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その彼の名を誰も知らない  作者: 龍華ぷろじぇくと
第四話 その家族のすれ違いを家族は知りたくなかった
942/1818

その婚約を彼女達は知りたくなかった

 しんみりとした会議室。

 居たたまれないと静代さんが静かに席を立つ。

 あっと気付いた唯野さん。どうしようか迷ったモノの、その場から動かない選択をしたらしい。


 それに気付いた隆弘と沙織が父親に促す。

 戸惑いながらも追いやられるように席を立たされる唯野さん。息子と娘の視線を受け、決意したように部屋を出て行った。


「陛下……」


「うぐ……シコフミ。私は、老いすぎた……息子を失ってすら、己の愚かさに気付けんとは……」


「ジューリョ王子の想いを汲み取ることが出来なかったのは私達も同じです。王妃サガリ様の願いを守り切ることはできませんでしたが……真相を知った私達がすべきことは、泣き濡れるだけではないでしょう。サガリ様も家族の幸せと国の繁栄を願っておりました。ならば……」


「分かっておる。ハリッテ、ギョージ。ジューリョの遺言は、しかと伝わったな……」


「……はい。私は、ギョージと協力し、必ずや世界一豊かな国にしてみせます。ジューリョに胸を張って私が王になったと告げられるように……」


「俺も、兄貴と共に国を最強の王国にしてみせる。お前が教えてくれた軍略で、兵士たちと国の平和を守ってやる。兄貴……やるぞ」


「ああ」


 互いに、決意に燃えた瞳で見つめ合うハリッテ王子とギョージ王子。


「そう、だな。シコフミ。次期国王はハリッテとギョージ、二人を指名する。二人のうちどちらかではない。二人が国王だ」


 こうして、ドドスコイ王国は近く、王位継承式を執り行うことになった。

 世界初の二人の王が治める王国であり、内政をハリッテ王が、そして外交と防衛をギョージ王が執り行うことで、富国強兵の大国へと成長するのであった。


「……あの、俺は?」


 感動的な二人の王誕生に水を差すようにセキトリが呟く。

 ハッケヨイ王以下が「あっ」と思わず声を出す。

 今の今まで完全に忘れ去られていた第三王子に視線が集まった。


「セキトリよ。スマンがお前の王位継承は白紙にさせてくれ」


「……でしょうね」


 もともと王の位に付くのは遠慮したかったセキトリは、王にならなくて済んでよかった気がするモノの、何か複雑な気分で息を吐く。


「そうだ、兄貴、折角の王位継承式だ。その日に結婚発表もしちまったらどうだ?」


「あら、それはいいですわ。ハリッテ王子、私を正妻に迎えてくださいますの?」


「……そうだな。そろそろシコナを正式に嫁として迎えるか。王が決まってからと思っていたが、こうなると確かに先延ばしにする意味はないな」


「おうよ。俺もその日に結婚するつもりだ」


「は? ちょ、ギョージ王子、あたしは……」


 驚いたのは沙織だ。諦めると言った言葉は嘘だったのか。そんな顔をしていたが、それに気付いたギョージ王子は少し困った顔をする。

 頭を掻きながらバツの悪そうな顔で告げた。


「ああ、違う。沙織ではない。沙織には振られちまったからな。そうではなく、俺の結婚相手はこいつだ」


 と、自分の席に戻り、すぐ側にいた女性を引っ張り上げて抱き寄せるギョージ王子。

 そのお相手は……エスティールさんでした。


「「は、はあぁぁぁぁぁっ!?」」


 驚きの声を上げたのは三人娘の残り二人。マクレイナとモスリーンが大声上げて立ち上がっていた。

 当のエスティールは筋肉質のギョージ王子に抱き寄せられ、恥ずかしそうに俯き顔を赤らめる。

 乙女がいる。腹黒い乙女がいらっしゃいます。


「え? あの、ギョージ王子、その人、エスティールさん?」


 沙織も思わず口をパクパクさせてしまう衝撃的告白。一体何がどうしてそうなった?


「ついさっきの事なんだが、俺の部屋をお前らが捜索しただろ。その後こいつが引き返して来てな。妻候補が居ないのならば自分はどうかと売り込んできた」


 だ、出し抜かれたっ。マクレイナとモスリーンの顔にそんな言葉が書かれている気がします。


「もちろん、沙織に振られたからとコイツを嫁にする気はなかったのだが、押しが強くてな。闘いの心得もあるから共に戦場に立てるし、ずっと側にいると言うし、側室でも構わんと迫って来てな、結局まぁ、押し負けた」


 恥ずかしげに頬を掻くギョージ王子。あの王子を押しの強さでオトしたのかよ。女って恐い。


「それにその……責任は、取らんとな」


 ギョージ王子の言葉にさらに顔を赤らめ顔を伏せるエスティール。

 あんた一体何をした!? 女ってマジで恐いっ。


「で、でしたら私を、私を側室に」

「私はどうですか! 家事に料理に交渉に戦闘にオールラウンダーで活躍できますっ」


 慌てて自分を売り込むマクレイナとモスリーン。しかし、ギョージ王子は首を振る。


「スマンがこれから王政に従事するつもりだ。女性関連で現を抜かす暇はないんだ。正妻だけで充分だ」


「ちなみに、私もシコナがいればそれでいいので。散々遊んでしまったメイドたちの目もありますので」


 やんわり断るハリッテ王子とギョージ王子。先回りで潰されたせいで二の句が告げなくなった二人の肉食女子が唸りながら崩れる。

 エスティールさん一人勝ちか……女って、恐ぇぇ。


「マーレ、モリー。私、結婚してこのままこの国に留まるつもりなの。あなた達の幸せ、願っているわ」


 花のような笑みを浮かべて二人の幸せを心から願う勝ち組エスティールに、二人はぐふっと血反吐を吐きそうな顔で「あ、ありがとう。幸せにね」となんとか答えを返す。多分心情はリア充爆死しろ。あるいはさっさと別れちまえ。と思っていることでしょう。ついでに別れたら心の中で拍手喝さいしながら相手が悪いのよ。とかいいながら慰めるんだろうなぁ。女って恐ろしい。

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