彼女が今まで何をしていたのかを彼らは知らない
「すいません、ウチのエンリカが」
「いや、気にしてねェよ。どうせすぐに引き払う宿だったしな。明日からクーフの遺跡探しに出る予定だったから丁度イイぜ」
バルスたちの泊まっている宿にアルセとやって来ると、丁度ユイア、バルス、カインがいた。
ネッテとリエラはリエラの実家に行ったままらしい。
ちなみにクーフは血塗れ作業中だ。一度覗きに行ったら凄い惨殺部屋にミイラ男が一人牛刀みたいなのを携え立っていた。
物凄いホラーだったのでアルセに見せることなく即座に踵を返してこちらに来たのだ。
宿屋については事前にエンリカに道を教わっていたので直ぐに辿りつけた。
異世界の文字が日本語に見えるのも結構助かるな。宿の名前直ぐわかったし。
異世界言語を覚えることすらできないのは辛いけどね。全部あいうえおに見えちゃうし。
「しっかし、結構いい宿泊ってるのなバルスだっけ?」
「ああ、最近森の深部に行きだして狩る魔物の価値が上がったからね。今はキルベアが主な獲物かな。ユイアと二人ならなんとか勝てる段階になったしね」
「まぁ五回に一回くらいバルスが吹っ飛ばされるからエンリカを雇い入れてもうちょっと深部にって思ったとたん今日のイベントが起きたんだけどね」
「へぇ。じゃあエンリカは今日知り合ったのか?」
「パーティーに加入したのは一週間前かな。そこから連携の合わせとか肩慣らしで森の浅い所を狩り場にしていたわ」
「若いのに弓の腕はかなりあるしな。まさに拾いもんだったよ。可愛いし」
「あんたの目的は彼女の顔でしょ。胸無いのにどこがいいのよ」
「胸を言ったら五十歩百歩だろ」
「あら、その腐った目玉抉ってほしいのかしら? バ・ル・ス」
ユイアの触れてはいけない場所に触れたらしいバルス。危険を感じたカインが慌てたようにああ。そうだ。と大きな声で告げる。
「ってことはだよバルス、ユイア。お前らはあのエルフがどうしてこの地に来たかとか全く理由を知らないんだよな?」
「いやいや、あいつ結構おしゃべりだぞ。なんでも親からゴブリンやオークは危険だと教わってそういう生物が嫌いなんだとか言ってたし」
「でも、そういえば出自とかはまだ聞いてないわね。どこの村のエルフなのかしら?」
どうやらエンリカさんがここで冒険者してるまでの経緯は彼らも知らないらしい。
「まぁ、そこまで悪い娘じゃなさそうだからいいけどな。バズ・オークも大変なのに捕まったな」
「ちょっと残念だけど、このままエンリカ貰ってやって。多分私達と一緒にいるより思い人と一緒の方が良さそうだし」
「残念だけどそれがいいだろうな。ああエルフ娘がパーティーとか最高の自慢だったのになぁ……オークに寝取られるとは……」
「いいじゃないあんたには私が……」
「ん? 今何か言ったか?」
「何も言ってないわよ。って、あら、アルセちゃん、おかえりなさい」
今更気付かれたアルセでした。
笑顔で出迎えるユイアにえへっと微笑むアルセ。
そしてクルクル踊りだす。
うん、これからしばらくは踊ってるだろうからアルセは放置で。
「ただいまぁ」
「すいません遅くなりましたぁ」
少し遅れ、ネッテとリエラが帰ってきた。
リエラが心持嬉しそうだ。
「なんだリエラ。そのまま泊って来るかと思ったんだけど、帰ってきたのか」
「はい。さすがに冒険者で一旗揚げると告げた手前いつでも戻って来ていいと言われても甘える訳には行きませんから」
「なかなかいいお父さんだったわ。お母さんの作った食事は美味しかったしね。愛されてたわよリエラは」
「な、なんか恥ずかしい。ネッテさんとなんか三者面談して来た気分でした」
ああ、だから泊ることなくさっさと帰ってきたのか。リエラだけで帰ればゆっくりできただろうに。
それにネッテも気付いているのかちょっとすまなそうだった。
「まぁ、いいや。それで、明日からどうするのカイン」
「体調は教会で治して貰ったしな。そろそろクーフの遺跡を探そうかと思うんだがどうだ?」
「そうね。クーフを元の場所に連れて行きましょうか」
「クーフさんって、あの大柄の魔物……魔人の人ですよね?」
「あいつを元の場所に連れて行くってどういうことだ?」
と、バルスたちがよくわかっていなかったみたいなのでカインとネッテが詳しく説明していた。
その間アルセは時折発光しながらクルクル回っている。時折ポーズを決めてぴたりと止まり、直ぐにまたクルクル踊りだす。うん、踊りに磨きが掛かって来てるよアルセ。バレエとか習わせたくなってくるな。
「未知の遺跡かぁ……なぁユイア」
「やっぱり。はぁ。あのカインさん、ネッテさん、良ければ私達もご一緒していいですか?」
「ん? でも未知の遺跡だし危険だぞ。罠があるかもしれないし、未踏破区域だからモンスターボックスも存在するかも」
「男なら! そういうのに憧れるっしょ!! 未踏破区域を自分が攻略する。最高じゃないっすか!!」
ああ、バルス君がキラキラしている。夢見る少年の瞳で熱く語りだした。
夜は長そうだ。




