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その彼の名を誰も知らない  作者: 龍華ぷろじぇくと
第三話 その家族を守る英雄がいることを彼らは知らなかった
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その変わり過ぎた存在を彼らは知りたくなかった

 すたり。

 ほとんど無音に近い動きで地面に落下して来たのは、嫉妬の悪魔、エンリカ様である。

 なぜ、彼女がここに? 背後に立たれたアカネは目を見開き全身から脂汗を流しだす。


 背後に何か物凄いモノが現れた。

 それを理解しているけれど振り向けない。

 ソレがゆっくりと立ち上がる。ゆらりと身体を起こし、乱れた髪を掻き上げ、ニヤリとアカネを見た。


「誰が……血染めの女拳帝様なのかしら?」


「あ、ああ、はあぁぁぁぁぁっ!?」


 思わず声を漏らすアカネの肩にもたれかかるようにエンリカさんの顎が乗る。


「な、ななな、なぜ、ここに……」


「あの二人のトラウマが克服できたから……来ちゃった♪」


 こわっ。なんか知らんけど異常に恐い。


「とりあえず、初めに謝っておくわねアカネ。やり過ぎて、ごめん」


 やり過ぎ?

 疑問に思う僕らを放置し、エンリカはアカネから離れる。

 すると、同時に空から二羽の空軍カモメと共にリファインさんとメイリャがやって来た。

 メイリャが着地に失敗して尻持ちを突き、リファインさんが巨大な大剣を肩にしょって両足で着地、そして大剣を手にして思い切り地面に突き刺す。


 あれ? リファインさんの武器って弓じゃなかったっけ?

 確か遠距離の補助タイプだったような気が……

 そんなリファインさんは優しげだったはずの瞳をきゅっと細め、威厳ある瞳で紫炎蜉蝣のメンバーを睨みつけるように見る。


「紫炎蜉蝣ッ! 整列ッ!!」


 怜悧な声が高らかに響く。慌てたようにメイリャさんがリファインさんの前にやって来て直立不動になる。

 しかし、コータたちは事態を把握できずにただただ呆然としていた。それを見たリファインさんが再度口を開く。


「整列しろと言ったぞ愚図共がッ!!」


 大喝に慌ててメイリャの横に整列する紫炎蜉蝣のメンバー。なぜかルティシャさんもハイネス君の横に並んでいらっしゃる。いや、サーロとルーシャと唯野さんは並ばなくていいんだよ?


「点呼ッ!」


「一ッ!」

「へ? あ、二ッ!」

「さ、三ですっ」

「四」

「五、でいいですか?」


 メイリャの張り上げた声に釣られてコータ、テッテ、アマンダ、ハイネスの順に告げる。

 唯野さんたちも応えようとしてたので唯野さんの口を塞いでおいた。

 だから、ルティシャさんは紫炎蜉蝣じゃないよね、同じクランだけど。六って言わなくていいから。あとサーロたちも七、八とか言わなくていいから。


「諸君、今まで不甲斐なき駄犬であった私に付いて来てくれた事を誇りに思う。以後も、エンリカ教官よりトラウマを克服した私に付いて来てほしい」


 張りのある声で告げるリファインさん。どう見てもあの優しそうだった頃の面影が消えてます。

 エンリカ何をした?


「ね、ねぇ、エンリカ……あれ……」


 アカネさんが震えながらリファインを指差しエンリカを見る。


「トラウマが酷かったからプリカのお爺さんが昔エルフ防衛団を組織する時にやってた軍隊訓練法やったんだけど……やり過ぎちゃった。えへっ」


 なるべく可愛らしく告げるエンリカさん。いや、それで済む問題じゃないよねコレ?


「あはは。二人とも・・・・ちょっとやり過ぎたみたいで」


「え? メイリャは普通よね?」


「とりあえずどっかで魔物と闘えば……」


「レーシー、一匹いい?」


「ワーグウルフでよければ。はい、呼んだわよ?」


 レーシーが言うが速いか、茂みを掻きわけワーグウルフが現れる。


「メイリャさん、御所望よ」


 エンリカの声で動き出すメイリャ。

 迫るワーグウルフに背中から取りだしたフレイルを両手で掴んで突撃する。

 って、待って、あの子回復魔法使う神官さんだよね!?


「オルァ死ねやぁぁぁッ」


 とっかの特攻部隊みたいなドスの聞いた声を迸らせ、メイリャが突撃。ヌンチャクみたいに鎖でつないだ二節のフレイルを思い切り振り抜く。


「ゴアァっ!?」


 ワーグウルフが爪を振るより速く、メイリャの一撃が脇腹に直撃。

 呻いたワーグウルフに、足を踏み出し踏ん張ったメイリャの切り返しによる二撃目。

 くの字に折れたワーグウルフの側頭部にクリーンヒット。


「脳漿ぶちまけろクソがッ。蛆虫がッ。去勢すっゾこの×××野郎がァッ」


 倒れたワーグウルフにさらに連撃を加えるメイリャさん。まるでバーサーカーだ。

 飛び散った血で身体が穢れるのも気にせず、むしろ頬の血飛沫を舐め取りながらサディスティックに嗤いだす。


「あはははははは、気持ちいい――――っ♪」


 あかん、これ完全に壊れてるヤツだ。


「あの……エンリカ……?」


「じゃ、確かに二人とも送り届けたから。帰るわねーっ」


 ギギギっとアカネがエンリカに振り向いた時、既に彼女は自分が乗って来たマホウドリの首に捕まり大空へと舞っていた。


「待て、待ちなさいエンリカッ! あんたこれどうすんのよっ!? 二人とも太陽の絆から預かってるのよっ!!」


 叫ぶアカネ、しかしエンリカが返事をすることは無かった。遠く、大空へと羽ばたく鳥に連れられて、エンリカさんは自宅へと帰って行ったのでした。

 めでたし、めでたし……いや、めでたくなし、めでたくなし。

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