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その彼の名を誰も知らない  作者: 龍華ぷろじぇくと
第十一部 第一話 その新たな出会いがあることを僕らは知らなかった
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AE(アナザー・エピソード)その冒険者たちの名声を彼は知らなかった

「ぎ、ギルド長?」


 てっきりクレーマー女を追い返してくれると期待していたギルド長が頭を下げたことで、受付嬢が目を白黒させている。

 私も意味不明だ。一体彼女が何だというのだ。


「一応、ご本人確認をさせていただいても?」


「ええ。でも私は戦乙女の楽園で登録したままだから、アルセ自身のカードでいいかしら。魔物で冒険者登録してあるのはアルセ姫護衛騎士団だけだから」


 それは驚きである。まずアルセちゃんが魔物ということに驚き、冒険者登録されていることに驚き。二重の驚きで私のメガネがずれた。

 その間にギルド長がアルセちゃんから受け取ったギルド証を確認する。


「これはまた。御噂はかねがね聞いております。本部よりアルセ神様が来られた折には丁寧に対処せよと各ギルドに通達がなされているのですよ」


「お~?」


 アルセちゃん多分分かっていませんよ。


「それで、ウチの受付嬢が粗相でも?」


「ち、違いますギルド長、私はマニュアル通りに……」


「まぁ、受付嬢の言い分はおいといて、ご本人から直接何があったか聞かせましょう。唯野さん、最初からお願いできます?」


「へ? わ、私ですか」


 まさかの無茶振りである。アカネさんに言われたせいでギルド長の鋭い視線が私に突き刺さる。

 また漏らしてしまいそうだ。なんであんなに恐い顔ができるのだろう。


「その男は?」


「私達が偶然助けた人よ。理由を聞いたらこのギルドで依頼を出していたそうよ」


「依頼?」


 ギルド長の疑問に即座に受付嬢が私の依頼書を差し出す。


「ふむ。既に依頼は完了しているようだな」


「そうでしょう。私も完了報告を受けたので完了したんですよ。なのにこの人たちが……」


「完了報告があったのなら問題はないと思うが?」


 受付嬢の言葉を聞いて確認するようにアカネさんに告げるギルド長。少しご機嫌伺い気味なのは厳つい容姿なのに、ちょっと下っ端感が見え隠れしている。


「ええ。その完了報告が、依頼人である彼からであれば問題はないわ」


「どういうことだ? モアサ、誰が報告に来た?」


「え? あ、それは……」


 ちらり、件の冒険者たちを見て、困ったような笑みを浮かべる。


「成る程冒険者たちの自己報告か」


「は、はい。よく依頼をこなしてくださる優良冒険者でしたのでいつも通りに」


「確かに、草むしりやらペット探しの依頼なら本人に手渡して終わりよね」


「この依頼は、護衛任務だな……」


 困ったように告げるギルド長。ひらひらと依頼書を振った。


「そ、そうです……ね」


「護衛された相手の安否も調べず成功か」


「あー、そのー」


 慣れた仕事のためについついいつものように簡略してしまった故の失態。

 今更気付いたようだが既に遅かった。


「唯野さんだったな。まず何があったか、依頼を受けてからのことを教えてくれるかね?」


「あ、はい」


 私は恐縮しながらも必死に自分の行動を思い出す。

 サーロとルーシャに武器を見繕って貰い、レベル上げを手伝って貰った。

 トサノオウに出会ったことで二人は逃げ去り、置き去りにされた。

 これは私がノロマだったせいだ。二人のせいではないと思う。

 だが、依頼を受けている以上二人には責任が発生するのだ。責任放棄した罪は重い。


「サーロ、ルーシャ! こっちに来い!」


 ギルド内を劈く程のギルド長の怒声が響く。

 仲間内で盛り上がっていた二人も思わず押し黙り訳のわからないといった顔でやってくる。


「ん? え? うっそ。唯野じゃん。生きてたーよかったぁ」


「マジかよ。死んでなかったのか。よかったじゃん!」


「よかったじゃん。じゃねぇっ。お前ら何してやがるッ!」


 再びの怒声に思わずルーシャが小さな悲鳴を上げた。


「な、なんだよおっさん!? 俺らが何したってんだ」


「そ、そうよ。私らいつも通り仕事してただけだしぃ」


「まぁいい。とりあえず、コレに成功の報告したのはお前らでいいんだな」


「おうよ。ちゃーんと護衛しておっさんのレベル上げに貢献したっしょ」


「武器まで見繕って上げたんだしぃ、成功でいいじゃん、ねー」


 互いに顔を見合って「なー」、「ねー」と言い合う二人。

 やはり彼らはDQNだった。

 最初から嫌な予感はしてたんだ。まぁ、結果的に勉強になったと思えば私は……


「お前らなぁ……自分が何したか分かってねぇのか!」


「あん? いつも通り成功報告したっしょ?」


「魔物に襲われかけてる依頼人放置して逃げ出しといてかっ」


「いや、だってトサノオウだぜ? Fランクの俺らが敵う訳ねーじゃん。おっさん絶対助からない状態にしか見えなかったし、自分の命優先だって。助かったなら結果オーライじゃん。なぁおっさん」


「え? あ、そ、そうで……」


 私の言葉をアカネさんが手で制す。


「ギルド長さん。結果は?」


「アルセ姫護衛騎士団の証言を有効とみなす。ブラックリスト載せとく。成功報告も偽証とする」


「はぁ!? おっさん何言ってんの! 俺らちゃんとそっちのおっさんに優しくしてやったっしょ!」


「そうよ! 私た……え?」


 ギルド長に食って掛かるサーロとルーシャ。

 私が瞬きした一瞬だった。彼らは一瞬で驚きの変貌を遂げていた。

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