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その彼の名を誰も知らない  作者: 龍華ぷろじぇくと
第三話 その教国で起こった拉致を彼らは知りたくなかった
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AE(アナザー・エピソード)・その神官長たちの企みを僕らは知らない

「ありえんっ」


 会議室の机を叩き、男は声を荒げた。

 銀色の神官服を着た彼は、対面でふんぞり返る金色の神官服を着た男を睨む。


「どうなっているレイァールッ」


「ふん。それは儂の台詞だ。なぜあそこで本当に神の声が聞こえるのだ。お前が何かしら企んでいたのではないか?」


「やっていた! いつものように小僧の奇跡に見せかけて私が直接指令を出していた。今回だって録音していた音声を再生させたはずなのだ!」


 物の見事に再生された音声はノイズに変わっており、代わりに振って来たのがあの声だ。

 周囲に響き渡る。厳かな声は神としか思えない声であった。

 そしてアルセが偽神と分かり次第捕えて処刑するために集めていた神官全てが聞いてしまったのだ。アルセ神が他の神々から認められし神候補であるのだと。


 すでに神官たちから噂が下町に向って流れているころだろう。流石に今からでは噂を止め切れない。

 邪魔な新興宗教を偽神と断罪して消し去ることでライバル教を駆逐しようとしていただけに、想定外の事態に陥り彼らは後手に回ってしまったのである。


「奴らは、まだ帰しておるまいな?」


「猊下がアルセとかいう魔物にご執心だ。話がしたいと抜かしおったわ。所詮は色気づいたガキ。物の趨勢というものが分かっておらんのだ。しかし、クソ、何かしらアルセ教を消し去る方法はないものか」


「この際相手を認めることで地位を向上させるのは?」


「ふざけないでいただきたいレイァール! アレは爆発的に信仰され始めている。現代に生きているということが一番の問題ではあるが、放っておけばこちらの信者を奪われて行くだけだ。今まで暴利を貪っていた生活はもう出来なくなるぞ!」


「む、むぅ。そこまでか……」


「そこまでも何も今までは対抗するような宗教が無かったのだ。我らが多少多めの寄付を求めようと転職神殿などと結託しようと誰からも文句は言われなかった。だが、他の宗教があるというだけで、不満があった物共が離れて行くんだぞ!」


 ゆゆしき事態である。

 今まで神殿長、神官長の二大巨頭として暴利を貪り、贅沢三昧だった彼らにとって、アルセ教出現はまさに寝耳に水の大災害と言っても良かった。

 しぶしぶ金を払っていた者たちがいなくなり、暴利を貪らないアルセ教に鞍替えす信者が増え出して、下手すればグーレイ教の基盤までが揺るぎかねない。

 となれば、今までのように阿漕あこぎな宗教家ではいられないのだ。


「で、では、これからは夜中に信者の女どもを侍らせるのは……」


「控えるべきだろうな。もみ消しを恐れていた信者共も、アルセ教に逃げ込めるとなれば掌を返しかねん。身辺に危険な奴がいるのなら今のうちに一掃しておかねば大変なことになるぞ。向こうは我々のようにただ神を信仰するだけではない。奴等の信望する神が現界しているのだ。神の元、一丸と成りこちらに来られれば我々は今の地位を追われかねんぞ」


 それは困る。とレイァールは呻く。

 二人にとってアルセ教は邪魔者以外のなにものではない。

 ならば潰してしまった方がいいのだが。

 神のお声を神官たちが聞いており、下手にアルセ神を排する訳にも行かなくなった。

 

 神が認めた者を信者でしかない神官長と神殿長の独断で排する訳にはいかないのだ。

 何かしら問題でも起こしてくれるのならばともかく、アルセがグーレイ教にとって敵対行動を取ったりもしていない。

 今のままでは暗殺者でも雇って秘密裏に処理するくらいしか出来ず、それも冒険者パーティーに所属しているアルセが相手ではなかなか面倒なのである。

 万一失敗すれば報告は冒険者ギルドに向うだろう。

 下手を打てば敵が増えるだけの結果になる。


 うぬぬと神官長は唸る。

 なんとかならぬものか。

 今まで思い通りにならなかった事が無かっただけに、今回の状況はあまりにも歯がゆい。

 再び机に両手を叩きつける。


「ええい、忌々しいッ!!」


「ふぬぅ。金を使って堕落させようにも枢機卿とかいうあの女、見た感じからしてもかなりの女狐だったからな。落とすのはムリだろう。下手に近寄ろうとすれば潰されかねん。金で暗殺者でも雇ってやるか?」


「だからお前は脳足りんと言われるのだ。奴等の名声を聞いていないのか。ゴブリンの大集団を撃退し、誰も攻略したことのないと言われる時代劇の逆塔すらも攻略したのだぞ。そんな猛者に守られた神候補を暗殺? 誰ができるのだ! せめて、そう、せめて一人か二人にでもなってくれれば……」


 うぐぐと唸る神官長に、レイァールは赤い顔で震える。

 脳足りんと言われたのが我慢ならなかったのだが、神官長は自分と同じようにアルセに対する怒りだと勘違いして無視していた。

 そんな彼らの元に、幸運が舞い降りる。


「た、大変です神官長!!」


 突然、血相を変えた神官が部屋に転がり込んできた。三度目の机叩きが途中でキャンセルされる。


「今は重要な会議中だと言っただろうが! 入るなッ」


「も、申し訳ありませんッ、ですが、ですがっ。アルセ神が猊下を拉致し行方を眩ませましたッ!!」


 一瞬、何を言われたか分からなかった二人は、直ぐに顔を見合わせニタリとほくそ笑むのだった。 

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