AE(アナザー・エピソード)・その王子の決意を王は知らない
「おい待てっ」
部屋に押し入って来た沙織、チグサ、チグサ、ケトル、エスティールを見て思わず止めに入ったのはギョージ王子である。
先程食らった腹へのダメージを眠って癒していたのだが、いきなり入って来た四人に思わず身を起こしたのだ。
御蔭で痛みに呻いてしまう。
「あら? 王子、ダメージは回復なされなかったのですか?」
「ふん。教訓だ。自分の思い通りに全てが行かないと自覚するためのな。俺は他人の想いに鈍感らしいからな」
舌打ちして告げるギョージ王子が立ち上がる。
私服とはいえ豪奢な服装を着た偉丈夫にほぉっと思わず声を上げるエスティール。
もともと近接戦闘を得意とする彼女はセキトリよりもこういった筋肉質の男が好みなのだ。
そのためギョージ王子の、服を張り裂きそうな肉体を思わず見つめてしまう。
「そんなこと気にしなくてもいいのに。あたしは別に嫌いって訳じゃなくてまだ結婚には早いって思ってるだけだし」
「ふん。それでも今は父を選んだのだろう。ならばお前の心の底にある思いを汲み取れなかった俺は鈍感ということだ。で? お前達は何しに来た? 振られた男を慰めに来た訳ではないだろう?」
「ああ、ジューリョ王子の死因を殺した相手を調べるためにまずは可能性のある王族の部屋から捜査しようってなってさ」
「ふむ。それでお前達がここに来たのか。つまり、この部屋を調べると?」
「ええ。いいの?」
「構わんさ。どうせ何も出て来ん」
家主の許可が下りたので早速捜索を始める三人。沙織は参加せずにソファに座った。
その横にギョージ王子がどかりと座る。
「なぁ、ジューリョ王子って、なんで殺されたんだろうな?」
「分かれば苦労はせんだろう。父は嘆き悲しみ俺か兄貴が殺したと思っているみたいだが、俺じゃない。俺はむしろジューリョには感謝してるんだ」
「感謝?」
「あいつはな。王になる気はなかったらしい。第一王子である兄貴がある時期から腑抜けになっちまってな。元は腹黒い男でやり手だったのに、すっかり萎れちまった。シコナなんぞに現を抜かしてやがる。となりゃ兄貴が王になっても国がダメになる。なら俺がやるしかねぇだろ? それをジューリョに伝えたんだ。お前か俺か、どちらが王になっても恨みっこなしだってな」
そう言ったら、なんて言われたと思う? そう質問してきたギョージ王子に、沙織は考える。
感謝しているというのなら、ジューリョ王子は彼にとって気に入る事が出来る返答をしたのだろう。つまり、謙遜とかは言わなかったはずだ。
「こっちこそ。とか?」
「ジューリョはな。言ったんだ。なら、僕が兄さんに足りない素養を教えるから、立派な国にしてね。とな。正直舐めてるのかと最初は怒りに震えた。上から目線にしか聞こえなかったからな。俺には素養が足りんと言われてるのと同じだ」
「そ、そりゃあ……」
「当時、8歳だ。8歳の弟に王になるための素養を教えてやると言われた俺の気持ち、わかるか?」
沙織は苦笑いしか返せなかった。自分が隆弘より小さい子供にお姉さん素養が足らないよ。と指摘されるのだ。確かに怒りが先に来るだろう。
「そう言われたのに、感謝してるの?」
「ジューリョは、本当にその日から俺に教育し始めたんだ。正直覚え易かった。他の教師から素養の授業聞かされるより普通に身に付いた」
複雑な心境だったのだろう。
「ジューリョは真剣に、俺に教えてくれたんだ。その御蔭で俺は自分に足りなかった物を次々に手に入れた。兵士に指示を出す術も、彼らの忠誠心を手に入れる術も、軍務に関わることをまず教わって、次に重役や他国の王と会う時の心得と作法。他にもいろいろ。いろいろだ。本当はもっと、もっとあいつに教えて貰いたかった」
「できた弟だな」
「ああ。いい弟だった。本来ならああいう奴が王になるべきだった。ジューリョが王になるのなら、俺は喜んで譲っていた。配下の者にもそれはよく告げていたからな。俺の部下にジューリョを暗殺するような奴は居ない。居てたまるか。そんな奴が部下だと知ってしまったら俺は……いや、まぁ、なんだ。そういうわけで、俺の陣営からジューリョをどうこうするような奴は居るはずがねぇ」
「じゃあ、怪しい人物とかは?」
「俺の見立てか? 親父はジューリョを溺愛してたからな。あいつが王にならないと何処からか聞いたら、もしかしたら憎悪で殺したりってのはあるかもしれん。だが、親父に限ってそれはないだろう。可能性は兄貴だが、兄貴もなんだかんだ言って結構ジューリョと親しかった。よく部屋に招き入れて数時間話しこんでたみたいだしな。でも俺とジューリョが勉強するために会っているのはあまりよく思っていなかったみたいだ。まぁ、勉強してることは秘密にしてたしな」
しばらく捜索したギョージ王子の部屋からは、何も見つかることはなかった。
探索が終わったのでとりあえず集合場所のジューリョ王子の部屋へと彼らは向かうのだった。
「あ、私ちょっとギョージ王子に聞きたい事があるので後で合流します」
エスティールだけは話を聞くため残ったそうな。




