そのおあつらえ向きな魔物を僕等は知りたくなかった
「出遅れた!?」
村の前門へと向かった僕らの前では、すでにコボルトの群れと闘う冒険者たちがいた。
アルセ姫護衛騎士団のメンバーも参戦済みらしい。
リエラとアカネが指揮を取り、他のメンバーが乱戦に特攻している。
ルグスの魔法が乱れ飛びながら地面に散乱し、にゃんだー探険隊10匹がルグスに飛びついたままにゃーにゃーと楽しそうに鳴いている。猫塗れだ。
レーニャも今回は頑張るようで、カレールーバー振り回してコボルトと切り結んでいる。
コータとローアは直ぐ横で互いをフォローしながら戦闘中。流石に子供同士なせいか不意を突かれやすいみたいだけど、ケトルがさりげなくフォローしているので問題はなさそうだ。
アニアが魔法でコボルト達を右往左往させ、意識の逸れた個体を優先してチグサとユイア、マクレイナとモスリーンが迎撃。
エンリカさんが一人群れに飛び込みちぎっては投げちぎっては投げしているのが見える。
コボルトが空飛んでますよ。
雄たけび上げながらゴードンが斧を奮って真っ二つ。
「っし! 動かなくなった!」
「ええいうっとおしいわね! なんで死なないのよこいつ等!!」
無双するエンリカだったけど、彼女が殴ろうと蹴ろうと倒れたコボルトたちは全く無傷で起き上がって来る。
成る程、これは想定以上に厄介な敵みたいだ。
無敵のコボルト達は、運良く何かしらの一撃で倒す以外は倒せないらしく、唐竹割りを行ったゴードンぐらいしか倒せていないらしい。
セキトリとクルルカが補助魔法で援護して、唯野さんとオーゼキを前面に押し出しアマンダとハイネスが側面から魔法攻撃。
しかしやっぱり無傷で起き上がって来るコボルトたち。
リエラも参戦するが、切っても切っても再生して来る。
「な、なんなんだこのコボルトたちは……」
傍から見ていたアンサーが思わず口に出す。
テッテはその横から遠当てで攻撃。
ダメージは与えているはずなのだが、やはり普通に立ち上がって来るコボルト達。
まさに無敵の大群だった。
絶対的強者とも言える。
犬面の魔物達が迫り来る姿に、村人が、自警団が初めに崩れた。
もうダメだ。と恐怖する彼らを放置して、冒険者達が奮起する。
「怯むな! 倒せてる個体は居るんだ! 奴らだって無敵じゃない! 何かしらの弱点があるはずだ!!」
「あははははははっ。死ね死ね死ね、死ーねぇっ」
折角冒険者の一人が激励しようとしたのに、メイリャさんがコボルトボッコボコにする声にかき消されました。酷過ぎる。
「バルスッ! 大丈夫?」
「……あ、ユイア?」
「凄いコボルトの数よ! なんなのこいつ等? 蹴っても殴っても切り裂いても魔法使っても気にせず攻撃して来るし、運良く倒せた個体以外全部無傷なのよ! 危険だから下がってて」
既にお荷物扱いのバルスがうぐっと呻く。
だが、バルスの視線は彼女を見ていなかった。
彼はただただ、迫り来るコボルトたちを見ている。
心なしか熱に浮かされたような、愛しい物を見つめるような眼をしている。
「……バルス? どうしたの? ちょっと変よ?」
「う、うん。変、かも? なんだか、うずうずするんだ。あの、毛を見てると……」
バルスが指差すその先に居たのはコボルト。
そのコボルトはまさに新種。特徴的な外見をしている。
全体的にはコボルトなのだ。二足歩行を始めた犬の姿であり、人間のように防具を身に付け槍やら剣を装備して、グルルと唸りながら迫り来る。
ただ、彼らの頭上に、たった一本、自己主張するようにアホ毛が風に揺れていた。
「おー?」
アルセが魔物図鑑を開く。
アホ毛コボルト
種族:アホ毛 クラス:アホ毛
アホ毛:アホ毛型生物
アホ毛:アホ毛専用クラス
装備:鉄の槍、鉄の鎧
スキル:
薙ぎ払い
二連撃
刺突
種族スキル:
状態異常無効
アホ毛:本体が破壊されない限り死亡することはない。
変わらぬ角度:アホ毛が風などの何かによって位置が変わる事が無くなる。
ドロップアイテム・アホ毛
コボルトじゃなかった!!? 種族アホ毛!? 職業もアホ毛!?
なんだこのアホ毛型生物っ!?
「ああ、ダメだ。狩りたい。アレは、アレは僕の獲物だッ!!」
アホ毛バスターバルス君が走りだした。
「バルスっ!?」
バグったせいでアホ毛を狩ることに特化してしまったバルス君はおあつらえ向きに現れたアホ毛型生物群に堪らず走り寄る。
「あは、あははっ! アホ毛狩りだあぁぁぁぁっ!!」
バルスが魔剣エルガドを振るう。ずぱっとコボルトから切り離されるアホ毛。
その瞬間、霞のように消え去るコボルト。代わりにアホ毛がぱさりと落下する。
今まで陽の目を見ることのなかったバルス君、一世一代の見せ場が今、幕を開いた。




