AE(アナザー・エピソード)・その魔物たちに崇拝される者を彼らは知りたくなかった
どさり、ギャッハーが倒れたまま動かなくなる。
流石に頭蓋骨が陥没しているのだろうか? 痙攣こそしているが、もう、動く気配すらなかった。
静寂が舞い降りる。
ヒャッハーたちはただただ自分達を率いていた存在の敗北を目の当たりにして何も言えないでいるようだ。
「ひゃ、ひゃは?」
ヒャッハーの一人がよろめきながら前に出る。
絶対的支配者の敗北に、思わずその場で膝を付く。
そして、ギャッハーを倒したネフティアを見る。
支配者を倒した憎き敵。
なれど、力こそ全ての彼らにとって、ギャッハーを倒す存在はすなわち……
男達は一人、また一人を膝を付く。
ネフティアを囲うように円陣を組み、両手を合わせて硬く結び祈るようにネフティアを見た。
まさに、自分たちの新たな指導者の誕生。
彼らは皆、ネフティアに祈りをささげ、忠誠を誓い始めた。
気付いたネフティアは、あれ? 何か様子がおかしい? と戸惑いを浮かべるが、すでにヒャッハー達からは憧れの瞳しか向けられない。誰も突っかかってこようとすらしないので始末が悪い。
「ネフティア、それ、どうするの?」
「ふむ。アキオ、お前の兄弟たちができたようだな」
「ふざけんなアメリス。あんな奴らは知らんっ」
祈りをささげ終えると、ネフティアの元へと集まって来るヒャッハーたち。
むさくるしい男達に囲まれ凄く迷惑そうなネフティアは、偽人の波を掻きわけ、アキオの元へと辿りつく。
そしてヒャッハーたちにジェスチャー。
何してんだ? アキオが思った時には既に遅かった。
ヒャッハー達はアキオを兄貴のように慕いながらヒャッハーヒャッハーと指示を仰ぎ始める。
突然会話が成立しない偽人に囲まれたアキオが物凄く迷惑そうにしているのを放置して、ネフティアは少女達と共にアメリス邸へと向かって行った。
当然ながらアメリスとミルクティもアキオを放置して家に帰った。
一人残されたアキオはヒャッハーの群れに交じり、もはや誰がアキオかすら分からなくなってしまい、兵士たちが困っていた。
だが、アキオもしばし彼らと一緒に居たことで仲間意識を覚えたらしく、皆で楽しくナイフを舐め合い始めた。
「じゃあ、とりあえずこの子たちは私の別館でメイドや執事見習いとして働いて貰うわ。その後落ち着いたら仕事先とか探すことにしましょう」
「それが良いでしょうね。ネフティアもそれでいい?」
こくり、頷くネフティア。
アメリス邸に戻ってきた彼女は、ふとアメリス邸内の人数が少ない事に気付く。
どうしたの? とアメリスに視線を向けると、アメリスは困ったように首をひねった。
「ああ。アルセたちはまた旅に出るらしくてな。もう、出立したんじゃないかな? といっても、のじゃ姫がロリコーンの亜種に連れ去られたそうでそれを探しに向かったようだ」
眼を見開き驚くネフティア。
顎に手をやり考える。
自分もロリコーンの亜種に襲われた。
同時期にのじゃ姫までが襲われていたのだ。それに気付かなかった自分に思わず歯噛みする。
「大丈夫だ。アルセ達が動いているんだぞ? 無事に帰って来るさ」
男らしく笑みを浮かべるアメリスに、不安ながらもコクリと頷くネフティア。
「おい、オメーら、こいつ等どうしたらいいんだぁ?」
子供たちのこれからについて話が一段落した次の瞬間、アキオが問題その2を連れて戻ってきた。
ヒャッハー軍団は見事にアキオの背後を付いて歩いて来ている。
完全に彼らの代表者に収まってしまっていた。
「見た目、本当に区別が付かんな」
「なんか無限増殖したみたい」
「俺は増殖してねぇからな。それで、こいつ等どうするんだ?」
「そうねぇ……ヒャッハーだっけ? なんかもう面倒だしツッパリたちのとこに預けてきたら?」
「全面戦争起きそうなことさらっと告げんな。あんなとこ連れてったらどんな変化が起こるかわかんねーだろ」
「ふむ。なんかもう面倒だし、近くの山に返してやれ、ほら、五熊帝が居なくなった山があるだろう。あの辺りの頂上なら住んでも問題無くはないか?」
「それなんだが、どうもヨモギが主食らしくてよ。こいつら禿げ山にはいきたくないんだと」
「ならばカレーニャーの森にでも住まわせればいい。人間は襲うなと伝えておけばいいだろう」
「ヨモギ埋めて育てさせるか。カレーニャーたちと仲良くできりゃいいけど……」
ネフティアがぐっと親指を立てる。
どうやら自分が交渉してやろう。という意味らしい。
信頼できない自信だったが、まぁ、やるだけやってみるか。とネフティアとヒャッハー軍団を引き連れコルッカ近郊に存在するカレーニャーの森に向かうアキオだった。
ちなみに、交渉は不思議なほどにスムーズに終わり、ヒャッハーたちはカレーニャーの森の奥で生活することになった。
ヨモギを育成しながら楽しげにヒャッハーしているらしい。




