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その彼の名を誰も知らない  作者: 龍華ぷろじぇくと
第十一部 第一話 その新たな出会いがあることを僕らは知らなかった
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AE(アナザー・エピソード)そのパーティーが何者かを彼は知らない

 振りあげられる巨大な前足。アレが降ろされるだけで私は死ぬだろう。

 唯野忠志53歳。地球より異世界に召喚されてほぼ一週間。

 なんとも空しい生であった。


 ジョバジョバと下半身が煩い。全身からかつて無い汗が流れ出る。

 震える体は地震でも来てるんじゃないかと思えるほど。

 歯茎が物凄い勢いで音を鳴らしていた。腰がかくんと真下に落下。尻をしたたか打ち付ける。



 前足が振り降ろされる。バカみたいに見上げる私の頭上に影が差す。

 前足の影? 違う。なんだ……あれは?

 それは空を覆う程に巨大な鳥だった。

 見上げた私が自分を見ていないことに気付いたトサノオウも空を見上げる。


 巨大の鳥の回りを無数の鳥が飛び交い、時折巨大な鳥の口から鳥が出現している。

 そのうちの三匹が、こちらに向かって急速接近。

 厳つい顔の鳥が一羽、迷うことなくトサノオウへと突っ込んで来る。その背中に和服の少女が一人。


「リエラさん、先制行くわ!」


「チグサさん任せます!」


 グサリ。トサノオウの背中に思い切り突き刺さるペリカンのような鳥。その鳥から飛び上がった少女が腰元の鞘から刀を一閃。居合斬の要領でトサノオウの背中を切りつける。

 盛大に上がる絶叫。

 そこにウミネコと木の根が融合したような鳥から飛び降りた少女が襲いかかる。


「ストライクバスターッ!」


 トサノオウの頭上に剣が襲いかかった。

 悲鳴を上げていたトサノオウの頭が衝撃で地面に叩きつけられる。

 すたりと着地した少女は私に背を向けるようにしてトサノオウへと剣を向ける。


「大丈夫ですか!?」


「え? あ……はい」


 声を掛けられ、私は慌てて返事を返す。

 その間に、迷彩ヘルメットを被ったカモメが近づいて来て、その背中から緑の少女が落下して来る。

 くるんと回転して足から着地すると、こちらを見てにこぱっと微笑んで来た。

 人間じゃない。そんなことを思いながらもあまりにも可愛らしい笑顔に引き攣った笑みで応える。

 少女は満足したようで、トサノオウに向き直った。


「おーっ!」


 両手を広げて天へ伸びろ。とばかりに背伸びする緑の少女。

 すると地面を割り砕き、急成長しながらトサノオウを絡め取って行く緑の蔦。

 一瞬にして自由を奪われたトサノオウが咆え叫ぶが、残りの二人の少女たちにより瞬く間に鎮圧されてしまう。

 和服少女がトドメを刺す頃には、彼女達のパーティーメンバーだろう、沢山の人たちが私の側に鳥と共にやって来ていた。

 巨大な鳥は役目を終えたとでもいうように去っていく。

 人々を送って来た鳥たちも、直ぐに巨大鳥を追って去っていった。


「改めて、大丈夫ですか? お怪我は?」


「あ、はい。大丈夫……です。危ないところを助けていただき、ありがとうございました」


 なんとか立ち上がり、ふかぶかとお礼をする。腰が抜けた訳ではなかったようだ。

 無様の上塗りをしなくて助かった。

 気分は外回りで新たな契約をしてくれることになった大手企業の社長さん相手の感謝の礼だ。


「ぶふっ。おっちゃん、漏らしてんじゃんっ」


「こらお兄ちゃんっ!」


「コータ黙りなさい」


 パーティーに居た少年に笑われる。言われて気付いたが下半身が濡れていた。これははしたない。いや、あのような凶悪な魔物に襲われたのだ。これも仕方無いことだろう。ああ、本当に情けないな私は。しかも娘くらいの年頃の少年少女にその痴態を見られてしまうとは。


「あの、お気を悪くなさらないでください。冒険者でも凶悪な魔物に殺されかけたりすると漏らしてしまう人がいるようですから。決して恥じることではありません」


「それに、あんた異世界から来て日が浅いみたいだし、殺される寸前となったら仕方無いわよ」


 不意に、見過ごせないワードがゴスロリファッションの女性から放たれた。


「異世界と、分かるのですか?」


「そりゃ、Yシャツネクタイスラックスと来たら日本人としか思えないでしょ。にしても、なんでまたこんな所に一人でいたのよ。死ぬ気だったの?」


 ゴスロリファッションの女性はアカネさんというらしい。同郷の出だったようで、私としては救いの主に思えた。

 私を助け、優しく接してくれた少女はリエラさん。和服の少女はチグサさんといって、彼女も日本人であるらしい。ただ、アカネさんとチグサさんの日本は別の世界の日本であるらしい。良く分からないが、ややこしい話らしいので、話半ばに聞いておくだけにしておいた。


 私は今までの事を彼らに話した。日本人だからという理由で信用して話したのだ。

 後から考えれば、彼らをそこまで信用していいかどうかわからなかったのに、私は迷う事も無く彼らが信頼できると判断していたのである。


「……え? ってことは、依頼をした冒険者は逃げちゃったんですか!?」


「はい。仕方無いですよ。あんな巨大な生物が現れたら最下級ランクだったようですし」


「そういうわけにはいかないわ唯野さん。これを報告しておかないとギルドと冒険者の悪評が広まってしまうし、そういう酷い冒険者はブラックリストに乗せとかないとまたやるわ。アルセ、なんか行きたいとこあるみたいだけど、先にドドスコイの冒険者ギルドに行くわよ」


「おー……おっ」


 えーっと膨れた緑の少女アルセちゃんは、しかし私についての説明を受けると、笑顔でおっ。と宣言。それでこのパーティーの方針が決まったらしい。

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