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その彼の名を誰も知らない  作者: 龍華ぷろじぇくと
第十一部 第一話 その新たな出会いがあることを僕らは知らなかった
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AE(アナザー・エピソード)その蔦の凄さをまだ彼は知らない

「おいコルァ。俺の店に何してくれてんだぁ!? アルセイデスの蔦の余り程度でなんとなると思うなよ!?」


 肩を怒らせカウンターに足掛け飛び出してきた店長に、アカネさんは溜息を吐く。


「ただの蔦と一緒にしないでくれる? わからないならアルセイデスのナイフで削ってみると良いわ。削れるものならね?」


「あん? どういうこった?」


 アカネさんに殴りかからんばかりだったドワーフは、彼女の言葉に何かを感じたようだ。

 怒りを鎮めて店員にナイフを持ってこさせると、自分が握って蔦にナイフを入れる。

 だが、傷一つ付かない。

 むしろナイフの方が欠けてしまうくらいである。


「お、おいおい、アルセイデスの蔦で作ったナイフだぞ? なんで同じ蔦が切れねぇ?」


「そもそも前提が間違っているわ。これはアルセイデスの蔦じゃなくてアルセの蔦よ」


 アルセイデスだろう? ドワーフ店長はアルセちゃんを見てそんな顔をしていた。


「普通のアルセイデスが使う蔦はマーブルアイヴィといって大理石を砕く硬さの蔦よ」


 それはそれで凄いと思う。大理石といえば岩の一種だ。ソレを割り砕けるほどの力と硬度を持つのならば、確かにこの蔦は強力な武器になるだろう。だが、大理石より硬いものなど幾らだってある。


「じゃあ、こりゃぁなんて名前だよ」


 そういうドワーフに、アカネさんはアルセから魔物図鑑を借りて彼に見せながら説明する。


「図鑑によるとヒヒイロアイヴィと言うらしいわ」


「ヒヒイロっつーとヒヒイロカネをも割り砕くっつーことか!? いや、在りえねェだろ。そんな蔦あったら伝説級の武具が出来ちまうぞ!?」


「一応マイネフランの武器屋にも持っていく予定だけど、今のところこの蔦を渡した武器屋や鍛冶屋はないわ。今、ここが初めて。この意味、分かるわよね?」


「俺が……この蔦を素材に使う初の職人?」


 まるで宝玉でも見つけたかのように驚愕し、震えながらもドワーフ店主が店内に生えた蔦に歩み寄る。

 両手で触ろうとするも、腕が震えて上手く触れないようだ。


「本当に、そんな蔦が、あ、あるのか?」


「素材は目の前にあるわ。その素材の硬度、いくらでも確かめていいわよ」


 震える手で蔦を触る。


「お、おい。ヒヒイロの剣だ。あれ、持って来い」


「え? 親方、アレは先祖の作った宝剣だって……」


「さっさと持って来いッ! あれしか確かめるもんがねぇんだよ! あれで傷が付かないってぇなら、こいつは本物だ。あれで切る以上の証明はねぇ。だが、傷が付かないってのは作業すらできねぇだろ、ど、どうすんだ?」


「だと思ったわ。アルセ。小さい蔦でナイフ作れる?」


「お?」


 アルセちゃんが蔦に手を当てると一本の根元が枯れ始める。

 倒れた蔦を拾いあげ、真中に手を当て枯れさせると、そこを基点に折って二つの蔦を両手で持つ。

 その二つを擦り合わせることで削って行く。


「ざ、斬新な作成方法だな」


「アルセならではの作成法かしら?」


「お!」


 できたーっとばかりに天に掲げるアルセちゃん。

 ドワーフの店長がソレを受け取り前後左右に傾けて見る。


「不格好だがナイフになってやがる。多少苦戦はしそうだが使えなくはねぇな。むしろ職人でもないのにこれなら上出来だぜ」


「親方、持って来ました」


 震える手で先祖が作ったらしいヒヒイロカネの剣をドワーフ店長に手渡す店員。店長はナイフを一旦店員に渡すと、ゆっくりと蔦を切り裂く。しかし、傷は付かない。軽く振って切り裂こうとするも、刺さりすらしなかった。


「流石に思い切り振って家宝を破壊する気はねぇからな。これだけやれば充分過ぎるぁ。ほれ、こいつはもういい。元に戻しとけ」


「は、はい!」


 店員を戻し、蔦のナイフで蔦を切り裂く。今度は先程までと違い、蔦にナイフが喰い込んだ。

 かなり力を入れたようだが、ちゃんと切り取られた蔦が地面に落下する。


「はは、ヒヒイロカネの剣で傷付かねぇのにこんな不格好なナイフで切れちまった」


 そう言った彼の顔は引き攣りながらも喜びに満ちていた。

 この蔦、そんなに凄いものなのだろうか? 私にはよくわからないが、鍛冶師にとっては涎を垂らす程に魅力的な素材なのだろう。彼も思わず垂れた涎をずずっと飲み込む。


「いいのか、嬢ちゃん。こんな素材を俺なんかが使っちまって?」


「だから言ったでしょ。これで武器なんて作れません。なんて言わないでねって」


 クスリと悪戯っぽく笑うアカネさん。どうやらクレーマー気味な話し方はこのドワーフ店長の気を引くためにワザとしていたようだ。


「はっ。こんな素材持ち込まれちゃ嫌だなんて言えねぇやな。いいぜ、打ってやる。何が所望だ? 剣か、槍か?」


「そうね。剣を二つ、刀を一つ、短刀を一つと杖が二つ」


「あれ? アカネさん、少なくないですか?」


「あら、これから王族に嫁ぐとか言ってるモスリーンたちには要らないでしょ。今回はリエラの剣とチグサの刀、ケトルの短刀、私とセキトリ君の杖があればいいわ。あとアルセの護身用に一振り。わざわざ赤き太陽の絆にくれてやるには過ぎた武器よ」


「な、なるほど……」


 リエラさんもご納得のようだ。


「あともう一つ。アルセの蔦で、これと同じの作れる?」


 と、アカネさんが私の持っていた武器を取り上げた。

 あの、それ……ビニール傘なんですけど?

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