AE(アナザー・エピソード)・その村が隠している秘密を彼は知らない
「よーす、戻ったぜー」
「ぎゃあぁヒャッハーがでたーっ」
「またかよっ!?」
村に戻ったネフティアたちだったが、村人はやっぱりアキオをヒャッハーと同一視してしまうらしい。
ネフティアが居ることに気付いて恐る恐る戻って来る者もいるが、大抵はそのまま家に閉じこもってしまう。
村長宅へと戻って来ると、村長という名の夫を失った妻が対応してくれた。
幾分肩の荷が下りた顔をしている彼女は、ネフティアとアキオに食事を振る舞うと、村で起こった惨殺事件について村の会合があるからと出ていってしまった。
「しっかし、あの奥さんも大変だな。夫が受けてた村長業務全部しなきゃいけねぇんだから」
食事をほおばりどうでもいい話を振るアキオ。しかしネフティアは答えない。
いつものことなのでアキオだけが話を行う。
「にしても、ヒャッハーどもは結局なんなんだ? 元から居た奴なのか、少し前に住みついた魔物なのか。どっち道駆除できたからいいんだけどよぉ」
「あの……」
部屋の入り口から、そっとネフティア達を覗く二つの目。
不安げに揺れる瞳を見つけ、アキオは「あんぐ?」と、食べるのと止める。
「どうした嬢ちゃん。用事か?」
見覚えのない女の子がアキオに問われておずおずとやってくる。
アキオ、ではなくネフティアに近づいた彼女は何も告げることなく泣きだした。
その少女を、ネフティアは知っていた。
食事を止めて椅子から降りると、少女の背中を押して部屋へと向かってしまう。
「ンだぁ? 俺には内緒の話しかよ。まぁいいけどよぉ。やっぱガキ同士で話が合うのかね。おっとこりゃうめぇ。ネフティアの奴残してんじゃねーかもったいねぇ。いっただきっ」
自分の好物をネフティアの分まで平らげたアキオはそのまま床に寝ころぶと、鼾をかいて眠りだしたのだった。
一方、少女と共に部屋に向かったネフティアは、泣き続ける少女を座らせ、背中をさすりながら落ち着くのを待つ。
「……うぅ、ごめんなさい。私から来て置いて」
問題無い。と首を横に振る。
少女は涙を拭いて、ネフティアを真っ直ぐと見た。
「お願いします。皆を、助けてくださいっ」
皆って、誰? 意味が分からず首をひねるネフティア。
少女は一瞬迷って、でも自分の言葉でなんとか詳しく説明することにした。
「私みたいに、お父さんに襲われた子が一杯いるの。サミちゃんもヨーちゃんも、皆、襲われたって、凄く痛くて恐かったって。それに、このままだとシズちゃんもミアちゃんも酷いことされちゃう。私だけじゃないんです。お父さんに酷いことされるの。皆の家が、してることなの。大人になるために必要なことだって言われるけど、私知ってる。森を抜けた先にある街じゃあんなひどいことしてなかった。この村だけなの! お母さんたちはお父さんたち男の人のいいなりだし、サミちゃんたちももう逆らう気はないって、殴られて、ひっぱたかれて、言うこと聞かないともっとひどいことされるって。それで、しばらくしたらいなくなっちゃうの。帰って来る娘なんて稀で……私、こんな村嫌だよぉっ」
村の掟といえば仕方無いと思えなくもないが、近くにある街について、何故ひた隠しにしているのか、ネフティアはこの村がおかしい事を確信する。
顎に手を当て彼女の願いを叶えるべきかを考える。ふと、あの貴族が気になった。
ヨモギをアサと偽っていた村長に、あれ程金を払って本当に騙されていただけなのだろうか? それともヨモギに何かしらの利用法があった? それとも、ヨモギ以外に金になる物を貰っていた? たとえば、男性に抗う気を失わせた少女とか?
ネフティアは少女の頭をポンと叩く。
確か、村長の妻が会合に行くと言っていた。その会合とは、金やら娘の受け渡しをしていた村長の代わりに誰がその役をするか、という話ではないだろうか?
少し、調べておいた方が良いかもしれない。
だから、少女には此処に居るようにジェスチャーをして、一人会合が行われている公民館へと向かう。
村の中央から少しずれた場所に存在するその場所に、村長の妻を始め、男達が屯っていた。
家の外から耳をそばだて聞いてみる。
「んじゃぁ、御貴族様との交渉はダーオが、森からアサを取って来た者に対する換金はエドガースが頼む。しかし、村長が死んじまっただけでここまで村の作業が滞るとはなぁ。結構面倒だな」
「仕方あんめ、村長に皆任せきりだったからな」
「しかし、娘っこを売るだけでここまで良い金稼ぎになるとはなぁ。俺も早く娘が欲しいぜ」
「息子は畑を耕したりさせればいいし、最悪奴隷にして売り飛ばせば金になるしな。産めよ増やせよと祖先が言ってたが、いやぁいい言葉だ」
腐った大人の集まりだった。
ネフティアは無言でデスマスクを被った。
どうでもいい裏事情
御貴族様は受け取ったヨモギを本物のアサと混ぜて嵩増しして隣の街で売りさばき、大金を儲けていたようで、売上の10分の1を村長にくれてやっていたようです。




