その男が手に入れそこなったナニカを僕らは知りたくない
「すいません。王族総出で見送りまでしていただいて……」
恐縮するリエラにハッケヨイ王が気にするでない。とにこやかに告げる。
そんなハッケヨイ王はアルセに寄って来ると、握手をして退がる。
アルセ、いつの間に王様と仲良くなったの?
「本当に残るの?」
「はい。お父様とお母様によろしくお伝えくださいませ。詳細は後に郵送いたします」
エスティールさんは本当にギョージ王子と結婚するらしい。玉の輿、ゲットだぜ! ってところだろうか。ここぞとばかりに押したんだろうなぁ。
ある意味振った相手がゴールインして振られた気分の沙織さんが玉の輿逃した。みたいな顔してるけど、まぁ、そこは唯野さんと地球に戻って自由恋愛を楽しんでください。
モスリーンとマクレイナは憎しみにも似た視線を一瞬浮かべたあと、笑顔でエスティールに別れを告げていた。
二人はセキトリ君にゾッコンだったはずなのだが、新しい恋に生きるぞーっとばかりに王になれなかった第三王子を放置しちゃってます。
既に彼女たちの恋愛対象からは離れてしまっているらしい。
ローア、君もやっぱりセキトリとくっつく気は……ローア?
「「……」」
あれ? ローアさん? なんでそんな隅っこの方でコータ君と二人で俯いてるの?
ちょっと、肩くっつく位近いよね? しかもなんで二人揃って顔赤らめて時々視線合わせてるの? ねぇ、なんか手を繋いでない? 何してるの? ねぇ、何してるの!?
まだ十代になったばかり位のコータに恋愛するとか、ローアさん、あんた、ショタ……あ、いや。げふんげふん。僕は何も見なかった。うん、何も見てないよ。
時折えへへ。とはにかむローアさんとか見てないからね。
にゃんだー探険隊やルグスたちは既にやることは終わったとばかりに既に空の上だ。
あ、今マホウドリと共にエアークラフトピーサンに飲み込まれた。
チグサもケトルもついては来てるけど殆ど活躍とかしてないせいか早々に引き上げてるし。
「唯野さん。残られるんですね」
「リエラさん。はい。あなた方と出会えて本当に良かった。私はダメな父親だったが、貴女方の御蔭で家族に認められるくらいにはなれたようです。ここから先は、家族のために過ごしたい。星の位置の関係で元の世界に戻るのにもうしばらく掛かるそうですが。それまでは今までできなかった家族サービスをするつもりです。本当に、貴女は私にとっての救世主だ」
「ええっ。何言ってるんですか。私なんてまだまだ……あの、ところで妻さん、大丈夫ですか?」
「まだ私を認め切ってはいないようですが、後は皆さんの手を煩わせる訳にもいきませんからね、私の努力次第です」
そういって、朗らかに笑う唯野さん。
初めはただの冴えないおっさんだったのに、たった数日で見違えるようになっちゃったなぁ。男子三日会わざれば……って奴だね。まぁいい傾向ってことでいいか。
「お!」
「どうしましたアルセちゃん? え? 銃?」
「あ、これ魔銃って言ってですね。魔法を込めた弾を打ち出す武器ですね。アルセの持ってるのは……体力を回復する魔弾です」
アルセ、唯野さんにあげちゃうの?
笑顔で差し出すアルセから、唯野さんは困った顔で魔銃と一発の回復魔弾を手に取る。
「回復というからには、自分に向けて撃つんですよね?」
「そうですね。慣れると一番回復できるアイテムになるので重宝しますよ? 空になった弾は教会で魔法を込めればまた使えます」
「わかりました。アルセちゃんがくれたのですから何かしら、また意味のある道具なのでしょう。もしものために身につけておきます」
アルセからのプレゼントを受け取った唯野さんにさよならをつげ、アルセがペリルカーンに乗って舞い上がる。おっと、僕も付いてかないと置き去りにされちゃうや。
王族や唯野家の皆に見送られ、僕らは無数の鳥に乗ってエアークラフトピーサンへと舞い戻った。
ちなみに、鳥の一体が交代でドドスコイ城へとやって来るようになり、いつでも救難時にアルセ達にメッセージを飛ばせるようにと待機するようになったらしいけど、これって使われることあるのかな?
「ふぅ、戻ってきましたねー」
「なんだか随分と長居した気分だわ」
えーっと、アラクネさん居るし、セキトリいるだろ。レーニャもいるから……うん。全員揃ってるね。
「それで、これからどこ行くのリエラ?」
「アルセに任せようかなって思います。でも、その前に、一度コルッカに戻りませんか?」
と、アカネに告げるリエラ。その視線の先には魂が抜けたようにボケっとしたままのセキトリ君がいらっしゃった。
彼は今、抜け殻です。
たった一日で王になる権利もハーレムも失ってしまったのだから。
きっと後悔してるだろうね。こうなる前に既成事実作ってりゃよかった。って。
全てを失い真っ白に燃え尽きたセキトリを皆が視線から逸らし、コルッカへと戻る進路を進む僕達でした。




