AE(アナザー・エピソード)その冒険者の実力を彼は知らない
唯野忠志は迷っていた。
城を出て来たはいいのだが、そこから何をしたらいいのか思い浮かばなかったのだ。
レベルを上げるならば何が良いか、適当な人に何人か話しかけてみたところ。冒険者ギルドで冒険者になるか、依頼を出して冒険を助けて貰うのがいいらしい。
だから、忠志は言われた通り、冒険者ギルドへとやって来て、今、依頼を出したところである。
冒険者となるにしても、今のレベルでは薬草採取くらいしかできないだろう。
薬草を取るだけではレベルは上がらない。しかし、王様より貰った金は沢山ある。
かといって仲間を募ろうにも彼の仲間になってくれる存在がいるとも思えない。
何しろ太ったおっさんだ。座る姿は職を失ったくたびれたおっさんにか見えない。そんな存在をわざわざ仲間に誘ってくれる存在がいるだろうか?
否、居ない。
居る訳が無い。いや、奇特な人間はいるのだから金と暇を持て余した実力者なら暇つぶしに教えてくれるかもしれない。
しかし、もしも声を掛けて来た者がいたとして、そういった奇特な存在は1%以下であろう。
大半が忠志を利用しようとするモノだ。荷物持ち予定だったり、あるいは盾として利用するのだろう。
だから、冒険者になるのは今は止めておいた。
依頼を出し、依頼として受けてくれた冒険者に護衛されながら実力を付けるのだ。
冒険に出るのはその後だ。
「忠志さーん、依頼を受けていただける冒険者がいらっしゃいましたよー」
名前を呼ばれて腰を浮かす。
所在無げに椅子に座る姿は自分でも職を無くしたおっさんにしか思えなかったのだが、同じような状況なので気にせず立ち上がる。
顔を上げた先にいた冒険者は……M男とギャル系女のペアだった。
冒険者らしくライトメイルに身を包み、仲良さげに立っていた。
DQN。思わずそんな言葉が脳裏によぎる。
全身が硬直したように、背中を嫌な汗が伝う。姿を見た瞬間から嫌な予感が止まらない。
「チーッス。あんたが依頼人?」
「あなたを護衛しながらレベル上げりゃいいんでしょ。ラクショーっしょ」
「あ、はい。その、よろしくおねがいします」
「それはいいんだけどさー。外行くなら武器と防具は装備しねーの?」
「あ、その、その辺りの選定方法なども教えて貰えればと思うのですが」
「えー、マジぃ? メンドーなんですけどぉ」
「いーじゃん。おっさんの一代決心。俺応援しちゃうぜー?」
「あはは。サーロマジサーロ。こんなおっさんにもやさしー」
「だっろ。俺最高に優しいんだぜ。なぁ、やってやろうぜルーシャ」
「うん、サーロの頑張り見たいしぃ、おっさん喜べー、私とサーロがしっかりおっさんデビュー手伝ってやるしぃー」
「あ、はい。よろしく……おねがいします」
早まったかもしれん。忠志は思ったが既に賽は投げられた後だった。
所構わずイチャつく二人に付き従いながら、冴えないおっさんが付いて行く。
まずは武器屋。
高そうな武器を選ぶサーロだが、持ち合わせと相談して無難にショートソードを選ぶ。
おっさんにフランベルジュなど紹介されても困るのだ。確かにカッコイイ波打った剣は欲しいと思ったが、そんなものを持ったら追剥に奪われる未来しか思い描けない。
防具屋でも革の鎧を買うにとどめる。
金属鎧は動きにくいうえに、ライトメイルでは彼の体系に合う鎧が無かったせいだ。
忠志の肥満具合がルーシャに何度もバカにされていた。
一応、ラウンドシールドも買うことにして、形なりに戦士忠志が誕生した。
ある意味まさに企業戦士だ。Yシャツの上に革の鎧を着込み、右腕にラウンドシールド、手にはショートソード。一応鞘も買っておき、剣はベルトに止めた鞘に入れておく。
「あはは、おっさんもこれで冒険者じゃね?」
「うけるー。達磨戦士っ。なんかもう一周回って可愛らしくなってきたし」
「おいおい、妬けるなぁルーシャに可愛いって言って貰えてよかったなおっさん」
「……はぁ」
革の鎧を着る時にずれたメガネを直しながら、困ったように頷く忠志。
正直バカにされてるようにしか聞こえないのだが、一応褒めてくれているらしい。
「別に遠出する訳じゃねーし、近くの森でにっちゃうあたり狩ればいいだろ。いこーぜ?」
「にっちゃうとかレベル上げになんないじゃん。コボルトとかゴブリン狩ってさぁ、トドメだけおっさんに刺させりゃよくない?」
「いいね。それで行こう。さすがルーシャ。頭いいー」
「だっしょー。私めっちゃ頭良いしぃ。でもサーロの頭の良さも凄いよねー」
「マジか。わかっちゃう? やっべ。俺能力隠しまくってっし、頭良過ぎて困るわー」
私にとっては二人がDQN過ぎて居場所に困るのだが。
思っても声には出せない忠志は、二人の冒険者と共にドドスコイ王国を出るのだった。




