SS・その世界で見つけた者を彼女は知りたくなかった
「ふぅ、疲れた……」
パルティエディア・フリューグリスは闇が支配する世界へと戻ってきてようやく一息を付いた。
目の前にはグレイ型の神に駄女神と言われているマロンという名の神がノートパソコンと呼ばれる神具をいじっている姿がある。
「おっ、お帰りパルっち」
「はい。なんとか戻って来れました。ところで、何してるんですか?」
「んー、いや、なんかグーレイっちがバグ殺すとか言いだしてるからにゃぁ、そいつの救い方探して見てるのですよ」
「バグ? それってまさか、透明人間さんのことですか!? どうして……あの神様透明人間さんのこと気に入ってたんじゃないんですか?」
「いやー、見てよこれ、グーレイ教で起こったバグ。もう、抱腹絶倒ものでっせ」
ノートパソコンに放映される画像。
そこでは崩壊する教会の映像が流れていた。
「うわぁ、透明人間さんやっちゃってるなぁ……」
苦笑いで見ていたパルティだったが、頂けない話を聞いてしまった。
「ちょ、ちょっと女神様、なぜか私がグーレイ神? の母神みたいにされてるんですけど?」
「ん。ちょっと天の声降らしてみたら瞬く間に広がっちった。てへぺろ」
「犯人貴女じゃないですか!? 何してんですか駄女神ッ!」
「なぁっ!? ちょっと、パルっちまで駄女神言うなしっ!」
「煩い駄女神ッ、何で私がこんな気持ち悪い神像になってんですか!」
ぎゃあぎゃあと姦しく暴れる二人の女の元へ、肩を怒らせたグーレイ神が現れる。
押し殺した怒りを漂わせながら、彼が二人の元へと辿りつくと、流石に異変を察知した二人が手を止めグーレイ神を見る。
ゴクリ、誰かの喉が鳴った。
「やあやあ駄女神君。君、あの噂は何かな? 私の母神? パルティエディア神?」
「あー、いやー、その、つい出来心で」
「どうやら女神としての力封印100年だけでは満足できないようだねぇチミ」
「あ、ちょ、タンマっ、パルっち助けてっ」
「今回ばかりは許しませんっ、潔く罪を償って下さい!」
「ちょっと、マジ待って、ほら、バグ君の身体見つけたんだってば!」
「「え?」」
にじり寄っていたグーレイ神も、パルティも。駄女神の言葉に目を丸くする。
「い、居た……んですか?」
「あー、まぁ、見つけたのはいいんだけど、ちょっとパルっちには見せられないような……」
頬を掻いてそっぽ向く駄女神。
グーレイ神にのみ報告するつもりだったようだが、追い詰められて勢いで話題に上げてしまったようだ。
グーレイ神も仕方無いと怒りを鎮める。
「さっさと教えてくれ。アレは何処から紛れこんだんだ?」
「わ、私も、例えどれ程不細工だったとしても、ゴブリンだったとしても教えてください!」
「いや、普通に人間だったから安心しろい。でも……まぁいいや、とりあえず見てくれぃ」
ノートパソコンを弄る駄女神。グーレイ教の崩壊映像が消え去り、代わりに出てくるグーレイ神の「はい、しー」画像。
「駄女神ぃっ!!?」
「間違い、これは間違いっ。永久保存映像だった」
駄女神の首根っこ掴んで前後に振るグーレイ神。消せ、早く消せ駄女神っ。と叫ぶが、駄女神様は人の弱みを軽々しく捨てる人の良い存在ではなかった。
ぽちっと送信ボタンを押してどこかに送ってしまう。
「あ」とパルティが気付いた時には、お宝画像が全てどこかに転送された後だった。
グーレイ神が制裁とばかりに駄女神の頬を引っ張っているが、それで彼女が懲りるはずもない。
悪びれた様子も無くメンゴメンゴといいながら画像を一つ、パソコン画面に映す。
それは、パルティが見た事もないような世界の画像だった。
鉄の箱が地面を無数に走り、四角い箱型の建造物が無数に建つ世界。
道路は押し固められた黒い道と成っていて、画像は人目線で移動してた。
どこかの建物に入る。
無数の人間が行き交う雑多な場所。
見た事もない服装の人物の群れ。光り輝く天井。無数の音が飛び交い、抑揚のない音声が時折聞こえてくる。
「これは……」
「彼が居たのはあちしが遊びで向ってた世界。その地球って星にいたの。初めにここから調べてみたらビンゴだったわ。多少時間はかかったけど最短時間で見つかったの。それで、これが……彼よ」
パルティはその映像を見た。
ただただ声を失った。
不細工なだけなら愛す事に躊躇いは無かった。人外存在でもパルティは彼が好きだと自覚出来ていた。でも、これは、ダメだ。
「これじゃ。こんなのじゃ……元の世界に戻されても……」
「元に戻す事はこれで可能になった。身体はここにある。精神は向こうの世界に有る。バグってるからその辺りを取り除くことが出来れば、比較的安全に戻せるかな」
「ふむ。でも、この状態で戻っても彼は……」
「それでも、ちゃんと教えてあげて、彼の選択を聞かなきゃダメだぜグーレイっち」
「辛い、話になるな……」
ただただ沈痛な空気が流れる。
その情景に、慈悲は無かった……




