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その彼の名を誰も知らない  作者: 龍華ぷろじぇくと
第十一部 第一話 その新たな出会いがあることを僕らは知らなかった
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プロローグ・その異世界転移したことを彼は知りたくなかった

 男、唯野ただの忠志ただしの朝は早い。

 一人部屋に鳴り響く置時計の音で目覚め、メガネをかける。

 寝不足の頭を無理矢理叩き起こしながら洗面所へ向う。

 洗面台ではバーコードハゲとなった自分の髪を見せつけられながら洗顔、歯磨き、ついでにオナラを一つ。尻を震わす盛大な爆音で眠気も吹っ飛ぶ。


 ガラリ、併設されたバスルームからバスタオルを巻いた女が一人。

 彼の娘、沙織だ。中学生まではお父さん大好き。と笑顔で言ってくれる可愛い娘だった。

 高校に入った今は……


「チッ。ンだよクソオヤジ。アタシが入ってる時は洗面所使うなつっただろ。ブッ殺すぞ」


「い、いや、今起きたばかりで顔を洗いに来てだね……」


「うっせ、死ね。つーか着替えンだからさっさと出てけ警察通報すっぞッ」


 なぜ、こうなったのだろう?

 追い出されるように洗面所を蹴りだされる。

 我が家の大黒柱と成るはずだった私は、なぜ娘に蹴られるようになったのか?


 しがないサラリーマンなのは仕方無い。

 安月給で家族を養っているせいだろう。娘はグレたような長い反抗期に入った。

 ヤバい仲間とつるんでないだけマシなのかもしれない。


 部屋に戻り着替えを済ます。

 玄関から靴を履いて家を出て、新聞紙を取ってくる。

 そのままトイレに籠り、溜息。

 新聞を読みながらトイレの一時。唯野忠志唯一の憩いの場である。

 

「ちょっ、今日も先入ったのかよ親父ッ、親父の糞なげーし、後に入るとすげー臭ぇんだけどっ」


 この声は息子の隆弘だ。最近妖怪なんとかというゲームばっかりしている息子で、友達と遊びに行くのはいいのだが公園に集まってスマホゲームをしている姿を一度見た時は何をやってるんだと呆れたモノだ。

 私の時代なら公園といえばブランコ鉄棒滑り台。鬼ごっこやらケンケンパなど多種多様な遊びを行ったモノだ。サッカーだって昔は楽しかったんだぞ。

 今はビールで膨れた中年腹にぷよぷよの筋肉。脂肪達磨の自分では活躍以前に走ることすら無謀である。


 本日は憩いの一時すらも邪魔され、早々にトイレを済まして朝食に向う。

 ダイニングルームには既に作られたハムエッグ。レタスとトマトが添えられたそいつにシリアルコーンだ。

 私の朝食はハムエッグのみ。随分昔だが、朝はご飯だろう? と言ったらじゃあ自分で用意すれば? と言われてしまい、以降私の分のシリアルコーンは一切出されなくなった。

 ご飯は昨日のうちに炊いておいたので即席みそ汁を作ってご飯をよそい、一人寂しく食事を行う。


「うわ、またハムエッグかよ」


 着替え終えた沙織が呻く。


「嫌なら自分で作りなさい」


 答えたのは我が妻、静代である。

 昔は私の一歩後ろを付いて来る物静かな女性だったはずなのだが、いつの間にかカカア殿下である。

 少し目元に老いが出だした彼女は娘と同じく綺麗な女性だ。

 私のようなオークとゴブリンを掛け合わせた容姿の男には勿体無いくらいの……


「貴方。食事はさっさとして出て行って下さい。あまり顔は見たくないと言っているでしょう。昔はあんなに凛々しかったのに、はぁ。なんでこんなのと結婚したのかしら」


「いやいや、クソ親父がいくらダメ親父だからって面と向かって言ってやんなよ。さすがのアタシもちょっと同情しちまったじゃねーか」


 フォローのつもりなのだろうか? 私は娘にトドメを刺された気分だよ。

 なんとか食事を取り終え、鞄を持ってネクタイを締める。

 昔はこの後静代がネクタイの曲がりを整えてくれ、行ってらっしゃいのチューがあったものだが、何十年前の奇跡だったのだろうか? 戻れるのならあの頃からやり直したい。


「あー、臭かった。親父腸腐ってんじゃねーのか」


 生意気な顔の息子がトイレから出てきた。隆弘は食卓に付くと早速スマホを取りだしゲームを始める。

 静代の食事時はやめなさいという、何十回目かになる怒声が響くが、隆弘も慣れたもの。

 無視してスマホを片手に食事を始める。


 私の時代はテレビを見ながらも止められたものだが、今の時代はテレビはかけ流しなのに見向きもされていない。

 ニュースキャスターが神妙な顔で何かを言っているが、果たして誰か聞いている人がいるのだろうか? 残念ながら我が家族は誰も聞いていないように見える。私の同類だ。


 家族の団欒。そこに私の居場所は既にない。

 私は彼らに金を貢ぐだけの男としか認識されていない。

 彼らにとっては静代と沙織と隆弘。これだけで成り立つ家族なのだ。

 私は必死に縋りついて彼らの側に居るに過ぎない。


 なぜ、こうなったのだろう?

 どうして、こうなってしまったのだろう?

 ああ、出来るのならば、やり直したい。せめて、せめてやり直せずとも再び活躍して彼らを守れる場所が、場面があるのなら……


 玄関の扉を開く、その瞬間。我が家を包み込むほど巨大な光が地面から立ち上る。

 光に飲まれる感覚を覚えた次の瞬間、私達家族は見知らぬ床に立っていた。

 目の前には赤いローブを着た女性と、玉座に座る見るからにお偉いお方と思しき男が居た。


「良く来た勇者たちよ。我がドドスコイ王国にようこそ」


 唯野忠志53歳、本日、異世界に召喚されたらしい。

~どうでもいい話~

脳内EDエンディングソングは最近ぐーぐーおなかです。

A○B48の曲ですね。ネンドロイドくらいのアルセが居眠り状態から起きたり、朝ごはんをプリカたちと食べて主人公に口元拭いて貰ったり。なんて妄想をしてます。

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