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その彼の名を誰も知らない  作者: 龍華ぷろじぇくと
第四話 その教国で起こった壊滅と奇跡とバグを彼らは知りたくなかった
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AE(アナザー・エピソード)その広まってしまった噂を僕らは知らない

 その日、少年はいつものように外に遊びに出た。

 神官の国といってもその国に子供が居ない訳ではない。

 神官たちの子供がいるし、一般人も住んでいる。


 少年は大通りでいつも遊ぶ仲間たちに合流し、話を始める。

 今日は何しよう? いつも通り追いかけっこ? タッチした相手が神敵になってそれから逃げる遊び? それとも高いところに十秒間だけ逃げられるようにする高神敵にする?

 どうしよう。悩んでいた時だった。


 突然悲鳴が響いた。

 何が起こったのか気になって友人と共に声の方へと向かう。

 すると、路上で服が透明になって行き、徐々に全裸になって行く女の人が悲鳴を上げていた。


 何が起こったのか分からず、行き交う人々が足を止め、気の良い人が服を彼女に掛けたりするが、その悉くが透き通って行き、やはり彼女は裸になる。

 その横ではおっさんが一人、徐々に抜けて行く頭皮を必死に押さえていた。

 しかし、髪の毛はここは俺の居場所じゃねェっとばかりに一本、また一本と抜けて行く。


 泣き叫びながら止めてくれ、抜けないでくれっと叫ぶ男は頭頂部から徐々に禿げていて、今は立派な河童姿に成っていた。

 そんな二人は周囲の話を聞く限り、ついさっき突然、まるで神の怒りに触れたかのようにこうなったそうだ。


 そのため、神官たちは彼らを神敵ではないかと怪しみだし、悔い改め懺悔なさいと告げ出した。

 すると、彼女たちも心当たりがあったようで、罪を次々に白状し始める。

 どうやら彼女たちは他国で指名手配になっている犯罪者であるらしかった。


 当然、それを知った大人たちにより少年たちが遠ざけられる。

 だが、少年たちはただ遠ざけられるつもりは無かった。

 もっと見ようと一人の少年が飛び出すと、我も続けと大人達を潜り抜ける。

 だが、神官の一人が叫んだ。


「貴方達も神罰を受けたいのですか!」


 その一喝で、まず少女二人が立ち止まり、少年も立ち止まった。

 先行していた三人も慌てて立ち止まり、泣き叫ぶ罪人の男女を見てしょんぼりと戻ってくる。

 皆神罰を受けるのは嫌なようだ。


 見知らぬ神官からお怒りの言葉を頂き肩を竦めていた少年たちは、再び上がった怒号と悲鳴にびくりと顔を上げる。

 その視線の先には、崩れ去る教会が映っていた。

 あまりの衝撃にお怒りだった神官も呆然としていて、教会が完全崩壊すると、寄る術を失ったように力無く座り込んだ。


 何が、起こった?

 それが全ての神官たちの心情だっただろう。

 そのうちに、教会前の無事だった神像に背後から別の神像が抱きつく。

 神像は身体の一部から水を噴き出し、それが教会への階段を流れ下町へと流れ込んできた。

 悲鳴と共に逃げる神官たちの中、少年たちはただただ呆然と水に飲み込まれた。


 といっても、水の進軍速度はあまりに遅く。小川にすら届かない浅い水位だったので、押し流されることは無く、呆然としたままだった少年の一人が水を掬って飲んでみる。

 普通の水だった。少し美味しいと感じるだけの普通の水だ。


「あれ? なぁ、お前昨日転んだ膝の傷なくなってないか?」


「え? あ、ホントだ」


「私、今日ちょっと風邪気味だったんだけど、なんかこの水に当ってたら気分良くなってきたかも」


 その奇跡は水に濡れた各所で起こっていた。

 その水は疲れを癒し、傷を回復させ、体調を整える効能を持つ奇跡の水だったのだ。

 神の奇跡。

 それは神から与えられた本当の奇跡だ。神官たちは身に余る奇跡を前にしてただただ感謝の意を示し祈りをささげた。

 膝元が濡れるのも構わず地面に膝立ちとなり必死に祈りを込めて行く。


 少年の側で崩折れていた神官が立ち上がる。

 彼もまた。神の奇跡に、教会の崩壊が神の怒りではないことを察したようで、涙を流して教会跡に佇む神像を視界に収める。


 すると、突然光を放った教会が崩壊を逆再生させたように新たな姿へと生まれ変わって行く。

 神像を丸ごと覆い隠す巨大な神殿となった教会を見て、神官が余りの奇跡に咆哮していた。

 涙目になりながら祈りを捧げだした神官に、少年は恐る恐る歩み寄る。


「あの、おっちゃん」


「ああ、何かね少年。見たかい、今の奇跡を。ついに神がご降臨召されたのだ。ああ、何という奇跡。我が生涯一辺の悔いもない」


「あの、グーレイ神像にくっついたお母さんみたいな神像、アレって神様のお母さん?」


「え? あれ? アレは……」


 ―― パルティエディアです ――


「あれはパルティエディア様というのですよ」


「へー、グーレイ神のお母さんはパルティエディア神って言うんだー」


 少年の言葉に、周囲の神官たちが口々に呟く。

 パルティエディア神。グーレイ神の母。母なる神がいたのか。

 とある女神による小さな悪戯は、グーレイと呼ばれる神に気付かれることすらなく、静かに万民へと浸透し始めるのだった。

犯人は駄女神

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