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その彼の名を誰も知らない  作者: 龍華ぷろじぇくと
第四話 その家族のすれ違いを家族は知りたくなかった
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AE(アナザー・エピソード)・その通路がどこにつながっていたのかを彼らは知りたくなかった

「「……」」


 暗がりの通路に落下して、しばし、二人は無言であった。

 否、ただ無言ではない。

 コータが下でローアが上。思わず手を伸ばしたコータの掌はローアの小ぶりな胸をしっかと掴み、ローアの唇はコータの唇を塞いでいた。


 二人して目をパチクリして現状を把握する。

 そして、無言。ただただ無言。自分達がどういう状況なのか考えたくもないという思考放棄。

 しかし、それでも二人の自我は戻ってきてしまう。


「き、きゃあああああああああああああああああああああああっ」

「うわあああああああああああああああああああああああああっ」


 バシンっと強烈な一撃がコータの頬を襲った。

 理不尽だ。そう思ったコータだが、今回ばかりは何も反論できなかった。

 なにより、いろんな意味で、柔らかかった。


「な、な、な、なに? なんでこんなことにっ!?」


「それ、俺の台詞っ」


「煩いっ。こんなお子様にファーストキス奪われるとか、ありえないっ」


「それ、俺の台詞。っていうか、キスしてきたのあんただろっ」


「ちが、あれは……じ、事故よ事故。そう、今のは事故。そうでしょ! あんたが胸揉んできたのも事故。忘れましょ!」


「あ、ああ。うん。じ、事故だよな」


 わざわざ否定しても事態が悪化するだけなので、コータは頷いておく。


「そ、そそそ、それより、ここっ、どこかなぁっ」


「え? あー……」


 言われてコータも周囲を見回す。どうやら通路のようだが、灯りがないので暗くて周囲が見渡せない。


「光魔法とか使えるか?」


「え? いえ。ライトとかはサリッサに任せてたから」


「流石にランタンもねぇしなぁ。でも、とりあえず道はあるみたいだし、進んでみるか?」


「え? ええ、そうね」


 立ち上がると動き出すコータ。暗闇の中を堂々歩き出す。

 その背後をはぐれないように着いて行きながら、ローアは周囲に視線を走らせる。


「ね、ねぇコータ。あんた怖くないの?」


「ん? なんだよ。もしかしてこの程度の暗さが恐いのか? 俺、村に居た頃って夜は大体これ位だったからさ、むしろもう目が慣れてきたし結構見えるぞ?」


 そんなバカな。とローアは叫びたかった。暗闇は恐い。前世では特にゲーム中に落雷で停電、などになると真っ暗になる。あの突然暗がりに放り込まれる恐怖は、例え家に侵入者も何も来ないと分かっていても恐怖だ。さらに溜めこんだゴミ袋がカサカサと音を立て出すと、もう発狂してもおかしくはない。


「魔物とかは居ないみたいだな。ただの通路みたいだ」


 だから、思わず男らしく突き進むコータの服を掴んでしまっても、仕方のないことだった。

 ローアにとって光の無い世界は恐怖でしかないのだ。


「ちょ、ちょっとローア?」


 背中越しに引っ張られる感覚を覚えたコータがどうした? と振り向く。すると震えるローアがそこにいた。


「もしかして、恐い、のか?」


「ご、ごめん、暗いのは、ちょっと苦手かも……」


 頭を掻いて困った顔を浮かべるコータ。しかしすぐに何かを思いついた。


「しゃーねぇな。テッテも昔は夜恐いって言ってトイレよく連れてってやったからな。ほら、行こうぜ」


 少年は怯える少女の手を掴む。

 驚く少女の手を引いて、真っ暗闇の通路を導くように歩き出した。


「な、なんで、手を……」


「こうすると落ち付くらしいんだ。任せろ。俺が付いてる」


「っ……!?」


 暗がりで分からなかったが、息を飲んだローアが突然顔を伏せ、そのまま顔を上げなくなってしまった。

 それでも歩いてはくれるので、コータは彼女を連れてひたすらに前へと進む。

 いくつか分かれ道はあったものの、適当に選んでさらに進む。すると、突き当りに光が見えた。


「光!?」


「え? あ、出口?」


 歩くごとに近づく出口、その先に、人影が一つ見えた。

 逆光のせいで相手の姿は見えない。でも、出口があるというそれだけで、進む足が速くなる。

 互いに顔を見合い、笑みを浮かべる。


 あそこに辿りつければきっと大丈夫。

 不安な事はないはずだ。

 それでも、あの逆光の先にいる人物の姿は少し不安だ。

 ローアは手を握っているコータの温もりを感じ、きゅっと手に力を込めた。

 なぜだろう? それだけで前に進む勇気はおのずと湧いて来た。


 この人と一緒なら大丈夫。

 確信にも似た不思議な感覚。

 前を進む少年を見る。その真剣な顔を見ていると、なぜか顔が熱くなり、心臓が高鳴って行く。

 あれ? これってまさか……

 あり得ないと思いつつも、自覚し始めて行く感覚に彼女は戸惑いしか覚えなかった。


「そこの人、悪い、どいてく……れ?」


「……お?」


 光の元へ辿りつく。その先に居たのは緑の少女。

 コータとローアを見付けたアルセは、何故彼らがクローゼットの奥からやって来たのか理解できず、小首をかしげるのだった。


 隠し通路は、ジューリョ王子の部屋に繋がっていた。

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