その神が出てきた理由を彼らは知らない
「正直ねー、私もそろそろ怒って良いと思うんだよ。確かにね、信者たちがいろいろしたのは悪いと思うよ。でもまだ思考段階で実際に迷惑行為を受けた訳じゃないよね? なのに先制攻撃かな? あれはどういう意図でやってくれたのかな?」
僕の首に腕を回し、肩によっかかって背後から絡んで来るグーレイさん。どう見ても財布君を見付けたヤンキーみたいな絡み方です。
な、ちょっと跳んでみ、金あるだろ? 貸してくれや兄さん。そんな口調で責めて来ます。
「いやね、私としてもある程度は許容する範囲だったんだよ? アレは無いよね? 他の神々爆笑だよ。私の幼少期だとか駄女神が腹抱えて指差して来んの。この屈辱、分かるかねチミ?」
いやー、その、わざとじゃないんだよ? ほら、神官長とか狙ったんであってね、意図して像を攻撃したわけじゃないんだよ? ね? わざとじゃないんだよ。許して神様。
「テメーふざけんなよ! 何だよアレ! あれじゃ私がド変態みたいじゃないか! 神像だぞアレ! どうしてくれる! どうしてくれるっ!」
対面向かされ胸元を掴まれ、がくがくと振られる僕、もはや抵抗できません。グレイ恐い。
「おー?」
「え? あれ? え? 神……様?」
グーレイさんの大声に気付いた猊下がこちらを見て呆然と呟く。
その声で、呆然と神像を見上げていた神官たちがこちらに視線を向け、神を見付けた。
「お、おお、神が、我らがグーレイ神が現界……なされた?」
顔を上げた厳つい神官の言葉で我に返る神様。あ、めっかっちゃった!? みたいな顔で驚いている。
「か、神が、現界……なんという奇跡!?」
奇跡じゃないよ。この人割りと頻繁に降りてくるよ。ただのグレイ星人だよ。
グーレイさんは自分が注目されたことに気付いて僕から手を離すと、ん、んっ。と息を整える。
「やあ、初めまして我が子供たち」
おお、グーレイさんが神様してる。
僕は今のうちにアルセの元へ向ってグーレイさんから距離を取る。
「か、神よ、我等は裁かれるのでしょうか……」
恐る恐る神官長が告げる。
他の神官達も青い顔をしている。
「何かを勘違いしているようだね。猊下は無事、アルセ神も無事。君たちが咎められることは他に何かあるのかい? 汚職のこと? 女性関係? 感心はしないがどれも神罰を受けるほどではない。そして君たちの祈りはちゃんと届いている。罪を与えることは無いよ。私からはね」
救われたように煌めいた顔をする神官長と神殿長。
良かったな。お前らの罪放置するってよ。
「そ、それでしたら、あの像は……」
恐る恐る神殿長が指差すモザイク必須な神像。
神は困った様子も無く堂々と言い放つ。
「神水を、流す事にした。アルセ神との差別化を図る意味でも我が信望の象徴として、万病に効く絶えること無き泉をグーレイ教に送ろう」
「そ、それはつまり、これは神からの祝福……」
うわぁ、神様それは無いと思うのですが。
神様が僕の行ったことを自分の功績にしやがりました。
と言っても、神官たちは微妙な顔をしてたけど。
そりゃそうだよね、神からの贈り物がモザイク必須の巨大小便小僧グレイ型だもんね。しかもお母さんと一緒バージョンとか恥ずかしすぎる。
おそらくそのうち秘匿されるだろうこの教会の像は、きっとこれから先もこの姿を維持するんだろう。
「ま、まぁ折角だ。教会は私が再建しておこう。文字通り、神が作りし神殿だ。この教会に恥じない生き方をしてくれることを望むよ」
そして、グーレイ神が両手を広げて空へと舞い上がる。
すると教会の瓦礫が光り輝き光の柱が立ち上る。
おおっと信者たちが教会に視線を向けた瞬間、グーレイさんは即行逃げるように消え去った。
代わりに、教会が再び形作られる。
今まで住んでいた教会とは少し作りが違うようで、グーレイ神像は完全に教会の内部に隠れてしまったようだ。
あの野郎。自分で建築することで像を隠しやがったな。
しかも、射出口は完全に隠したようで、階段を流れていた水も途切れた。
どうやら噴水のようにしたようで、新しい教会の内部にでも回復の泉を作ったんだろう。
雨流し用の側溝に神殿からの排水が流れだす。神水、下町まで流れるようにしてるみたいだけどこれ、下水だよね?
クソ、折角のバグが良い感じに纏められてしまった。
「神は、居たんだ。本当に……」
凄い感動したように猊下が膝を折り、教会に祈りを捧げる。
この子は純粋だなぁ。
穢れた大人たちは呆気に取られて呆然と立ち尽くしてるのにさ。
「お」
ん? 何アルセ、教会の内部みたいの? あ、にゃんだー探険隊が我慢できずに駆けだした。どうやら新しくなった教会を探索したいようだ。
仕方無いな。ちょっとだけだよアルセ。あ、リフィ達も一緒に行く?
ルクルさんは確定か、あ、それはいいけどあの影からアルセ狙ってるストーカー先に潰しといてください。
僕らは教会へと向かうことにしたのだった。




