表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
その彼の名を誰も知らない  作者: 龍華ぷろじぇくと
第四話 その家族のすれ違いを家族は知りたくなかった
943/1818

その異常な訓練があったことを彼女は知らない

 王族はこれより次期王についての落とし込みやら退位式戴冠式の準備で忙しいらしく、さっさと暇を告げられた。ジューリョ王子の死の真相知ったにしては物凄い早い立ち直りに見えるけど、彼の意を組むのであれば当然の動きだろう。


 時間も時間なので僕らは城で一泊することになりました。

 今は皆が客間に向かって居て、僕とアルセとリエラ、あとルクルさんとメイリャが連れだってリファインさんに明日に出立する事を伝えに行くところです。

 メイリャさんだけでもよかったんだけどアルセが一緒に行きたいって言うので僕も付いて行くと、ルクルとリエラが付いて来た。そしてこのメンバーになりました。


 中庭にやってくると、一人の少女が逆方向からやって来て鉢合わせる。

 どんぐり眼にツインテールの女の子だ。ツインテールというか、短いからミニツインテール? それともプチツインテール? 頭の上でぴょこぴょこと揺れる髪がなんか可愛い。アルセもあれ、してみない? あ、頭上の花が邪魔か。


「あ、こんにちわ」


「はい。こんにちわです。お城の方ですか?」


 リエラがにこやかにほほ笑み視線を合わせる。

 中庭への扉前なのですが、これ、開かない方が良いのかな?


「うん。お父さんがね、兵士さんなの。ミーちゃんはね、お弁当届けに来たんだよ。お姉ちゃんは?」


「私達はえっと、教官? になるのかな? お友達に会いに来たの。折角だし一緒に行く?」


「うん。あ、でも、お父さんがね、知らない人にはついてっちゃダメだって」


「あは。偉いねー。じゃあ扉を開いてあげるから先に行く?」


「え? えっと、えっと……ミーちゃんはね、ミズイーリっていいます。お姉ちゃんは?」


「え? あ、リエラです」


「えへへ。名前知ったらお知り合いですよね? 一緒に行きましょうリエラお姉ちゃん」


 それでいいのかお嬢さん……

 ダメだこの子。人懐っこいけど人攫いに会ったら絶対に連れ去られるタイプだ。

 リエラも気付いたようで苦笑いだ。でも、今は丁度良いので扉を開いて中庭に一緒に向かうことにした。


 しかし、開かれた扉の先は、地獄絵図しかなかった。

 中央部に無造作に投げ捨てられたようにうずたかく積まれた兵士達。

 うめき声が聞こえるので生きているだろう。しかし、すでに虫の息だ。

 カタン。ミズイーリが持っていたお弁当箱が床に落下した。


「お、おお、お父さ――――んっ!?!」


 その言葉に、人山の中から一人、幽鬼のように這い出て来る兵士が一人。

 地面に足を付けると、被りを奮って周囲に視線を向ける。

 ミズイーリが走り出した。気付いた兵士は慌てて片膝付いて座り、両手を広げる。

 そこへミズイーリが飛び込んだ。


「お父さんっ。大丈夫? 酷いことされてないっ!?」


「あ、ああ。大丈夫。ただの訓練だよ」


 ミズイーリを抱きしめ、何でもないという兵士、しかしその身体は酷いありさまだ。リファイン式訓練で受けたダメージは想像以上のようだ。

 リエラが落下した弁当を拾って二人の元へと近づいて行く。

 あ、リファインさん発見。突然子供が乱入し、ソレを抱きしめた兵士を見て顔を顰めていらっしゃる。しかし、リエラたちが来たのに気付いて、彼女もまた近づいて来た。


「ミズイーリちゃん、これ」


「あ、リエラお姉ちゃん。ありがと」


 受け取ったミズイーリだったが、直ぐに涙ぐむ。


「どうしたミーズ?」


「御免なさいお父さん……お父さんのお弁当、一生懸命作ったのに、お、落とし……うぅ、うえぇぇぇんっ」


「全く、ミーズは泣き虫だなぁ。大丈夫。落下した位で味は変わらんよ。お前が一生懸命作った弁当が美味くない訳ないだろう」


 ミズイーリの頭を撫でて、兵士さんは立ち上がる。

 って、待って。この人、他の兵士より装備が良いぞ。


「オーゼキ、まだ元気そうだな」


「あ、これは……」


 リファインが声を掛けてきた為だろう、オーゼキさんが軍隊式敬礼を行う。

 というか、今更だけど大関いたよ。兵士さんだったよ。


「まぁいい。今日はここで終了だ。リエラ殿、メイリャまで、ここに来たということは帰るので?」


「いえ、本日は城に泊ることになったので、明日帰ることになります。その報告に来ました」


「そうか。わざわざ報告恩に着ます」


 深々とリエラにお礼をするリファイン。リエラの方が慌てています。


「そ、それにしてもリファインさん、アレって、なんですか?」


「あれ? 人の山ですが、何か?」


 リエラはソレ以上尋ねる事を止めた。


「そろそろ夕食時期か。兵士達はいつもどうしている?」


「はっ。交代で食事を取り日々の業務に向かいます」


「そうか、ならば……」


 地面に突き刺さった大剣の元へ歩くと、リファインは剣を引き抜き、人山に身体を向けて再度地面に剣を突き刺す。


「全員整列ッ!!」


 声を張り上げて叫ぶ。

 すると人山と化していた兵士達が慌てて起き上がり見事に整列して見せた。

 なんだこれ、すげぇ!?

 オーゼキさんも急いで整列してるし、リファインの目の前に立つとか、勇気あるなあの人。


「本日の訓練はここまでとする」


「サー、イエスサー!」


「本日の訓練で貴様等はゴミクズから人に進化した。ここから腐る事なく人であり続けるには日々の努力が必要だ。私は明日少しだけ訓練に付き合う。しかしそこから先はお前達自身だ。怠惰に沈むのも自由、人であり続けるために努力するも自由。願わくば、ドドスコイ王国のため、立派な戦士になる事を願う」


「サー、イエスサー!」


「本日はこれより通常業務を行え。明日からは師団長オーゼキの元、訓練に励め。お前達の成長、私は心より願っている。以上、解散ッ!!」


「サー、イエスサー!」


 ……ガンホー軍団がこの世界に誕生しちまった。

 あの、ミズイーリちゃん、働くお父さん格好良い。なんて顔してないで。これ、絶対おかしいから。この訓練絶対おかしいから。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ