AE(アナザー・エピソード)・その魔物がなぜ人を襲うのかを彼は知らない
「さぁて、この森にヒャッハー共が住んでんだっけか」
アキオとネフティアは二人で村近くの森へとやってきた。
村長たちはなぜか死んでしまったのだが、既に仕事を受けたアキオは報償なしで受けるつもりだったのでこの森に来たのである。
隣のネフティアは喋る気配がないのでずっとアキオの一人言になる。
それでも、無口ながらも頷いたり、グッドマークを見せつけてくれるネフティアの御蔭で一人で喋っていてもそこまで孤独感は感じない。
「しっかし、なんなんだろうな。ヒャッハーって。俺の姿真似てやがんのか、それとも元からそういう姿なのか……上位存在はサ○ザー当り出てくんじゃねーだろうな。暗殺拳継承者なんざここにゃいねぇぞ?」
「ヒャッハー!」
疑問に思ったアキオの前に、そいつは当然の如く現れた。
ナイフを持ったヒャッハーはアキオに見せつけるようにナイフを舐りながらヒャッハーと鳴く。
どうやら話が出来る存在ではなく決まった行動しか取らないようだ。
容姿が容姿なので初見だとどうしても恐怖感が募り、思わずその場でジャンプしたくなるアキオ。お金は持ってませんと告げてしまいたくなる。
元より彼は小心者だった。
異世界に来た事で心機一転、自分とは一番かけ離れた容姿になることで強くなった気になりたかったのだ。
それが、コスプレした結果現れたのは世紀末でヒャッハーしながらどっかの暗殺拳継承者に一撃で潰されるやられ役だったのだが、彼は今までよりは強くなった気でいた。
だが、目の前に同じ姿の存在が居て、その動きを見せられると、下っ端が出やがったとしか思えなくなってしまった。
「なぁ、ネフティア……俺ってやっぱ、弱いのかな?」
ネフティアは答えず無表情で親指を立てる。
「オイ待てや。もう少し気を使え」
ある意味ダイレクトに役立たずと伝えられた気がしてちょっと切なくなった。
そしてチェーンソウのエンジンを点火する。
「ひゃは!?」
ギュイイイイイイイイイイイイイイイイ
驚くヒャッハーが何か行動するより早く、袈裟掛けに裂かれる。
ヒャッハーがどれ程いようとも、ネフティアの敵ではなさそうだった。
「クソ。俺様だってよぉ。もっと強くなりてぇっつーのに、どうすりゃいいんだ。チートでなくてもいいんだ。もうちょっとこう、なぁ?」
森を斬り払って行くネフティアの背後を付いて行く。
一度だけ間違えてヒャッハーを斬るつもりで振るわれた一撃がアキオの眼前数ミリを通り過ぎたが、それ以外は彼の命の危機はなかった。
「?」
不意に、森が開けた。
木漏れ日が差し込む森の中、ヒャッハーたちが屯っているのが見える。
手前に数体、奥に行くほどに多くのヒャッハーたちがナイフを舐めながらネフティア達を見て来る。
「すげぇ数だな。100は居るぞ?」
彼らは熱心に葉っぱに水やりをしているらしい。
使っているのは鍋だったり、何かの器だったりと水が入る容器ならなんでも使っているようだ。おそらく村から盗んできたものだろう。
「あー、ありゃラリってるっていやぁいいのか? 葉っぱ咥えて至福の笑みしてんな。つーこたぁ、アレがアサか? ……いや、待て。ありゃ俺の知ってるアサじゃねぇぞ」
「?」
遠目に見えた草を見て、アキオは告げる。
ネフティアがどういうこと? と言った顔をするが、アキオにもよくわからない。
ただ、その葉っぱには見覚えがある。
「ありゃぁヨモギだ。アサじゃねぇ。アサは真っ直ぐ伸びるがヨモギは真っ直ぐにゃ伸びねぇ。あれ使って団子作ったら美味ぇぞ」
団子、美味い。その言葉にネフティアは興奮気味に親指を立てた。
任せろ。とばかりにデスマスクを取り出し、自身の顔に取り付ける。
「んー、なんつーか独特のあの仮面が欲しくなるな。是非顔に付けさせてぇっつか」
ギュイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ
点火したチェーンソウの音にヒャッハーたちが反応する。
一人歩み出たネフティアは、アキオに近づかないこと。と掌を向ける。
アキオだって近づく気はない。即座に近くの木を昇りだす。
地上に居たらヒャッハー共々撫で斬りされかねないからだ。
集まるヒャッハーたちがナイフを舐め威嚇する。
対するネフティアはただただ無言で歩き出す。
がさり、がさり。踏みしめる度に足元の枯れ葉が音を鳴らす。
八双に構えたチェーンソウが刃先に触れた草を削り取る。
ヒャッハーたちも何かがおかしいと気付いた。
今まで敵対してきた冒険者達とは何かが違う。一線を越えている。
しかし、魔物である彼らは敵へと立ち向かう。
「ヒャッハーッ」
ヒャッハーたちが叫びながら群がる。
ネフティアが走りだした。
手短にいたヒャッハーがナイフを振るうより先に、無骨なチェーンソウが耳障りな音を立てる。
びしゃりとヨモギが赤く染まった。
「ひゃはっ!?」
仲間の遺体を見た瞬間、彼らは戦慄した。
その死にざまは、あまりにも……あまりにも酷い損壊だった。
蹂躙が、始まった。




