その誰かの危機を彼は知りたくなかった
「って、いつまで野営するつもりよ!?」
その日、既にパーティーになじみ始めていたレーシーさんの一言から始まった。
レーシーがパーティーにふらふらと寄ってきて一緒に寝泊まりして早一週間。
いつの間にか長居してしまいました。
水魔法でお風呂まで作って、なんかもうアウトドアなのに自宅のような寛ぎ空間。
こういう時だけ全裸になろうと気にせず魔法を使うアカネは、日本と同じ生活環境にするためならば遠慮と言う文字を辞書から消したかのように新たな魔法を連発で作り出して屋根の無い家を作って御満悦。
アラクネは既に唯野さんの装備一式作り終えていたものの、折角なのでリエラの鎧の下に着る服とかもヒヒイロアイヴィで作って貰っていたのだ。
なので一週間も森の中で生活してしまった一堂。
戦闘については互いに闘い合うことで補っていたし、唯野さんも手加減したチグサと互角に打ち合える実力には成っている。あくまで手加減してるので何処までの剣術が出来るかはよく分からないけど。
「仕方無いわね。主要人物の防具は出来たし、ああそうだわ。レーシー、折角だからアラクネ一匹くれない?」
「ほんっと厚かましいわねアンタは!」
「あら、いいのかしら。アルセの勝利、40回分。ほぼ役満以上だから×4くらいで160個くらいの借りがこっちに出来てるんだけど」
「うぐぐ」
「おーっ」
歯噛みするレーシーと不敵なアカネ。そんな二人にアルセが割って入る。
そろそろ戻ろう。そう言ってる気がします。
アカネも察したようで、溜息を吐いて立ち上がる。
「リエラ。そろそろ街に向ってセキトリの件を片付けましょう。あんまり行きたくないけどこれ以上後回しには出来ないでしょ。あと武器屋と防具屋に忘れずに寄るわよ」
と、アラクネの中で一番可愛らしい娘をがしりと肩掴んで連れ去るアカネさん。アラクネ貰うのは確定だったんだね。
レーシーも何も言わないので拉致されたアラクネさんが少し悲しそうな顔をしている。
これから彼女はアルセ姫護衛騎士団のために武装をただただ作る使命を負ってしまったのだ。可哀想に。あれ? でも作るの結構楽しそうだったよな。じゃあ問題無いか。
テントを片付ける間に風呂を魔法で破壊するルグス。アニアが勿体無いとか言ってたけど、日々入れ替える事を怠った風呂場はただの池になるからね。折角生物が住みついても近くに水場が無いのでそのうち干上がる事を考えると、住み始めた水中生物達が死ぬだけなのでさっさと潰してしまうに限るらしい。
レーシーと唯野さんがやること無くて困惑している中、テキパキと片付けを終えた面々は、装備を整え要らないものをアルセのポシェットに放り込んでいく。
あの、そのポシェット、アルセのじゃなくて僕のなんですが。なんでキャンプ用品とかゴミとか入れちゃってるんですかね。
「さ、街に戻りましょうか」
「ず、随分直ぐに片付くのね」
「冒険、慣れてますから」
片付け開始から20分も掛かってなかったと思う。
レーシーの驚きの声もごもっともなのだが、何も出来なかった唯野さんが凄く切ない顔をしている。
なので、肩を叩いておく。
「あ、えーと……」
戸惑い浮かべる唯野さん。
大丈夫、僕もぜんっぜん手伝ってないから。
と、陽気に親指立ててみる。自分で凄く切なくなった。
アルセも普通にゴミ拾いとかで役だってたのに、僕見てるだけだったよ……
だって、いつもみたいに薪の後始末とかしようと思ったらテッテとコータが率先してその辺り全部やっちゃうんだもん。新人の仕事だからってリエラに言いながら手慣れた手つきで。
僕等みたいに何もしてなかったアマンダとハイネスはどこ吹く風とマイペースにあらあらと言ってたり本を読んでたりしている。
森を歩く面々、行きと比べると警戒感が皆無なのは、ルグスとにゃんだー探険隊が索敵してるのと、レーシーが森の魔物に近づかないように告げているからだ。
野盗にさえ気を付ければ問題はないし、こんな王都近くにそんなのがいるとも思えないのでほぼ安全だろう。僕らだけは。
「うわあああああああああああああああああああああああ――――っ!?」
声が、聞こえた。
その悲鳴を聞いた瞬間、そいつは迷うことなく走り出していた。
唯野忠志53歳。年を食い、太った身体とは思えない程の行動力だった。
「唯野さん!?」
「リエラ、追うわよ! 皆急いで!」
「な、何なのよあのおじさん。随分急ぐわね」
「多分、悲鳴に聞き覚えがあったんです。レーシーさん、あちらに居るだろう魔物、倒しますよ」
「し、仕方無いわね。許すわ」
それでいいのか森の守護者。
ぐんぐん皆を置いて走って行く唯野さん。アレ、もしかして加速系スキル発動してないか?




