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その彼の名を誰も知らない  作者: 龍華ぷろじぇくと
第三話 その不良系魔物の生態を彼らは知らない
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その笑顔の威力を彼らは知らなかった

「ドルァッ!!」


 アルセに密着する程に顔を近づけた状態で威嚇する番長。

 しかし、やはりアルセは満面の笑みを湛えている。

 しばらく二人は膠着する。


 そして、動いたのは番長だった。

 ゴルァッ!! と周囲にびりびりと響く大声で威嚇したのだ。

 その声にバルスが腰を抜かしたように尻餅をついた。


 あのバズ・オークですら怒声に一歩下がっている。

 それに気付いたバズ・オークが慌てて足を戻していたが、気押されたのは確実だ。

 他の面々も全身を震わせている。

 おそらく状態異常:恐怖。みたいなのになってるんだろう。


 ……いや、待て、バルス、ちょっと、ズボンがなんだか濡れて来てるぞ!?

 ちょ、まさか、いや、嘘だろ!? 女の子が先ならともかくお前が一番に漏らしてどうするよ!?

 バルスは一番後方だったので他の面々は気付いてないけど、バルスは自分の痴態に気付いて慌てて何とかしようとする、が、恐怖に身体が硬直していて何も出来ない。

 いかん、バルス君が人知れず人生の危機だ!?


 番長が角度を変えてメンチを切る。

 まさに鬼も裸足で逃げ出す恐ろしい顔だ。

 こんなのに睨まれたら絶対眼を逸らして降伏するだろう。


 しかし、アルセは怯まない。

 むしろ一層笑みを深くして太陽のように微笑みを振りまいている。

 さすがの番長もアルセが強敵だと気付いたようで、額には青筋に混じって汗が出始めていた。


「ウォラァッ!!」


 更なる咆哮。余りの衝撃で空気が鳴動した。

 リエラが腰を抜かして地面に崩れた。

 残念ながら失禁までには至っていない。

 なんでバルスが先なんだ。誰トクだよ!


 そのバルスはなんとか這いずりながらゆっくりゆっくり地面を濡らしながらナメクジのように這い進んで逃げ出していた。

 頑張れバルス。今回ばかりは僕は君の味方だ。社会的に終わらない事を切に願うよ。


 しかし、凄いなこの攻防? 笑顔で微動だにしないアルセと角度を変えつつ周囲に恐怖を振り撒くガンつけを行う番長。

 物凄い攻防に周囲のツッパリたちも息を飲んでいる。

 番長のガンつけが殆ど効いてないようにすら思えるアルセ。そのような魔物がいるなど彼らにとっても信じられないのだろう。


 あるいは、ツッパリたちにとってはガンつけは相手との力量差を見せつけ自分の力を誇示するものなのだろうか?

 それなのに年端もいかない容姿のアルセに負けたツッパリ、その自信は粉々に打ち砕かれているはずだ。ソレを見た仲間たちは彼の自信を粉砕したアルセを許せないと立ち上がり、仇打ちに向った。


 このツッパリを率いる番長が出て来たのはそのせいだろう。

 自分の舎弟を虚仮にした相手にケジメを付けに来たのだ。

 だが、その番長のガンつけすらも意に介さないアルセ。その凄さを彼らも認識し始めたようだ。


 オルァ、オルァ! とまるで番長を応援するようにツッパリたちが声を出し始める。

 その分番長の額に汗が溜まりだす。

 手を変え品を変えアルセを恫喝する番長。しかしその度に間近で見せられる屈託のない笑み。


 そのプレッシャーは物凄いモノだろう。

 上に立つ者として仲間たちに存在感を見せつけなければいけない。

 俺こそがお前達を束ねる番長なのだと、彼は証明しなければならない。

 その為に、ガンつけでアルセを倒さねばならないのだ。


 暴力に訴えればおそらく楽に倒せる。

 そのくらいは番長にも理解が出来ていた。

 だが、今回暴力で片を付けては意味が無いのだ。

 アルセをガンつけでビビらせ自分より下だと、彼女を降したのだと皆の前で証明しなければならない。


 しかし、アルセは今回に限り非情だった。

 全く変化ない微笑み。焦る番長。

 あり得ない結末に辿りつきそうでざわつくツッパリたち。


 そして、それはトドメとばかりに放たれた。

 突如、アルセの頭上に生えた葉っぱが光を放ち始めたのである。

 びっかーっと強烈に発光するアルセ。

 笑顔のアルセに眼を見開いてガンつけしていた番長はその光を間近で見てしまった。


「ごるぁあああああああああああああああああっ!?」


 眼をやられた番長は悲鳴のような威圧声を出しながら眼を両手で庇いのたうち回る。

 まさかの不意打ち。やりすぎですアルセさん。

 悶絶していた番長は、しかし直ぐに立ち直り涙目で顔を上げた。

 そこには彼を見下ろしながら笑顔で発光を続けるアルセ。


 しばらく、番長はその状態で止まっていた。

 だが、直ぐに四つん這いで膝を突き頭を垂れた。

 屈辱に悔しがりながら漢泣きを始める。


 まさにorzの状況だ。可哀想に。彼のプライドは完全粉砕されたのだろう。

 赤かったリーゼントが急に色落ちしたように黒くなった。

 何コレ?


「オルァッ!?」


 とツッパリたちが眼を見開き慌てだす。

 番長だったツッパリに駆け寄り彼に肩を貸しながら立ち上がらせるツッパリたち。

 涙を流し悔しそうにしている元番長に、彼らはオルァ、オルァと声を掛け合う。

 そして一度アルセを見た後、皆揃って去って行ってしまった。


 やがてアルセの発光が収まる。

 ……アルセ、完全勝利の図。

 ちなみにバルス君はいつの間にか完全に居なくなっていた。どうやら無事脱出できたようだ。

 彼が居た軌跡として濡れた地面が一つの道を形作っていたが、その先がどこに繋がっているのかは、誰も知らなかった。

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