そのアルセのお節介を僕らは知りたくなかった
「ひええぇぇぇぇっ!?」
空軍カモメの背に乗ったアルセとその背後に乗せられた猊下ポンタ君。
そして蔦に絡め取られて空送される僕がぷらーんと揺れてます。
初めての大空に猊下が情けない声を上げているが、アルセは逆にきゃっきゃきゃっきゃしてます。
楽しそうだなぁアルセは。
そんなアルセはしばらく大空を楽しんだ後、近くの森へと着陸させる。
おおぅ、ようやく自由の身になった。
ありがとアルセ。もう少しで死ぬとこでした。
意地の悪そうなというか、悪戯が見つかったような顔でてひーっと微笑むアルセの頭を撫でておく。
ようやく地面に足を付けたことで落ち着きを取り戻した猊下は直ぐに自分の状況を把握しようとする。
その間にアルセが大きく手を振って空軍カモメにさよならしていた。
飛び立つ空軍カモメに猊下が気付いた時には、帰りの飛行生物がいなくなった後だった。
「ちょ、ど、どうしてこんな場所に置き去りに!?」
「おーっ」
何かを楽しそうに告げるアルセ。猊下には全く伝わらなかったようだ。
僕には伝わったけどね。ずっと家から出てない猊下に外を見せてあげたかったんだよね。アルセったらもう。これはちょっとお・せ・っ・か・い。僕はアルセの頬をつんつんつつきながら恥ずかしげに告げておく。
残念ながら僕の声はアルセにすら聞こえませんでした。
でも泣かないよ。アルセにはきっと伝わっているってわかってるから。
アルセはジェスチャーを交えてなんとか猊下に伝えようとしているが、猊下にはまだピンと来てないようだ。
ふっふっふ。アルセ、ここは例えの絵を持ちうる場面だよ。
僕に任せなさい。
アルセの身体を操る。ん? 何するの? と困った顔をしたアルセだが、僕がアルセの身体で絵を描き始めたのを見てされるがままになる。
これでアルセが絵を描きだしたことになり、猊下も戸惑いながらアルセが木の枝で地面に描いた絵を見る。
そこには鳥が描かれており、鳥を囲むように籠が描かれ、そして矢印。
鳥は鳥籠から外へと出る。
そして矢印部分を差してアルセを指差し、鳥を差して猊下を指差し、木の枝を鳥から外へと向ける。
「これ、鳥籠の鳥が僕で、アルセが、鳥籠から連れ出したって……こと?」
呟いて、はっと気づいたように周囲を見回す。
森の中、少し遠くに木々の合間から今までいたグーレイ教国が見える。
一生、出ることは無いと思われた国から、彼は出て来ていたのだ。
まさに、鳥籠から出された鳥。
気付いた瞬間、涙が溢れた。
猊下は確かに重役だった。だけど、まだ子供だったのだ。
遊びたい盛りの子供だったのに、役職が邪魔をしていた。
でも、ここに猊下という肩書きは意味なく、ただのポンタ君でしかないのだ。
自由を、体験させてくれる。
それに気付いた時、猊下の涙が止まらなくなった。
滲む世界の中、猊下はありがとうアルセ。と告げようとして、気付いた。
笑顔で微笑むアルセの背後、大人くらいあるハリネズミがアルセを見ていることに。
「アルセ!」
「グキャアァッ!」
「お?」
咄嗟にアルセをひっつかんで自分の背後に引き寄せる猊下。
叫ぶハリネズミと何が起こったか理解していないアルセ。
突撃して来たハリネズミくんは、突如飛んできた砲弾に激突。爆発と共にふっ飛ばされる。
いやー残念だったね。君、アルセに何するつもりだったのかなぁ?
お兄さんはちょっとお怒りですよ。丁髷砲が火を噴くだけには留まらないよ?
名刀桜吹雪でトドメを刺す。ふむふむ。こいつはハリネアという魔物のようです。どうも草食動物らしく、アルセの頭上で踊る花を食べようとしたようだ。
うん、死んでよしっ。
「え? あれ? 倒れた?」
「お」
「あ、もしかしてアルセが倒したの? 凄いよアルセ。僕にはどうなったかよくわかんなかったよ。でも、危ないから女の子はあんまり戦わないようにね。ぼ、僕がほら、守るからさ」
顔を赤らめ告げる猊下。いや猊下さん、あんた神の声聞ける以外ただのお坊ちゃんだからね?
アルセは良く分かっていないようで、ただただ笑顔を湛えている。
おっと、ぼうっとしてたら次の魔物が寄って来てるじゃないか。
なんだあれ? えっと……グロッグ? 気持ち悪いカエルだからグロいフロッグでグロッグ? 適当だなぁ。神様、もうちょっと良い名前付けてやれよ。いや、確かに気持ち悪い顔してるけど。
とりあえず丁髷砲でどーんとふっ飛ばしてからアルセを促し逃走することにした。
ここら辺の森にこのメンツで挑むのって結構無謀じゃないかなアルセ? 空軍カモメ呼んで別の場所行かない? ほら、街の中とかだったら安全だよ?
あれ? ちょっとアルセ、何処行くの? そっちは街から離れちゃうよ!?




