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その彼の名を誰も知らない  作者: 龍華ぷろじぇくと
第十一部 第一話 その新たな出会いがあることを僕らは知らなかった
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AE(アナザー・エピソード)その特殊状態の有用性をまだ彼は知らない

「な、なんだよ。俺、どうなってんの?」


「んー、そうね。とりあえず常時スキルに物質透過とオブジェクト移動不可とアルセ姫護衛騎士団弱点がついてるわね」


「なんだそりゃぁっ!?」


 つまり、あらゆる物質を透過する状態で、オブジェクト移動不可なので家やら地面を透過することはない。しかも移動が不可なだけなので道具を持つことは出来ない。

 今ある装備品は彼の一部と認識されているんだろう。身体から離すとどうなるか分からないが、現状、服も纏めて彼として物質を透過するようだ。


 そうでなければ全裸男の出来あがりになっていただろう。

 そして彼は誰にも攻撃出来ないものの、誰からの攻撃も受け付けない。

 しかしながらアルセ姫護衛騎士団弱点属性により、アルセ姫護衛騎士団に所属しているメンバーからの攻撃だけは普通にダメージを受けるようだ。

 そのため、神様が救済措置として一つのスキルを彼に授けたらしい。

 それが……


「ひのきのぼう装備可」


 そう、それこそがコレ、ひのきのぼうを装備できるというスキルである。

 ギルド長が大声で誰かひのきのぼう持ってないか。と聞いたところ、たまたま来ていた新人冒険者の少年が快く貸してくれた。


「おお、持てる! 持てるよルーシャ!」


「ええ、持ってるわサーロ」


 手にしたひのきのぼうで床を叩くサーロ。普通に床を叩く感触が分かって感動してるようだ。

 気持ちは分からなくもない。


「っし、こうなりゃ仕方ねぇ。ひのきのぼう買って来るか」


 少年にひのきのぼうを返し、棒を買いに行くらしいサーロ。

 なんか、気の毒になるな。私と関わったばかりにこんなことに……

 なんとかならないのだろうか?


「んじゃ、行こうぜルーシャ」


「ええっ、まだ毛剃ってないんですけど!? まぁいいか。あ、待ってサーロ。サーロってばぁ」


「って、ルーシャ速ぇ!?」


 ……あれ? 気のせいだろうか、そこまで不幸そうに見えないような?


「あの二人、いろんな意味で生き汚そうね」


「根はいい奴等ではあるんだがな。もう少し後のことや人の事を考えれればいいんだが……」


 アカネさんとギルド長が困った顔で溜息を吐き合っていた。


「とりあえず、今回の事はこれ以上言うのは止めておくわ」


「わかった。こちらもあいつらには少し注視しとくことにする」


 どうやらこれ以上のクレームはしないようである。サーロたちのことを思うと少し心のつかえが取れた気がした。

 ギルド長に別れを告げてアカネさん達は去っていく。私はどうすればいいのだろうか? 戸惑ったのだがとりあえず着いて行くことにした。

 この着物も返さないといけないし。


「あ、あの、私はどうすれば?」


 ギルドを出たところでアカネさんに尋ねる。

 流石に着いて行ってもいいものかわからないし、嫌そうな眼を向けられるのも嫌なのでとりあえず確認を取っておく。

 ダメそうだったらギルドで新しく依頼を出すしかないだろう。


「そうねぇ、あのサーロとかルーシャに武器見繕って貰ったみたいだけど、やっすいのでしょ。まずは鍛冶屋に行きましょうか」


 鍛冶屋? まさか特注品でも頼むのだろうか。流石にそんな高そうなのは買えないのだが。

 私の心配を余所に、アカネさんを先頭にして私たちは歩き出す。あ、ルクルさん、なんです? カレー? え? 食べていいんですか? 朝から何も食べてないのでこれは嬉しい差し入れです。

 でも、カレーって食べ歩きするものでしたっけ?


 私がカレーを食べ終えた頃、鍛冶屋に辿りついた。

 結構有名な鍛冶通りを少し外れた場所にやって来たアカネさんは、そこかしこで冒険者に聞きこんで一番腕が良い鍛冶屋を探しだしたようだ。

 それがここ、少しこじんまりとしており大通りから奥まった場所にある知る人ぞ知る名店。

 腕はいいが頑固なドワーフが切り盛りしており、気に入られればオーダー通りの武具を手に入れることができるらしい。


 当然、気に入られなければ武器を手に入れる事も出来ず、怒鳴り散らされるだけで追い出されるらしいので、誰かの紹介も無しに行くのは失敗することが多いようだ。

 なのにアカネさんは気にせずずかずかと鍛冶屋へと入っていった。


 皆さん物怖じしないなぁ。と感心しながらも、アルセちゃんに促されるように私も鍛冶屋に入る。

 鍛冶屋といっても鍛冶場が目の前にある訳ではなく、オーダーを聞くためのカウンターが目の前にあり、奥へ続くドアがカウンター奥に設置されていた。


「これはまたせっまいわね」


「あぁん? 俺の店に来ていきなり言うじゃねェか」


 店番をしていた若い男が反応するより早く、扉が開いて小柄のおじさんが現れる。

 私より背が低いが存在感は余りに強い。思わず土下座しそうになってしまった。


「あ、すいません。アカネさん、いきなり店を批評するのは悪いですよ」


「あら、別に店がどんな感じだろうと職人の腕がモノをいうのよ。こういう店は確かに他の鍛冶屋と比べると狭いから若者や迷惑客には敬遠されがちなのよ。まさに通好みの店って奴ね。でも狭いのは本当でしょ。せめて待ち客用の椅子くらい用意してほしいわ」


「はんっ、客ってのぁ俺の店に来たくて来てる奴等だ。待つのは向こう、造るのが俺らだ」


 ちょ、商売の根本をバカにしたような持論を。そんなのでは客が寄りつかないんじゃ……


「言うじゃない。よっぽど腕に自信があるのね」


「はっ。ドワーフ相手に腕の自信だぁ? 舐めた口聞いてくれるじゃないか嬢ちゃん。そこまで強気にでるってぇこたぁ、そん所そこらの素材じゃねぇんだろうな? これでコボルトの牙なんぞ出してナイフにしろって言って来やがったら女といえどもぶん殴って蹴り飛ばすぞ」


「そちらこそ、こんな凄いモノ武器になんかできませんなんて泣きごと言わないでくださいな。おそらく、この素材を手掛けるのは貴方が初めてになるわ」


「おおっ? いい度胸だゴルァ! その素材さっさと出しやがれや!」


「焦らなくても直ぐ出すわ。あ、床代は余った素材ってことでいいわよ。アルセ」


 床代?

 私と鍛冶屋の主人が意味が分からず眼を天にした瞬間だった。

 アルセちゃんが「お~っ」と楽しげに足を開き、両手を上から股下向けて振り降ろす。すると、床をブチ破り長く太くうねり狂った蔦が飛び出した。

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