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その彼の名を誰も知らない  作者: 龍華ぷろじぇくと
第四話 その家族のすれ違いを家族は知りたくなかった
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その見逃したメッセージを王は知りたくなかった

「ば、バカな……そんな、そんな真相な訳が……」


 思わず、立ち上がったハッケヨイ王が円卓に両手を付く。

 焦燥感溢れる顔からは脂汗が噴き出し、認めたくない現実に被りを振るう。


「しょ、証拠は? 証拠はあるのか!? お、お前達の捏造では……」


 いくらなんでも酷いぞ王様。僕らが捏造する意味ないでしょ。でも、証拠は多分、あるってアカネが言ってたから大丈夫だろう。取り乱されても大丈夫だからってリエラに言ってた。

 空いた口が塞げない王子二人を見て、リエラは哀しげに俯く。


「国王陛下。ジューリョ王子の服は、調べましたか?」


「そ、それは……シコフミ?」


「いえ。国王陛下がジューリョ王子を覚えていたいと、宝物庫に丁重に保管いたしております」


 つまり、彼の服は誰も探ったりしなかったようだ。

 いきなり毒殺されて、彼の服を脱がして死因を特定しようとした。

 でも、服はただ着ていただけだと、調べることすらしなかったらしい。

 もしも誰かが彼の服を調べていれば、ここまでこじれる事はなかったはずだ。


 犯人はジューリョでは決してあり得ない。そんな思いがあったのだろう。ジューリョ王子の服を調べることなく、国王は彼を忘れないために宝物庫に服を保管し、ジューリョ王子は墓に埋められた。

 ならばこそ、服の中に、あるはずだ。


 隠してしまっていた羊皮紙の束はおそらく、清書前の失敗した遺書だ。恥ずかしいが、ゴミ箱に捨てると誰かに見られる。だから隠し棚に仕舞っていたのだろう。御蔭で見付けられた訳だけど、おそらく、遺書がすぐ見つかる場所にあるはずだ。それこそ、探されることのなかった彼の服にとか。


 シコフミさんが急いで宝物庫へと向かって行く。

 こればかりは他の兵士に任せるわけにはいかなかった。

 しばらくして、シコフミさんが戻って来るまで、皆が一言も発せないでいた。

 ただ、エスティールが徐々に近づきギョージ王子と肩が触れ合うほどに接近していたが、誰も指摘はしなかった。


「お待たせいたしました。国王陛下」


 ハッケヨイ王の前にジューリョ王子が当時来ていた服が置かれる。

 兵士達が探すより早く、震える手でハッケヨイ自身が服を探して行く。

 そして、内側にあるポケットに、それはあった。

 四つ折りにされたジューリョ王子の決意の証。


 震える手で、ハッケヨイ王は羊皮紙を開く。

 ハリッテ王子とギョージ王子が席を起ち、左右から覗く。

 慌ててセキトリも立ち上がり、玉座の後ろに回って覗き込む。折角なので僕も覗いてみた。


 父上、あなたは僕を王にしたいみたいですが、それは間違っております。二人の兄上は、共に僕に負担を掛けないようにと自分が王になると言ってくれました。優しい兄上達を持って、僕は幸せ者です。王位継承権を持つハリッテ兄さん、僕が王になるよりも、兄上が王になった方が国政はうまく回ります。僕には取捨選択ができません。あれも、これもどちらかしか手に入らないとしても、両方を手に入れようとしてしまいます。でも、兄上は違います。必要なものを手に入れ、手に入れるべきではないものを捨てる事が出来る。それは素晴らしい才能です。兄上に足りなかった内政知識は既に教えました。兄上が苦手な国防は、ギョージ兄上にお願いします。ギョージ兄上の武力の才、思い切りの良さは僕等到底及びません。だから、父上、僕ではなく、二人の兄上をちゃんと見てください。確かに偏った能力を持っているように見えるかもしれません。でも、兄上たちは二人が協力するだけで、僕が王になるよりずっと良い国に出来る能力を持っているのです。兄上たちは役立たずではありません。期待するだけ無駄などではありません。兄上達をもっと見てください。父上も、兄上たちもいがみ合うことなく、願わくば協力して国を良くしてくださる事を願い、僕は初めて取捨選択します。大切な家族のために、僕は、僕を捨てることにしました。

 愛する家族へ。ジューリョより。

 あとセキトリ兄上、あまり放蕩し過ぎないように。


 たぶん、幾つも幾つも最後のメッセージを考えたんだろう。

 こんな言い方の方がいいだろうか? 自分の想いを全て伝えるにはどうしたらいいか? その失敗作が、僕らが見つけた羊皮紙の束で、満足行く結果になったメッセージが、この遺書だ。

 あと……最後の最後で思い出したんだろう。走り書きで最後の一文が書き足されていた。


「ジューリョ……ああ、ジューリョぉぉぉ――――なぜ、なぜお前が死なねばならんのだ。死ぬ必要は、なかったはずだ。ああ。ああぁぁぁ――――っ」


「あいつは。俺たちの負担になりたくなかったのか。兄上と俺のどちらが王になっても、互いのフォローをできるように、万一親父が自分を指名することがないよう自分自身を選べなくするために……」


「バカ者め。なんてバカなんだ。ああ、ジューリョ。お前の想いに気付けなかった私は大馬鹿だっ」


「……俺、忘れられてた?」


 四人の王族たちはあまりの衝撃に泣き崩れる。

 ジューリョ王子暗殺事件の真相は、家族のすれ違いが起こした哀しい事件だった。

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