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その彼の名を誰も知らない  作者: 龍華ぷろじぇくと
第三話 その家族を守る英雄がいることを彼らは知らなかった
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AE(アナザー・エピソード)その父の行方を彼は知らない

「……遅い」


 ゲーム画面から顔を上げた隆弘は、思わず呟いた。

 隣で玉座に座っていた国王ハッケヨイが声に気付いて顔を向ける。


「どうした? 何が遅いのだ?」


「親父、結局どっかのパーティーと冒険に出たって聞いた後、全然連絡が付かないじゃないか。どうなってんの?」


「ふむ。どうも向こうにも影がいるらしくてな。ソヤツの妨害により対象パーティーの元に辿りつけてないようだ」


「何だよソレ! じゃあ親父が無事かどうかわかんないんじゃんか!」


「そうは言うがな。一応生存しているらしいとは分かってもそれ以上は情報が……」


「なら僕が行く」


「隆弘が!? いや、しかし……」


「僕勇者だろ。力だってあるし、レベルも上がってる。外に出たって問題無いだろ。行って来る」


 流石に国王は慌てた。確かに彼はレベルが上がっている。外の魔物が相手でも充分闘えるだろう。

 だが、ソレは雑魚敵のみである。ワーグウルフやトサノオウに出会った時、闘えるか勝てるかと聞かれれば、首を横に振らざるをえない。

 しかし、国王が止めるより早く隆弘は一人出て行ってしまう。


「いかん、宰相、急いで空いている兵士を護衛に付けよ!」


「はっ!」


 慌てて去って行く宰相。

 気が気でない国王は不安感に顔を歪ませる。

 できるならば自分が守りに行きたいが、自分は国王であり、面接はまだまだ残っている。この場から動くことが出来ないのだ。


 忸怩たる思いで隆弘の後ろ姿を見送る。

 ハッケヨイは椅子に深く腰掛けると、ふぅっと息を吐きながら虚空を見上げた。

 なぜ、自分は王になってしまったのか。思わず遠い過去の自分を恨んだ。

 若い頃は自分が王になるのだと、他の王子達を蹴散らすつもりで王と成った。王になってからはずっとこの椅子に座り続けた。今では痔が持病となってしまったし、運動をしてないせいで身体はだるんだるんになっている。


「我ながら……随分と、年老いたものだな」


 彼が何を思い呟いたのか、ソレを聞いた者すら、ここには誰もいなかった。




 城をでた隆弘は、後から慌てて付いて来た二人の兵士と共に冒険者ギルドへと向かった。

 ギルドに辿りつくと、ギルド長を呼び付ける。

 流石に勇者を名乗る兵士を連れた少年が相手だと、ギルド長も慌てて出てこざるをえなかったようだ。

 血相変えた彼から父親の居場所を聞き出す。

 と言っても、今まで報告にあったことと大して変わらず、森に向ったまま行方知れずだそうだ。


 アルセ姫護衛騎士団が森で何か用事があると言っていたそうで、その付き添いで野宿しているんだろうという甘い考えを聞かされ、隆弘は憤慨したが、ギルド長に当っても仕方無いのでギルドを後にする。


 兵士に装備を整えましょうと言われたが、急いで探したかったのと、自分なら大丈夫という根拠のない自信で、隆弘はそのまま国を出ることにした。

 慌てる兵士は必死に隆弘を見失わないように付いて来る。


 国を出る時、門番に何かを伝えていたが、隆弘は気にすることなく森へと分け入って行く。

 魔物が直ぐに現れた。

 耳掻き狐というこの森でよく見る魔物だ。

 弱い魔物なので隆弘は魔法を使って一撃で倒す。


 ほら見ろ。僕一人で充分じゃないか。護衛の兵士なんて必要なかったんだ。

 そう思いながら、彼に必死に付いて来ようとする兵士たちを流し見る。

 父親を探しに行くだけなんだ。兵士を連れて来る意味が分からない。


 次に森から現れたのは人型の兎だった。

 まるで冒険者の魔法使いみたいな服装をしている雌兎だ。

 こんなのも出るんだな。と魔法を唱える。


「ちょ、ちょっと待った! 私冒険者! 魔物じゃないしぃっ」


「え? 冒険者?」


 魔法を放つ寸前、危機を察した兎人間が慌てて否定する。


「ルーシャどーした?」


 茂みの奥から現れたのは男の冒険者。


「ああもう、サーロきーてよー。このガキ……男の子が私に魔法打とうとしてきたのーっ」


「なんだとっ。おいクソガキ! 俺のルーシャに……ってあれ? こいつ誰かに似てね?」


「えー? 誰に……あれ? 唯野のおじさん?」


 思いがけない言葉に隆弘の方が驚いた。


「あ、もしかしてあんたたちがルーシャとサーロって冒険者か。親父のこと知ってんの? 今どこ居るか知ってる?」


「あ? あー、あれお前の親父さんなの? あの人は今なにやってんだろーな。俺は知らな……」


 ぴくんっとルーシャの耳が何かを拾った。慌てて逃げ出すルーシャを見てサーロが言葉を止める。


「おい、どうしたんだよ?」


「逃げろガキ、ヤバいのが……」


 サーロの言葉が終わる前に森から飛び出したトサノオウ。

 体当たりを喰らう形で兵士二人が吹き飛ばされた。

 バックアタックだ。

 背後を全く警戒していなかった隆弘は、突然現れた巨大な土佐犬にただただ呆然とするしかなかった。


「え?」


「マジィ、オラこっちだトサノオウ! 俺が囮やってやるぜ。なんせダメージくらわねーし!」


 自分に被害が来ないと分かっているからだろう、サーロはヒノキの棒を装備してトサノオウの後ろ足を殴りつける。

 おそらく、1のダメージ。

 トサノオウは一瞥しただけでサーロを無視して目の前に佇む隆弘を眼下に収める。


 魔法を唱える。

 その程度の思考すら一瞬で真っ白になっていた。

 トサノオウが無造作に前足を振りあげる。

 なんとか逃げようとして、足がもつれる。

 尻から地面に倒れた隆弘は、思わず叫んでいた。


「うわあああああああああああああああああああああああ――――っ!?」


 絶対的強者を目の前にして、彼の自信など一瞬で吹き飛んだ。下半身に暖かな液体の染みが広がって行く。

 見上げる瞳にゆっくりと振り降ろされる前足が見えた。

 死ぬ。殺される。逃げる余裕など全く無い。


 迫り来る死に隆弘は叫んでいた。

 助けてと。誰でもいいから、助けてくれと。

 その脳裏に浮かんだのは、目の前にいた兵士でも、父親代わりの国王でもない。サーロでもルーシャでも、姉や母でもなかった。

 今際いまわきわに浮かんだのは……


「助けて、助けて……お父さぁぁぁぁん――――っ!!」


「たかひろぉぉぉぉぉ――――っ!!」


 幻聴が……聞こえた気がした。

 否、それは幻聴としか思えなかった。

 だけど、少年の目に、確かにそれは映ったのだ。

 夢にまで見た物語の一場面のように、自分を守るための英雄が現れるのが。

 幼き少年の目に、その男の背中は、確かに焼き付いた。

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