その漢たちの決闘を止める術を彼らは知らない
「ルールは簡単だ。己の肉体のみで相手を制す。勝利条件は相手が敗北を認めた瞬間」
「ふむ。それでは気絶したあとも継続ということで?」
「ほぅ、気絶前提でまだ突っかかるつもりか。おもしれェ、その気概、どれ程持つか楽しみだ。徹底的にぶっ潰してお前から娘を差し出しますと言わせてやろう」
「娘は絶対に、差し出しはしない。家族は私が守り切る」
再び両者対立して火花を散らす。
決闘所の中央で向い合った二人はしばし互いを睨みつけ、やがてどちらからともなく距離を取った。
唯野さんはネクタイをきゅっと絞める。
今の装備はアルセのヒヒイロアイヴィ装備一式だ。アルセネクタイは濃い目の緑色。Yシャツは薄い緑でその中間色のスラックス。
ただいま防具屋で追加発注しているメガネフレームは、出来次第今のメガネと交換するらしい。
レンズ部分、どうするんだろう?
「つか、流石に親父、無謀じゃないか?」
「そ、そう思うなら止めろよ!」
ゲームしながらちらりと唯野さんを見た隆弘の呟きに沙織が喰ってかかるが、隆弘は気にした様子を見せずにゲームへと視線を落とす。
「止めるんならねーちゃんだろ。親父が今闘う決意したのねーちゃんのためだし」
「そ、そりゃそうだけど。ほら、有難迷惑っつーか。あたしそこまでギョージ王子嫌いってわけじゃねーし」
「それ、親父に言えばいいじゃん。私はギョージ王子と結婚したいですって」
「いや、結婚となると、その、な?」
まだ学生の身。結婚と言われても実感が湧かないんだろう。
こっちの世界だと丁度結婚適齢期なんだけど、日本だと最低でも18歳くらからの結婚が多いからなぁ。一応16歳からできるっちゃ出来るらしいけど。実感は湧かないと思う。
「セキトリ様、ギョージ王子は王になる気みたいですけど、大丈夫ですよね?」
「へ? 何が?」
「だってセキトリ王子が王位継承するんでしょ?」
「私もそう聞きましたわ」
セキトリ君に疑惑というか、不安な顔で質問をしているのが聞こえた。
モスリーン、マクレイナ、エスティール、ついでにローアも群がっているのだが、何やら雲行き怪しくなってるな。大丈夫かセキトリ君。爆死するのは勝手だけど、今は止めてね。唯野さんの闘いを大人しく見ててください。
「ふーん、人間って変なことするのねぇ。欲しい女性がいるならそいつと直で賭けやって勝てばいいじゃない」
レーシーさんと一緒にしないでください。というかそれで負けた場合森ごと差し出すとかどんだけギャンブラーなの?
「るー」
「ありがと」
チグサとケトルはルクルさんのカレーでほっこりしてます。
ついでにアニアとアカネも貰って食べだした。
アルセも食べる? あ、もう貰ったのね。
リエラが貰うのを見ながら、アルセと一緒に観戦する。大丈夫かな唯野さん。
僕等とは逆の観客席に王様がやって来る。護衛と共に現れ、その横に三人の男女。
男一人と女性二人がやって来ていた。
「アレが第一王子。俺の兄さんのハリッテ王子だ。隣に居るのは婚約者のシコナ。シコフミの娘らしいよ。もう一人は……」
「唯野静代。僕らの母さんだよ」
セキトリの説明を引き継ぐ形で隆弘がぼそっと告げる。
アレが二人のお母さんで唯野さんの妻か。
なんか無駄におめかしして洋風のドレス着た婦人になってるんだけど。
そんな彼女は唯野さんを見てうわっと言った顔をする。
その顔を見た瞬間、ああ、あの人は唯野さん心底嫌ってるんだなぁ。と本能的に理解してしまった。
残念だけど唯野さん。あの人を救うのは諦めた方が良いと思うよ。子供たちはまだ大丈夫だけど、あの人と一緒に居るのは、多分無理だ。離婚した方が良いと思う。
双方にとってそれが一番だ。後で伝えておこう。
宰相であるシコフミさんが決闘所に降りて来ると、二人の間に入り、ゆっくりと後ろへと下がる。
どうやらレフリーみたいな役割をするつもりのようだ。
始まる決闘に、唯野さんが大きく息を吐く。緊張しているのだろうか?
対するギョージ王子はふぅーっと息を吐くと気合いを入れ、筋肉を盛り上げる。
「双方用意はいいわね。国王陛下の御膳である以上、ギョージ王子への攻撃は王族侮辱罪や暴行罪にはなりません。これはあくまで決闘。双方如何無く力を振るい己の主張を押し通してください。では……開始っ」
ついに、始まった。
拳を握ったギョージ王子が走る。
対する唯野さんはまだ緊張しているのだろうか、迎え撃つ態勢だ。
振りかぶられた拳をしっかと見て腕をクロスして受ける唯野さん。
だが、想定以上だったらしい。拳を受けた唯野さんが吹っ飛んだ。
モノッ凄い勢いで数メートル飛んでゴロゴロゴロっと地面を転がる。
一瞬にしてスーツが土塗れだ。
しかも顔面に食らったせいでメガネフレームがひしゃげてメガネにヒビが。
開始数秒でいきなり大ピンチだ!?




