AE(アナザー・エピソード)・その執事とメイドが犯人なのかを彼女たちは知らない
「初めまして。元ジューリョ王子の執事をしておりました。レーバンスと申します」
「私は食事係として食事を運んだ当時のメイド、デイジーです」
二人の挨拶を聞き、アカネとモスリーンは自己紹介を行う。
アニアとレーシーも自己紹介を終えると、早速本題に入ることにした。
「じゃ、当時の事、教えてくれる?」
「はい。食事はいつも通りの時間でした。夕食は午後7時前ですか。お時間になられましたので私がジューリョ王子にお伝えし、食堂へと御案内させていただきました。その時来ていらしたのは国王陛下とハリッテ王子、その従者でございます。ギョージ王子とその従者は少し遅れてやって来られました」
これだけの話だと先に来ていたハリッテ王子派には毒を入れる時間はあったとも思える。
といっても国王の目を盗んでとなると少々難しい。
「全員の座席は?」
「国王陛下が上座。ハリッテ王子は右隣、ギョージ王子が左隣り、ジューリョ王子はハリッテ王子の隣でした」
つまり、ギョージ王子は遅れたからと言ってジューリョ王子の後ろを通り際に毒を料理に仕込むといった方法は使えそうにない。
アカネはふむと考える。
「次は、えーっと、デイジーさんの話をお願いします」
アカネが考え込んでしまったのでモスリーンが質問を引き継ぐ。
「はい。私は厨房からこちらへと食事をお運びしました。状況としましてはメイドによって担当の王族が分かれておりますのでジューリョ王子の食事は全て私が運ぶように決まっております。そのため一番に疑われたのですが、毒を入れるような時間はなかったということで今は犯人候補から外されております」
「彼女は即座に行われた身体検査で全身くまなく担当官に見られましたが、何処からも毒は検出されませんでした。そのため私共々無罪となっております」
当然ながら自分も身体検査を受けたと告げるレーバンス。一瞬デイジーが彼の尻に視線を向けたが、身体検査で何処まで見られたのかは、モスリーンは尋ねる気すらなかったのでスルーしておく。
「つまり、貴方達は白だと?」
「一応、今までの話ではそうなっております。しかし、我々も不思議なのです。ジューリョ王子は皆からとても慕われておりました。毒殺される訳が無いのです。我々も暗殺には気を配っておりましたし。それに……」
何かを言おうとして、押し黙るレーバンス。
「続けて。何かおかしなことでもあったのかしら?」
「はい。実は、陛下達にも伝えたのですが、信じて貰えず、その、私、実は同じ食事を毒見で食べております」
「え?」
「は?」
「毒殺防止のために王族は食事を食べる前に毒見役がいるのです。ジューリョ王子の毒見は私めがやらせていただきました。その時半分ほどを頂きましたが、私はこのように、生存しております」
「成る程。では食事に毒はなかったと?」
「分かりません。私が食べた時点では毒はなかったと思うのです。その後、私が使ったスプーンやフォークを使い、食べていただきました。もちろんナプキンで拭ってからですが」
「そのナプキンに毒があった可能性は?」
「ありません。すぐに調べられましたが出ませんでした。食事にも、食器にも。いえ、口にしたスプーンとその中にあったパエリアにはしっかりと毒がありました。あれは、青酸カリというものでしょうか。ジューリョ王子が毒殺された。その事だけは確かなのです」
再びアカネが考えだす。
モスリーンにはもはや訳のわからない殺害現場だ。
皆が見ている前で、毒見の後にジューリョ王子だけを毒殺するために毒を仕込む。そんな芸当、一体誰ができるというのか?
「他に気になった事は?」
「ありません」
「私も……ないです」
視線をうえにあげて考えたデイジーも同じように告げる。
じゃあ終わり。そう思って二人にありがとうございました。と告げようとしたモスリーンを制し、アカネが最後に質問をぶつける。
「ジューリョ王子なんだけど、薬を常用していたりとか、してない?」
「クスリ、ですか? そう言えば数日前から頭痛薬を……まさか、アレが?」
「可能性があるなら調べるべきよ。その頭痛薬の場所は? それと最後はいつ飲んだの?」
「クスリはカプセル型。別の国の魔物のドロップアイテムです。場所はまだジューリョ王子の部屋の机の引き出しに。飲んだのは……食事の30分前頃だったかと」
「可能性を見付けたわね。次はアルセ達に合流だわ。急ぎましょ!」
言うが速いか立ち上がると同時に走り出すアカネ。なぜかウキウキしていた。
後を追って走るアニアが部屋を出て行くと、遅れたモスリーンとレーシーが困った顔で立ち上がる。
「すいません、御協力ありがとうございました」
「いえ。こちらこそ。我々も真犯人を早く捕まえてほしいのです。必ずや犯人を捕まえてください。引き渡して戴ければ私の知る拷問術で死んだ方がマシだと思える地獄を与えたく思いますので」
思考が物騒過ぎる。モスリーンは苦笑いしながらレーシーと共に食堂を後にするのだった。




