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その彼の名を誰も知らない  作者: 龍華ぷろじぇくと
第二話 その森の守護者の賭博好きを僕らは知りたくなかった
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その幸運が仕事していることを彼女は知らない

「う、嘘よっ! 積み込み無しで一発リーチなんてありえないっ!?」


 思わずローアが叫ぶ。

 しかしレーシーが積み込んでいようといまいと、今、この状況に来てしまった以上証明する術はすでにない。

 このまま一巡すればおそらく萬子をレーシーが手に入れるだろう。あるいはこの場の誰かが振り込むか。


 絶望的な空気が皆を包み込む。

 ローアでもコイツを倒すのはムリか。せめて親流れがあればいいんだけど……

 悔しげに呻くローアが山から牌を取ろうと手を動かす。


「おっ」


 ……が、それより先にアルセが椅子に立ち上がって必死に手を伸ばす。


「え? どうしたのアルセ?」


「ん? 何よ?」


 アルセの手が向う先は……レーシーの捨て牌?


「アルセ? これ?」


 リエラが取ってあげると、アルセは満足そうに「お」と言いながら自分の手札に加えた。


「何よ。ポンかチー? それほしい。じゃなくてちゃんとした言葉で言わないとチョンボよ?」


「お!」


「は?」


 アルセの言葉を理解しているらしいレーシーが呆然とした顔をする。

 今、アルセ「ロンだよ」って言わなかった?

 事実、アルセはレーシーの牌を自分の手札に加えた後にぱたぱたっと自分の牌を倒して行く。


 北北北西西西東東東南南南中中


 ……え?

 それは本来あり得ない手であった。いや、作れることは作れるのだ、しかし、奇跡としか言いようのない手である。

 何しろそれは九連宝灯や緑一色など及びもしない、役満も役満。


「え?」


「おー?」


「ろ、ローア。これ、字一色って奴じゃない?」


 思わずアカネが聞いて来るが、ローアは首を横に振る。


「違う。それだけじゃない。同じ牌を三つ自力で集めてる。さらに待ち牌は頭にするための中。そしてアンコったのが東南西北……四暗刻単騎スーアンコタンキ大四喜ダイスーシー字一色ツーイーソー……五倍役満」


「は? ご、五倍?」


「点数は確か……親で96000」


 あ、レーシーが倒れた。

 あまりの大役に振り込んだのがショック過ぎたようだ。

 まぁ勝利確定だったはずなのにアルセに横から掻っ攫われて五倍役満だもんね。そりゃ気絶もしたくなるわ。


「お?」


 コレ凄いの? みたいな顔をするアルセ。

 アルセ流石だね。僕は思わずアルセの頭を撫でる。


「お? おー!」


 これでいいの? じゃあもっと頑張る! そんなニュアンスで喜ぶアルセ。

 しっかし、積み込みすらしてなかったアルセがよくもまァこんなの作れたね。


「くっ。ま、まぐれよまぐれ! 次で終わりよ!」


 いやいや、もう既に今までの負け分取り戻したんじゃない?

 認めたくないレーシーは負けるものかとばかりに山を積み出す。

 ……あ。みっけた! レーシーの秘密見つけたぞ! 荒々しく積み込みだしたから今まで上手く隠していた積み込みの秘密を見付けてしまった。

 小さい人々が素早く寄ってきて積み込みして去って行ってる。よくよく見てないと分からないけど多分森の住民の一部だろう。こいつらが積み込みしてるんだ。

 ならば……


「全く。たった一勝のマグレ勝ちで浮かれないでほしいわね。すぐに私が勝ってやるわよ!」


 性懲りも無くまた緑一色を狙うのかよ。まぁ、一つ揃ってないからまた一巡待ちになるみたいだけど。とりあえず皆が出さないように気を付けて見てあげよう。

 まずはローア。よしよし、僕が積んだ牌がしっかり来てます。奴等に紛れて積ませていただきました。三索を捨ててリーチ。危ないな。二索だったらロンだったぞ。


「今回も積んだかしら? こちらに流れてるわよレーシーさん?」


「え? そんな筈は……って積み込んでなどおりませんわ」


 目を逸らしながら告げるレーシー。

 お次のアルセは……と、おお。いい感じ。アルセは僕の気配に気づき、これでいい? と牌を持ったので頭を撫でてやる。


「おー」


 カツン。横向きにに打ち付けるように置くアルセ。リーチです。


「ちょ、ちょっと二人ともリーチなの!? アルセちゃん引き強過ぎない? チョンボじゃないでしょうね!」


 レーシーに怪しまれたので唯野さんとアカネがアルセの手牌を覗き込む。


「別に問題はないわね。あ、そうだレーシー。確か私の時に言われたんだけどさ、全員が一人からロンであがったりツモったりするのってありなの?」


「本来は三人ロンか四人リーチで流局といって白紙に戻して次の局をするんだけど、今回はそのまま続けましょうか」


 ふふ。っと告げるレーシー。

 お次のリエラさんは……ふっ。僕の積み込みの才能が自分で恐くなるな。

 レーシーが緑一色だから発が行かないように配牌に気を使ったよ。まぁ、発はアルセに三つ、リエラに一つ入れちゃったけどね。レーシーさんのは発無しの緑一色で二索と四索待ちである。


「うーん。一つも揃ってないなぁ。全然上がれる気がしな……え?」


 リエラが捨てようとした牌を押し留める。

 自動で動き出した手に一瞬驚いたリエラだが、僕が居るだろう方向を見る。

 一つの牌に手を止めて、ソレを捨てるように促す。

 ゴクリ。

 リエラが信頼感を持った目でソレを河へと捨てた。……横向きで。


「え?」


 驚いたのはレーシーだ。

 まさか。と言った顔で他の三人を見る。

 次のレーシーの番をじぃっと見つめる三人の目。

 彼女が引いたのは……九索。これを捨ててリーチになるはずだし、先程自分が言ったようにこれで流局にはしないのだが、なぜか嫌な予感がする。これを捨てるべきではない。そう、本能が危機感を告げていた。 

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