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その彼の名を誰も知らない  作者: 龍華ぷろじぇくと
第三話 その不良系魔物の生態を彼らは知らない
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その果実が何を齎したのかを彼らは知らない

「オルァ……」


 僕らに気付いたツッパリ……元番長はアルセに一度視線を向けたが溜息を吐くように力ないオルァを呟いた。それっきり地面を見つめたままだ。

 なんか凄い黄昏ている。


 指を咥えてしばし見ていたアルセだが、どうやら睨みつけて来ないことに気付いて首を傾げる。

 僕を振り向き、このツッパリさんはなんでこんなに元気がないの? と聞いてくるような眼をしていた。

 そう言われてもなぁ。こればっかりは何とも言い難い。

 アルセにガンつけで負けたからだよなんて言っても通じないし。


 しばし考えていたのだろうか?

 アルセはおもむろに木の枝を振うと地面に何かを書き始めた。

 おお、アルセが自分から絵を……意外と上手い。

 将来は画家ですかアルセさん。


 描かれたのは林檎の絵。いや、この世界ではアンブロシアか。

 もしかしてコレ?

 ポシェットから僕がアンブロシアを取り出すと、アルセはそれに両手を伸ばす。

 渡してあげると物凄い笑顔を返された。

 ほっこりです。


 僕、アイテム→渡す、アンブロシア。対象アルセ。

 アルセ、アイテム→渡す、アンブロシア。対象元番長。


 って、アルセェ!?

 突然手渡された果実に顔を上げる元番長。

 そんな彼にしっかりとアンブロシアを押しつけるアルセ。


「オルァ?」


 戸惑い浮かべる彼に、アルセは満面の笑みを向けた。

 しばらくアルセを怪訝に見ていた元番長。

 おずおずとアンブロシアを口にする。

 シャリ。良い音が響く。

 ああ、ちょっと食べたかったなアンブロシア。

 おお、結構蜜が入ってる。凄く美味しそうだ。


 美味しいのだろう。

 元番長は必死に食べ始める。

 気が付けば種だけ残して殆どを食べ切ってしまった。

 骨のように残されたアンブロシアの芯だけが残される。

 この種植えたらアンブロシアツリーが出来るんだろうか?


 投げ捨てられたアンブロシアの芯を回収した僕はそこから種だけを取り出しポシェットに入れる。

 またあの森に入ったら適当なところに蒔いてみよう。

 何が成るか楽しみだ。危険もあるけど。


 アンブロシアを食べ切った元番長にアルセは再び笑みを向ける。

 しばし見合っていた元番長だったが、溜息を吐くようにオルァと呟き立ち上がった。

 その身体は元の二メートル超えの肉体からは想像付かないほどに縮んでおり、僕と同じくらいの背丈になっていた。

 通常のツッパリたちとあまり変わらないサイズだ。

 むしろちょっと小柄? さっきより縮んだ? どんだけヘコんでるんですか元番長。ヘコむごとに身体が一回りずつ縮むとか。そのうちガリガリ少年っぽくなりそうだ。


「オルァ!」


 ゴチになりました。みたいなノリで両腕を切る元番長。

 それを見たアルセが満足した顔をしていたので、僕はアルセを連れて皆がハラハラしながら待つ町門へと戻る。

 が、カインたちが物凄い青い顔をしている。

 なんだ? と僕が後ろを振り向けば、なぜか元番長が付いて来ていた。


 僕は無言でアルセを抱き上げ走り出す。

 元番長はズボンに両手を突っ込んだままその背後を走ってきた。

 アルセがきゃっきゃと楽しそうにバタバタしている。走るのに邪魔です。


「ちょ、アルセ、こっち来ちゃダメ!」


「ツッパリ、ツッパリが付いて来てる!!」


「いやぁ。町中がパニックになるぅっ!?」


 慌てふためく仲間たち。

 辿りつくアルセ。

 眼の前へと迫る元番長。


 恐怖に震えながら槍を構える衛兵たち。

 彼らは死を覚悟した。

 が、元番長は町に入る一歩手前で停止すると、その場に膝を折ってこちらを見上げる。


「オルァッ!!」


 そして土下座。

 なんで?

 突然の行動に僕らも衛兵も呆然と元番長を見つめていた。


「ぶひ?」


「あ、あの、夫が仲間になりたいんじゃないかと言ってますけど……」


 え? 元番長が仲間になりたい? というか、エンリカさん、今バズ・オークのこと夫って言った? すごく自然だったから聞き逃しかけたけどさ!?


「えっと……私達と、一緒に居たいということですか?」


 怖々リエラが尋ねる。


「ゴルァッ!!」


 気合いの入った返答と顔をあげて真剣な眼を皆に見せる元番長。

 当然、まるで睨みつけられているようで皆が恐怖を覚えた。

 だが、そこは勇者カイン。震える身体を前に出し、手を差し出す。


「な、仲間になるってんなら握手だろ。やれるか?」


 カインの言葉に、元番長は立ち上がると、その手を握り返した。

 ここに、歴史的瞬間が訪れた。

 意志疎通が不可能と言われていた魔物ツッパリのリーダーを、人間が仲間にしたという歴史的快挙である。


「あ、新しい仲間が加わってよかったっすね」


 今回はちびらなかったらしいバルスがなんとか震える声を出す。

 元番長と握手し終えたカインは頭を掻きながらアルセを見た。


「ほんと、アルセにゃ驚かされてばかりだな。まさかこんな強そうな魔物仲間にしちまうなんて」


「アンブロシア食べてましたし、知識の目覚めがあったかもしれませんよ。このツッパリ、もしかしたら私達の言葉を理解してるのかも」


「まぁ、とりあえず積もる話は後にしましょ。これから森に行くんだし歩きながらでいいでしょ。森まで急ぐわよ」


 野営を行うにも適した場所を探さなければならない。ゴボル平原内は論外なので森の中になるのだが、かなり彷徨うことになるので時間はないと言っても過言じゃない。

 ネッテに促された僕らは若干急ぎ足でゴボル平原へと足を踏み入れるのだった。

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