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その彼の名を誰も知らない  作者: 龍華ぷろじぇくと
第十一部 第一話 その新たな出会いがあることを僕らは知らなかった
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AE(アナザー・エピソード)その男が何処へ行ったのかを彼らは知らない

「陛下、緊急の報告が!」


 勇者の一人を影から護衛していた男が、慌てた顔で謁見の間にやってきた。

 丁度商人が新規に店を始めるために謁見していたところだっただけに、怪訝な顔が向けられるが、男は気にしたふうも無く国王の元へ駆け寄り、王の護衛も見守る中、国王に耳打ちを行う。


「誠か?」


「はっ。現在我らも血眼となり探しております。ちょっと眼を離した隙に、申し訳ございません!」


「よい。余も彼の動向には注目していなかったのでな。だが、早急に探してくれ。流石に何処ぞで野垂れ死んで貰っても目覚めが悪い」


 国王の指示に男は短く返答して去っていく。

 話を中断した商人に続きを促し、国王は報告を聞き終えると、商人を帰してすぐ隣でゲームをしていた隆弘に視線を向ける。


「隆弘よ。少し良いかな?」


 父親が話しかけてもゲーム中は絶対に視線を向けない隆弘だったが、国王の言葉にはゲームを止め、顔を上げる。


「どうしたのお義父さん」


「そなたの父上が消えたそうだ」


「へ?」


「なにやら悩んでおられたようだが、護衛が眼を離した隙に部屋から姿を消したらしい。何処に行ったか今必死に探しておるそうだが、まだ見つかっておらん。もしかすればすでに城をでておるのやも」


「あー。親父はスキルもパッとしてなかったし、母さんが第一王子に熱上げてたしなぁ。寝取られたとでも思って姿消したのかな」


「しかし彼は未だレベル1だろう。何処へ行くというんだ。まさか異世界に召喚されたことを苦に自決を!?」


「まさか。あの親父がそんな決断できるわけないって。そうだなぁ。親父のことだから飲み屋探して飲んだくれてんじゃないかな。ほら、この世界に来た時全員お金貰ったじゃん。あの金で飲んでるんじゃないかな」


「飲む、酒場か。可能性はあるやもしれんな。おい、そこの、捜索部隊に伝えておけ。あと一応妻と娘にも現状を伝えてやってくれ」


 国王は近くに居た側近に告げて椅子に深く背持たれる。

 深呼吸を一つ。

 彼らの家族のありようを想い、溜息を吐く。


 この国に呼んだ四人の勇者。本来ならば協力してどちらの王子が第四王子を殺したのかを調べてほしかった。残念ながら女性二人は各王子に奪われ、残った子供は権力争いなど興味のない年齢。頼りのはずの大黒柱の男は冴えないおっさんで行方を眩ませる始末。

 これでは勇者たちの家族を離散させるためだけに呼びだしたようなモノである。


「ままならぬものよな。家族と言うモノは」


「ん?」


「良い良い、そなたはまだ知らずとも良いことだ」


「ん」


 隆弘は再びゲームに目を落とす。


「時に一ついいかな。そのままで聞いてくれ」


「なに、お義父さん」


「そなたは父をどう思う?」


「親父? 別に何とも。ただ家に居て、親父の後にトイレ入ると鼻が曲がるかと思う程臭い。んで、僕が学校行く前に会社に出て行って、夜遅くに帰ってきて一人で冷たい夜食食べて風呂入ってそろぉっといつの間にか自分の寝室で寝てる人?」


 話を聞いただけで泣きそうになった国王は同じ父でありながらも不遇の扱いを受ける忠志に同情の念を送った。

 実の息子に他人のように言われる父親というのも、あまりに忍びない。

 だが、その息子達が合い争って自分の地位を奪おうとしている現状を鑑みると、自分も似たようなものかもしれないとふと思ってしまった。


「父を尊敬してないのかな?」


「アレを? 尊敬する場所なんてないし」


「今までもずっと?」


 昔は、そう、自分は昔は子供たちに慕われていた。だが、王であるが故に子供たちには無関心を貫いたのは自分だ。結果、王としての地位だけを望む息子達が出来あがった。


「昔かぁ。そういえば昔はもっと僕に構ってたな親父。野球しようとか、サッカーしようとか言ってたけど、ゲームの邪魔だから断りまくってたかな。なんか悲しそうな顔してたけど、運動とか興味無かったし」


 ふと、昔を思い出した隆弘は告げる。

 時折、否。昔は休日にいつもだ。ある日はサッカーしよう。キャッチボールはどうだ? 何度も何度も笑顔で話しかけてきた。

 でも、隆弘は内向派だった。ゲームさえあれば問題無く、ねだったのはサッカーボールでもバットやグローブでもなく、スマートフォンだった。

 初めての願いに、父はむしろ嬉しそうに即座に買いに行ったのを覚えている。


 あの時は、初めて父に感謝した。

 父も誇らしげにしていて、その夜余計な出費を増やしたことで母に怒られ土下座しながらも息子からスマホを取り上げないでくれと懇願していた。

 確か、幼稚園の頃だったはずだ。


 今のスマホは三代目だが、その全てが買い替えの時は親父に告げれば直ぐに変わった。

 いつの間にか便利な財布としか思わなくなっていたが、ふと今思い返せば、自分の我儘を嫌がりもせず聞いてくれた父親が居たことにようやく気付いた気がした。


「親父、そういえばいつも家族のためになるように動いてた……」


 最初は、そう、幼稚園の頃は家事全般を母がやっていたはずだ。

 父の頭がハゲ出し、太り始めた頃からだ。母は食事しか作らなくなり、ゴミ出し、週一の家の掃除、毎日の風呂掃除。その全てを今は父がやっている。


「なぁ、仕事ってさ、辛いの?」


「ん? どういうことかな?」


「親父、毎朝早くから深夜まで仕事してるんだ。給料は結構良いみたいなんだけどブラック企業らしくてさ。母さんはもっと給料高けりゃ良い暮らしできるって言うけど、よく考えたらこの企業に入る前はもっと給料高かった気がして、何で今の仕事してるんだろうって、辛いなら止めりゃいいのにって今ふっと思ったんだけど……」


「仕事か。父親がしていた仕事は知らんがな。家族がいるのならば仕事を止めるという選択肢はまず選ばんだろう。まぁ、儂も国王という仕事をしておるがな。そのせいで休みも無く、息子達とは遊ぶことすらできなんだ。お前は遊んで貰えたか? 仕事が激しいなら流石にそれは……」


「遊ぼうって言われたけど、遊ばなかった。僕、ゲームしてる方がよかったし……」


 朝から晩まで仕事をしながらも息子と遊ぼうとしてくれる。父は父で暇な時間をわざわざ作り出し、それを隆弘に使おうとしていたのだ。隆弘自身はそれを要らないと突っぱねてしまったが、今更ながら一度でも付き合ってあげた方が良かったかもしれないと思う隆弘だった。

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