像を使い回避したペドコーンがオーゼキに反撃を行おうとしたまさにその刹那。

 ペドコーンの脇腹に突撃してきた忠志の頭突きが突き刺さる。


「おぐほっ!?」


 くの字に折れ曲がったペドコーンに槍の柄が逆の脇腹を抉る。


「おごふっ!?」


「どっせぇぇいっ!」


 さらに一撃。ゴードンの渾身の剣撃がステッキを割り砕きどてっ腹に襲いかかった。

 ステッキの御蔭で切り裂かれることはなかったが、完全な大ダメージだ。

 崩れ落ちたペドコーンは必死に顔を上げる。居ない。幼女が。自分を強化するための立ち上がる為の幼女成分が目の前に、居ない。なぜ?


「こちとらテメェらの生態は把握済みなんだよ! 終わりだペド野郎!」


「終わり? それは、こちらの台詞ですなっ」


「あぁん?」


 くるりと身体を仰向けにしたペドコーンは、両手を後頭部に当てブリッジを始める。

 それを見てしまった少女たちがひゃぁっと声を上げる。

 折角ゴードン達が背後に隠したというのに、意味が無くなってしまった。


「自分、解・放! ふぉっふぉっふぉっふぉっふぉ! 幼女に見られることで私の力は極限まで高まるのですよ!」


「ちっ、変態め」


「大丈夫、こちらとて退く気はありません。私の家族を守るためならば、私はいくらでも強くなれる気がしますからっ。待っていてくれ隆弘。今、終わらせる!」


 アルブレラを両手で構え、忠志が一歩前に出る。

 ごろりと後転で逃げたペドコーンは立ち上がり体勢を整える。


「何言ってやがる。こいつを倒してぇのはテメーだけじゃねぇんだぜ?」


「ミズイーリに怪我まで負わせてしまった。私はこの男を許すことはできそうにありません」


 忠志の横にゴードンが、オーゼキが並び、武器を構える。


「ボンナバンッ」


「おおおおおおっ!!」


 走る忠志と踏み出すペドコーン。一足飛びに近づいて来たペドコーンの一撃を弾き、忠志の一撃がペドコーンの頬を掠める。


「せぇっ!」


 忠志が回転しながら逆方向からアルブレラを叩き込む。

 今度はこれをペドコーンが弾き、反撃のステッキ。

 しかし横から現れたオーゼキがこれを弾き、ゴードンが喉突き。


「しまっ……」


 ざくり。喉を切り裂かれたペドコーンがよろめく。勢いよく血を噴き出しながら、巨悪の一人がついに倒れた。

 からり、とステッキが地面に転がる。

 噴き出した血が噴水のようにペドコーンを濡らし、虹色に輝く。


 終わりか? ゴードンもオーゼキも思わず肩の力を抜く。

 だが、忠志だけは未だアルブレラを構えたままだった。

 彼だけは警戒しているのだ。リエラ達から教わった言葉を忠実に守り、倒した後も危険が無いかを必死に探る。

 すると、なぜだろう? まだ終わってない気配がして来るのは?


「幼女が……幼女が見ているのだぞォ!」


 吹き出る血が収まった頃だった。

 死亡確定だったはずのペドコーンの目がカッと見開かれた。

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