その24時間ずっとアルセに密着している存在を彼は知らない
最近アルセの周囲に不穏な気配がする。
不意に気付いたのは、アルセ以外の魔物の視線だ。
最初の違和感はにゃんだー探険隊だった。
彼らは庭を探検していたのだが、時々意味不明の場所に全員が視線を向けるのだ。
次にチューチュートレイン。なぜか誰もいない場所に向って回りだし、アルセが呼びかけるまでひたすら回り続けていた。
アレには違和感しかなかったが、確信したのはその後だ。あのミーザルが誰もいない場所で自己主張をしていたのである。
それで気付いた。
見えないだけで、そこに誰かいるんじゃないかって。
いや、よくよく考えれば僕も同じなんだよね。
姿見えないってだけなら他に居てもおかしくはない。
だけど、居るんだとしたらなぜそいつはアメリス邸を調べているんだろう?
影兵さんかなって思ったけど、彼らは今里帰りというか、報告と何かしらの仕事のためにマイネフランに戻っている。
今は影兵たちがいないはずなのだ。
となると、スパイ? あるいはストーカー?
何にせよ、気付いてしまった以上は相手の目的を知る必要がある。
ミルクティも気付いたみたいだけど、違和感としかまだ認識してないようだ。
かなり隠れるのが上手いらしい。
しかも……次の日は冒険者学校にまで付いて来ているようだ。
つまり、学校組の誰かを監視していると思う。
でもネフティアや葛餅じゃない。可能性があるのはリエラ、ルクル、アルセ、のじゃ姫、にっくんといったところだろうか?
アメリスたちは昨日居なかったのでこのメンツの中に監視対象が居ると思う。
だが、それもさらに絞られた。アルセと一緒に歩く昼休憩。
近づいて来たチグサとケトルが合流しようとした時だ。
突然ケトルがクナイを放った。
ストーカー疑惑で過敏になっていた御蔭だろう。咄嗟に気付いた僕はアルセを引き寄せクナイの弾道から逃す。今の、当ってたらアルセ死んでたかもだぞケトルさん!
これはもう、オシオキですな。あとで滅茶苦茶に胸を揉んでやる。
あれ? ルクルさん、何でそんな白い目を?
ここにいるのはルクルとアルセとリエラ。つまり、この三人の誰かを監視している存在がいる。
ケトルも気付いたようだけど、気配は一瞬しかなかったせいでもう逃げたと思っているようだ。
奴が諦めるとは思えない。放課後にはまた監視が始まるだろう。
ルクル、悪いんだけどバグ探査お願い。いや、相手もバグだとは思えないけど一応、ね?
そして放課後。ようやく痕跡を見付けて近づいていた時だった。
ボナンザ先生の一撃で現れたのは、アクリコーンとかいう生物。
ロリコーンが悪堕ちした存在らしい。
アルセを狙って来た彼をリエラたちが押し留める。
慌てて逃げるアルセは、僕が居る方向へと向って来た。
丁度横を通り過ぎる時、僕に視線を向ける。
助けてって言われた気がした。
当然。助けるに決まってる。
アルセに仇なす輩はムッコロ確定です。
そう思って剣を取り出そうとした瞬間だった。
アルセが蹴っ躓いた。ちょ、アルセ!?
アルセが怪我していないか慌てて駆け寄った時だ、追い付いたアクリコーンが鼻息荒くアルセに圧し掛かろうとする。
お前マジふざけんな。消えさ……あれぇ!?
僕が剣を取り出す直前だった、アクリコーンは背後から奇襲を受けて死亡する。
一瞬だけ姿を見せた男は40代くらいのおっさんだった。
影兵さん程のイケメン力はないが、ダンディなおっさんだ。
アクリコーンを葬ると、即座に姿を消してしまう。
ただ、姿を見せた一瞬、視線はアルセを慈しむように細められていた。
ああ、知っている。僕は分かるよお前の気持ち。
大切な愛すべき少女を救えた。君を救ったのは俺なんだよ。
そういう自己満足と愛しき少女の無事を確認できたことによる安堵。
分かってしまった。彼はアルセに恋心を抱くロリコン野郎だ。
助けてくれたのはお礼を言うべきなんだろう。
だけど、お前もアクリコーンと同類じゃねーかっ!!
YES ロリータ! NO タッチ! の精神からアウトだコラァ!
僕は見えなくなった男の居場所に当たりを付けて思い切り殴りつけた。
よし、感触入った。無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァっ!!
確かにアルセを助けてくれたのには感謝している。でも、アルセを狙う変態は滅殺だよね?
「るー」
あ、うん。ちょっと待ってルクル。直ぐに行くから。
男を放置して僕はルクルとアルセ達に合流する。
アレで諦めてくれれば良いけど……
深夜。ぷぅぷぅと鼻提灯を膨らませるアルセの側で待っていると、やはりあいつはやって来た。
アルセを襲うってわけじゃない。今はまだ遠くから見守るだけのようだ。
だが、こいつはやる。いつか必ず襲いに来る。それが分かる。
アルセを守る。絶対に守る。でも、でもだ。彼女を見守っているうちは悔しいけど貴重な戦力だ。影兵さんが戻ってくるまでは、こいつに護衛まがいの事をさせておくのがアルセにとっては安全なんだろう。
僕は天井裏からアルセの寝顔を見つめている男を睨みつけながら、ルクルと共にアルセを護衛するのだった。




