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その彼の名を誰も知らない  作者: 龍華ぷろじぇくと
第三話 その家族を守る英雄がいることを彼らは知らなかった
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その家族を救う術を僕は知らない

 静代が駆け去って行く。

 言葉を掛けそびれた唯野さんは、伸ばした手を所在なく下げた。

 やはり、あの人はムリだと思う。


「バグさん、止めてください」


 僕が何か行動するより先に、唯野さんが呟いた。

 何を? とは言わないし思わない。

 僕がやろうとしたことなど一つだけ。あの女性をバグらせてしまおうと思っただけだ。

 そうすれば、今よりはマシになるかもしれない。


「静代をバグらせるのは、止めてください。ああなったのは、私のせいでもあるのです」


 ソレは分かってるけど、今のままじゃ家族一緒にっていうのはムリだよ。


「長い時間が掛かるかもしれません。でも……」


 駆け去った彼女を追うでもなく、唯野さんは僕へと振り向く。

 先行してやって来たので僕と唯野さんしか居ない。なので、今の状況は彼が一人で話をしているようにしか、見えない状況だろう。

 なのに、唯野さんは僕に対して膝を突き、両手を床に、そのまま土下座をして来た。


 誰もいない廊下で土下座するサラリーマン。

 しかもその土下座は四角い箱にそのまま入ってしまいそうなほど完璧な土下座であり、見る者全てを圧倒するような不思議なオーラがあった。

 こんな土下座をされると、許さざるをえないではないか。そう思えるほどに完璧な土下座である。


「お願いします」


 やらないよ。そこまでされてまでバグらせる訳にも行かないじゃないか。

 肩を叩いて唯野さんを起たせる。

 唯野さんが立ち上がると、ドアの前で何かあったか気になったのだろう。そっとドアが開いてハリッテ王子が顔を出す。


「おや、唯野さん。何か御用で?」


「え? あ、ええ。妻を探していたのですが、行き違いになってしまって。どうしたものかと所在無げに立っていただけですよ。お気になさらずに」


「そうですか?」


 首をひねるハリッテ王子に暇を告げ、僕と唯野さんは皆の待つ謁見の間へと向かう。

 既に皆揃っているだろう。ギョージ王子のせいで止まってしまった本題を話すそうで、王様からもう一度集まってほしいと言われたのだ。


「ふぅ、分かってはいましたが、妻のあの態度を見ると、ちょっと痛いですね」


 心臓のあたりに手を当て、溜息を吐く唯野さん。

 妻である静代がこの人を嫌っている事は彼自身も気付いていたのだろう。

 今回は好機だ。本来ならば近いうちに破綻を迎え、子供達が妻に引き取られ一人路頭に迷う唯野さんが居ただけだろう未来から、彼は息子と娘をもぎ取った。

 家族としてやりなおすのならば、後は妻だけなのだ。


 最大の難関であり、彼女の思考を変えることは無謀であるともいえる。

 そもそもが既に彼女は答えを出しかけているのだ。自己完結している可能性すらある。

 いつ、離婚しましょう。と告げられてもおかしくない状況なのだ。

 それでも、唯野さんは必死に繋ぎとめようとしている。彼にとっては息子がいて、娘がいて、妻がいる。それが家族であり、静代、沙織、隆弘。その全員が揃って初めて家族をやり直せるのだ。

 誰か一人が欠けるなど、欠けてしまうなどあってはならない。


「バグさん。すでに、遅いのでしょうか? もう、家族を取り戻すのは無理なのでしょうか?」


 弱気な唯野さんに僕は何も反応出来ない。

 でも、彼は自分に言い聞かすように、一歩を踏み出す。


「それでも、私には、隆弘がいて、沙織がいて、静代がいる。それが私の家族なのです。だから。諦めません。あまりいき過ぎるとストーカー扱いされてしまいそうですけどね、はは」


 それが問題でもあるんだよなぁ。

 既に愛してないとなると静代さんからすれば執拗にやり直しを迫って来るストーカー夫になりかねない。

 だからこの案件は慎重に事を運ばないといけないと思うんだ。

 リエラやアルセが手伝ってくれるとは言ってたけど……アルセの超幸運でなんとかなんないかな? 僕にはもう打つ手ないし。


 謁見の間に辿りつくと、やはり僕らが最後だった。

 玉座に座る王様が唯野さんに気付いて話を始める。


「さて、話の途中でギョージが迷惑を掛けた。セキトリを呼んだ理由は先程言った通り、ジューリョを暗殺した人物がこの王城に居るということだ。ハリッテかギョージかそれともどちらかの陣営に存在する誰かか。とにかく二人のどちらかを時期国王にするには不安があった。だから、お前を呼び寄せた。お前ならば国から離れていた以上、ジューリョ暗殺に関わってはおらんからな。その点で言えば安全なのだ」


「父上、それ、俺の安全考えてませんよね。状況から言ってジューリョを殺した相手が俺を狙って来るだけでしょ。このまま俺が国王になったら暗殺される未来しかないんじゃないか?」


「セキトリ王子、口が過ぎますっ」


「よい。セキトリの言葉ももっともだ。私もそう思う」


 王様は素直に告げる。酷いなおっさん。この人セキトリを囮に使うつもりだ。


「もちろん、我々もセキトリを警護はするが、アルセ騎士団の面々にはこれよりジューリョ暗殺犯を暴きだして頂きたい。もちろん、これは指名依頼としてギルドを通して引きうけて貰う手筈になっている。成功は犯人の特定。期間はセキトリの王位継承まで、依頼の失敗はセキトリの死亡だ」


「ちょぉいっ!? 依頼失敗が俺の死っ!?」


「どうするのリエラ?」


「当然、受けますよ。暗殺犯がいるなら暴いておかないと国が傾きかねませんし、パーティーの名声にも繋がるでしょう? ここで断ると唯野さんのことも中途半端になってしまいます。あとセキトリ君の安全も心配だし」


「それ、俺ついでですよね!?」


 二つ返事で受けたリエラに満足げに頷く王様。ギルドへの通達はシコフミさんがしてくれるそうです。

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