その王子の告白を彼らは知りたくなかった
「我が名はルグス・タバツキカ。ノーライフキングである」
「こいつは偉そうにしてるけどただのやられ役だからそこまで気にする必要はないわ」
アカネさんが宰相のシコフミさんに告げる。
ルグスに気圧されてる彼女を見て忍びなく思ったのだろう。
ルグス相手に気圧されるメンバーはアルセのパーティーにはいないからなぁ。ただの猫好き骸骨になってるし。
「ふっ。私は力水大森林の守護者、レーシーよ。この近隣の森全てを守ってやってるんだから、感謝なさい! なんでか冒険者ギルドの方に討伐依頼でてたけどねっ」
ふんっとイラついたように言うレーシーさん。別に怒っている訳ではなくただのツンデレさんらしい。
「国王陛下への謁見なのに、これ程無礼な面子は初めてです」
「よいよい。我としてもこのような面子と分かっていれば不敬などと思うことは無い。そもそも特殊なパーティーであるしな」
話の分かる国王でよかったよ。本当に、下手に激昂してたら滅んでたよ、国が。
「それで父上。私をコルッカの冒険者ギルドを強制卒業させて呼び戻した理由を詳しくお聞きしたいのですが」
「セキトリ。うむ。実はな。一月程前の事だ。第四王子ジューリョが毒殺された。食事の席でいきなり血を噴き出し倒れてな。介護空しくそのまま他界してしまった……」
泣きそうな顔で告げる国王陛下。
確か、この人がハッケヨイで、宰相がシコフミ、王子はハリッテ、ギョージ、セキトリ、ジューリョ……なんだこの一致。ドドスコイ王国で近くの森は力水……大関はどこですか?
「ジューリョは確か父上の肝入りで次期国王の呼び声が高かったと存じています」
「うむ。本来は第一王子であるハリッテに王位継承権があるのだろうが、幼いながらもジューリョはとても聡明な子でな。儂もあの子に王としての政務を早々任せていた。本当に、とても賢い息子であった」
実の息子相手に弟の方が優秀だっていうのはどうかと思うのだけど。王様気付いてないよね?
「だが、誰かがジューリョを暗殺してしまった。犯人は疑いたくはないが身内以外にあり得ない。おそらく王位継承を狙ったハリッテかギョージ、あるいは二人のどちらかが王になることを望む臣下たちだろう」
額に手を当て、溜息を吐くハッケヨイ国王。
「犯人の目星は?」
「分かっておれば勇者など召喚はしておらん。もはやどちらの陣営かもわからんので勇者殿に解決をして貰おうとシコフミに召喚して貰ったのだが……」
「現在四人の勇者は家長唯野忠志様と隆弘様が此処にいらっしゃいますが、妻の静代様は第一王子に付きっきり、娘の沙織様は……」
「戻って来たか忠志っ」
ばんっと扉を開き、男が一人、無遠慮に謁見の間へと現れた。
兵士達が止めるのも聞かずづかづかとやって来たのは、ラガーマンもびっくりのガタイを持つラグビー選手並みのマッチョ男。一応王子っぽい服を着ているのでこの国の王族か貴族なのだろう。
「これギョージ、今は謁見中だ」
「硬いこと言うな父上よ。はは、セキトリも居るじゃないか。久しいなぁ我が弟よ!」
「ギョージ兄さん……」
「はっ。噂は本当らしいな。一著前に女連れかセキトリ。随分といい女を揃えてるじゃないか」
「これは違……」
言い訳しようとするセキトリを無視し、ギョージは唯野さんの前に立つ。
未だ傅き状態で顔を上げた唯野さんを仁王立ちで見降ろすように立ったギョージ王子は、獰猛な笑みを浮かべた。
「喜べ忠志。お前の娘、沙織は俺が貰うことにした。結婚式は明日にでも行うぞ」
「……は?」
ぽかんとした顔でギョージ王子を見上げる唯野さん。意味が分からないと言った顔をしている。
「ちょっとギョージ王子っ。あたしと結婚ってどういうことだよっ。あたしは結婚したいなんて一言も言ってないし思っても……あ」
慌てた顔で駆け付けて来た女性が謁見の間に入った瞬間、面々を見てマズイ場所に来てしまった。といった顔をする。
その顔が唯野さんを見た瞬間、嬉しさを滲ませるが、直ぐに現状を把握したのかギョージ王子につかつかと歩み寄ると、喰ってかかる。
「あたしは現代世界に戻るっつってんでしょ」
「だが、好きな男はおらんのだろう?」
「それは、そうだけど……」
「ならば問題無い。俺と婚約すれば王族だ。どうせシコフミが異世界に戻せるのだ。行き来しながら通い妻でもよいではないか。俺が王となった暁にはお前は王妃だ」
「そういう問題じゃ……」
「そういうことだ。いいな忠志! お前の娘を貰うぞ」
女性の話を聞くことなく、一方的に告げるギョージ王子が用事は済んだと立ち去ろうとする。
女性はなおも何かを言おうとするが、取り合う気配の無い王子に手を向けて、でも直ぐにその手を降ろす。
一瞬だけ父親に視線を向けるが、自分の父である唯野忠志には期待するだけ無駄だ。そんな顔をして俯く。
「……待ちなさい」
だけど。すでに一歩を踏み出した彼が、このような理不尽を黙っていられるわけなど、なかった。
男、唯野忠志は立ち上がる。
自慢の娘が王族とはいえ、男の都合で結婚させられそうになっている。
娘の意志を無視しているのだ。これは祝福できる結婚などでは決してない。
ならば、父として、これを許容するなど……出来はしない。
「その結婚は、賛同しない」
ぴくり。ギョージ王子の動きが止まる。
背後に首だけ向けて、今にも人を殺しそうな顔に青筋浮かべ、唯野さんを睨みつけた。
「……なぁにぃ?」
今までの唯野さんならびびって俯き、そのまま何も言ってません。と呟いていただろう。
「娘の意見をないがしろにする馬の骨に……娘はやらんッ」
だけど、彼は既に殻を破った。強敵に立ち向かう術を手に入れた。勇気を持った英雄が、家族の危機を黙って見過ごすわけがない。
王子を相手に、唯野さんはしっかと床を踏みしめ、漢らしく言い放った。




