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その彼の名を誰も知らない  作者: 龍華ぷろじぇくと
第三話 その救出者が来ているのを僕らは知らなかった
984/1818

AE(アナザー・エピソード)その夫婦の闘いを僕等は知らない

 デヌが倒れた。

 完全に意識を失った彼に、全裸男はふぅっと息を吐いてステッキを振る。

 ぴたりとデヌの後頭部にステッキの先を合わせると、短い息と共に渾身の一打。


 念を入れて粉砕する。そのつもりで放たれた一撃に、光速の蹴りが突撃した。

 ステッキが跳ね上がる。

 驚く皇帝に、そいつはしわがれた笑みを浮かべて割り入った。


「ふぇっふぇっふぇ!」


「ふぉぉっ!?」


 咄嗟に飛び退いた皇帝に突撃して来たのはGババァ。

 飛び膝蹴りが皇帝の顔面を打ち砕く。

 が、即座に霞みのように消える皇帝。Gババァの背後に出現した皇帝が拳を叩き込む。


 デヌ同様に意識を狩り取ろうとした一撃を、光の速度で動くGババァは楽に回避して見せた。

 空中でくるりと身体を入れ替え地面に四つん這いで着地するGババァ。

 ステッキを拾った皇帝は、周囲を見回しネクロコーンが居なくなっていることに気付く。


「なるほど、次はお前が相手か」


「ふぇっふぇっふぇ」


 四足でしゃかしゃかと迫ってきたGババァ。ステッキを構える全裸男の下半身狙ってしわがれた老婆が襲いかかる。


「ぬぅっ!」


 狙いに気付いた皇帝が慌ててボンナリエールで飛び退く。


「ふぇっ!?」


 さらに突撃のフレッシュ。飛び退くGババァにパンデロールで切りつける。袈裟掛けに切りつけられたGババァは衣類が裂かれて素肌が零れた。


「ぶふぁっ!?」


 相手を攻撃したら自分の精神力に多大なダメージを負った皇帝がよろめく。

 こんなしわがれたババァの素肌など見たくなかった。そんな思いをGババァは気にすることなく光の速さで突撃して来る。


 速い、うえに重い一撃。

 回転蹴りをステッキで受け止める。バキリと折れたステッキに驚きながらも紳士の嗜みとして背中から新たなステッキをとりだす。全裸状態なのに背中からステッキが現れる不思議。これは偽人のスキルによるモノだ。


 予備ステッキは紳士の嗜み。

 皇帝が取り出したステッキは、しかしGババァの連撃により一瞬で叩き折られる。

 慌てて再びステッキを取り出す。また折られる。

 ババァの連撃が止まらない。


 冷や汗を流しながらなんとか捌く。強烈な連撃は、しかし徐々に実力が追い付くほどにステッキが折られる回数も、危機的状況に陥る回数も減っていく。

 もうすぐ追い付く、その時だった。


「オルァッ!」


 背後からデヌの一撃。

 完全にGババァに意識を向けていた皇帝は背骨を砕かん程の一撃を無防備に受けてしまった。

 がはぁと唾を飛ばす先に、近づいて来たGババァの突撃エルボ。肋骨の中央を割り砕く一撃に、皇帝はついに地に伏した。


「ふぇっふぇっふぇ」


「すまん、助かった……」


 最愛の妻の助けでなんとか勝ちを拾えた。そう告げるデヌだったが、倒れた筈のロリコーン皇帝の姿が消えた瞬間戦慄に染まる。


「G、後だ!」


「ふぇっ?」


「幼女が見ているのだ。この程度では負けていられんな」


 皇帝の一撃でGババァが吹き飛ぶ。

 とっさに飛んできたGババァの頭を庇って同時に吹き飛ぶデヌ。

 自分がダメージを全て受け止め、なんとかGババァを守り切る。


「クソ、今のでもダメか……」


「ふぇ……」


 あんた……と呆然と呟くGババァに、デヌはふっと笑みを浮かべる。


「惚れた女を守るのは、男として当然……だろう?」


 力無く告げたデヌが気を失う。

 既に満身創痍だったのだ。今の庇った一撃で限界を向かえたのだろう。

 乙女の顔で倒れた最愛の夫に口づけて。Gババァが立ち上がる。


 大地が吹き飛んだ。

 Gババァが踏み蹴ったのだと気付いた時には、皇帝の身体はダメージを受けて吹き飛ばされていた。

 まさに光を越え認識すらさせない速度の一撃。

 空中でなんとか身体を入れ替え壁に着地。

 既に目の前にGババァの顔があった。

 逃げる暇すらなく顔面を掴まれ身体ごと壁にめり込まされる。


 Gババァの本気に、皇帝はなすすべなく撃墜された。

 壁に全身突き刺さった皇帝は、一瞬意識を失っていたが、幼女が見ていることに気付き再び起動する。

 全身に力を込めて壁を爆散。全裸で飛び出しGババァに飛び蹴りを喰らわせる。

 しかしGババァは足首と股間を鷲掴み思い切り投げ飛ばした。

 壁に激突した皇帝の後頭部に赤い花が咲く。


「幼女が……幼女が見ているのだぞッ!!」


 再び立ち上がる皇帝。その身体から闘気のように湯気が立ち昇る。

 彼は興奮していた。

 これ程に自分を追い詰める存在が居ることに、幼女を守り闘う事が出来るという状況に、彼は久方ぶりの猛りを覚えていたのだ。


「クク、追い付くぞGババァ。貴様の実力にそろそろ追い付き、追い抜くぞ!」


 無言で飛び込むGババァ。光を越えた二―キックを、皇帝は片手で受け止める。


「さぁ、反撃開始だババァがっ!!」


 皇帝の逆転劇が始まった。

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