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その彼の名を誰も知らない  作者: 龍華ぷろじぇくと
第十一部 第一話 その新たな出会いがあることを僕らは知らなかった
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AE(アナザー・エピソード)その後悔を彼は知りたくなかった

「そっちいったしーっ」


「おっさん剣振って! ああもう、なんで外すかなぁ」


 ルーシャが追いたてサーロが私に魔物を差し向ける。

 白い毛玉と呼べる存在だ。

 にっちゃうという名前の雪だるま型ウサギである。


 迫り来るにっちゃうに私は震える両手で剣を持ち、一撃。

 さっと避けたにっちゃうがバカにしたように飛び跳ねる。

 むぐぐ……このっ。


 なんとか切り返しで真下から切り上げる。

 ザシュッと嫌な感触と共ににっちゃうが倒れた。

 どうやら倒せたようだ。私でも戦えるのだ。そう思うとやる気が出てきた。


「おー、やったじゃんおっさん」


「いや、相手にっちゃうだし」


 褒めてくれるサーロと呆れた顔をするルーシャ。

 仕方のないことだ。このにっちゃう。体当たりしか出来ない雑魚魔物らしく、その体当たりも柔らかい身体のせいで攻撃にならないらしい。


 一度体当たりを喰らってみたのだが、痛いというよりも普通に癒された。

 ペットとして娘にプレゼント出来ないだろうか? 本気で考える程に可愛らしい容姿の魔物だ。生きているぬいぐるみと言っても過言ではない。


 ただ、初めに切った際はあまりの衝撃と感触で吐き散らした。

 ルーシャに初ゲロキターとか笑われてしまった。

 動物とはいえ初の殺害なのだ、許してほしい。

 それでも、何度か闘っていると吐き気はあるモノの、それなりに動けるようにはなった。


「にっちゃうは沢山いるからさ、あいつらで攻撃方法を覚えて、ゴブリンとかやっちまおうぜ」


「は、はい!」


 サーロの言葉に慌てて頷く。

 初めての闘い、恐い容姿だが確かに優しく接してくれる冒険者。

 まだ、私は決定的にツイてない訳ではないらしい。


 既ににっちゃうを何体も屠った御蔭でレベルも2になった。

 スキルにヒールが追加され、ついに自力で体力回復が出来るようになったのである。

 思わず頭にヒールを掛けて見たが、残念、死滅済みの毛根が戻ることはないらしい。


「お、アレとか良くね?」


「リュックラビットじゃん。何持ってるかなぁ。宝石求む!」


 現れたウサギにルーシャが氷結魔法を打ち込む。

 こちらに気付いて逃げようとしたリュックラビットの後ろ足が凍りついた。


「っしゃ! おっさん、トドメトドメ!」


「あ、はい」


 慌ててリュックラビットに駆け寄る。


「リュックは無傷よおっさん。刺したら殺すし!」


「は、はいっ」


 逃げようともがくウサギの首を切り裂き絶命させる。

 サーロがやって来てリュックを開くと、何かが出てきた。

 髭のように細長い草だ。


「草かよっ」


 ぽーいと捨てるサーロ。思わずソレを私がキャッチする。

 アイテムボックスに仕舞うと、名前が現れた。龍の髭と呼ばれる薬草らしい。

 これ、なんか凄い効能じゃないですかね。

 サーロに告げようとしたのだが、そのサーロはウサギの死体に蹴りを喰らわせていた。


「テメェ、草なんて大事にリュック入れてんじゃねーっつの。もっと良いもん入れとけよなぁ」


 小動物とはいえ死体にあのような仕打ちはどうかと思う。

 言おうとしていた言葉を飲み込み、私は見て見ぬふりをすることにした。


「ねー、何あった? 宝石ぃ?」


「雑草だよ雑草。細長ぇ草」


「細長いって、どんなの?」


 えーっと。と探すがその草は私のアイテムボックスの中なので見つかるはずもない。

 身振り手振りで伝えるサーロ。するとルーシャがヒステリックに叫びだした。


「何で捨てたのよバカサーロ!」


「ええっ!? なんでって、ただの草だぜ?」


「龍の髭よ! エリクシールの材料よ! 一攫千金!」


「マジか!? どこいったあの草!」


 二人して必死に探しだす。草の根を分けるその動きに、私が持ってますとは言えなくなった。


「おい、おっさんも探せよ! 一攫千金だっつの!」


「は、はい」


 見つかったと言ってアイテムボックスから出すべきだろうか?

 でも見つけたが最後、二人に奪われるだけのような気がする。

 アイテムボックスは一応かなりの容量入るらしいのだが、異世界から来た勇者特有の物らしく、使い方は隆弘が皆に説明してくれたので私も一応使えている。

 隆弘に感謝だ。ゲームもバカにはできんな。


 しばらく探すが当然見つからない。

 ふぅっと息を整え痛みだした腰を上げた時だった。

 目の前に魔物がいた。


 化粧回しを身に付けた土佐犬を巨大化したような魔物だ。

 じぃっと私を見下すその姿は優に三メートルはあった。

 背中をかつて無い量の汗が流れだす。


「おいおっさん、休んでねーで探……うおおっ!?」


「なによサーロ。変な声だしてないで……嘘、トサノオウ!?」


「ウォフッ!」


「い、いやあああああああああああああああっ!!」


「あ、待てよルーシャ!」


 逃げ出したルーシャを追ってサーロが逃げて行く。

 一番近くに居た私はただただ呆然とトサノオウを見上げるだけしか出来ない。逃げる事もできなかった。

 ゆっくりと、トサノオウの腕が振りあげられる。

 ああ、そうか。私はここで終わるのか……

 なぜかすんなりと、私は死を受け入れていた。

 頭上を太陽を隠すように影が差す。静代、沙織、隆弘……父さんは……

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