その悪徳ストーカーを僕らは知りたくなかった
学園内のアルセを密着。
もはや24時間ずっとアルセを監視している気がしてくる。
昨日も一昨日もしっかり見ていた。
なぜか最近はあの影兵の奴らが居ない御蔭で自由に観察出来ているのは俺にとっては幸運だ。
本日も学園までの道を誰にも悟られないようにアルセを追跡する。
歩くたびにぴよぴよと鳴るあの音がほんわかとさせてくれる。
ずっと観察していたから分かったのだが、アルセは能天気に歩いているように見えて実は様々なモノをしっかりと把握している。
歩くたびに視線が様々な場所を見るのだ。
仲間の表情、周囲の光景。飛び出して来る子供。それに気付かない馬車。
気付いた時には双方を隔てるようにマーブルアイヴィが突き出てその蔦の上を走る馬車。
呆然とする子供の頭上を走る馬車は何事も無かったかのように地面に戻って掛け去って行く。
気付いた時にはマーブルアイヴィは枯れ切り消え去った後で、呆然と立ちすくむ子供だけが残っていた。
そんな子供には気付いた様子も無い風を装うアルセ。
人知れず子供を助けているその姿に思わず感涙に咽びなく。
ああ、なんて素敵な女の子なのだ。
思いやりもある魔物娘など、アルセ以外に誰がいると言うのだろうか。
きっと育ての親が良いのだろう。良い子に育っている。
まぁ、多少やんちゃしたり想定外の行動を取ったりするので尾行の際もちょっと気が抜けなくはあるがな。
俺はそういう面も合わせて愛せる自信がある。
ああ、可愛いよアルセ。
……おっと、ここからはさらに気を付けないとな。
学生寮の生徒が合流を始めたので俺は距離を取って物陰に隠れながら尾行を続ける。
お昼までは授業だ。
流石に先生どもの索敵能力はかなりのものなので近づき過ぎると俺がヤバい。
特にあの軍隊を指揮するようなおっさんはかなり離れた茂みの奥にいた俺に短刀投げつけて来やがったからな。危うく脳天に刺さりかねたぜ。
昼休憩。アルセはリエラ達と共に学食へと向かっていた。
すると、えーっとアレは誰だっけ? まぁアルセ姫護衛騎士団に所属している忍者少女に居場所がバレた。
まさか直撃の一撃を放って来るとは思わなかった。
本職の俺も微動だに出来なかった。
アルセが死角となったせいで反応出来なかったのである。
言い訳ではあるが、反応出来なかった御蔭で命拾いしたとも言える。
頬に鈍い痛みを感じながら、俺はひたすらに気配を消すのに勤める。
そーっとその場を立ち去り、少し遠くからアルセを眺めることにする。
危なかった。
今のは一番危なかった。
先生たちよりも生徒にバレかけるとはな。
午後の授業は念のため遠方から見守ることにした。
アルセの動きがなかなか遠過ぎて見ずらくはあるが、このくらい離れておかないと誰に見つかるか不安だからな。影に生きるモノとして、身バレだけは気をつけねば。
放課後、ボナンザという教師の指導の元、生徒数名が集まって自主練習を始める。
アルセはこれを踊りながら見つめている。
時折こちらをちらちらと見ている気がするのは気のせいか?
もしかして、お互いの想いが通じ合っているとか?
いや、待て。なんだあの女は? アルセよりもこちらを見ている、だと?
確かルクルとか言ったか? カレー好きの変な女は何故か俺の居る方角をさっきからずっと見つめて来る。いや、ちょっと視線はずれてる? 俺はその視線の先を見てみるが、そこには誰もいない。自意識過剰になっているのかもしれない。落ち付け。
もしも監視がバレていれば何らかのリアクションがあるはずだ。
「ふん。無粋な輩がいるねぇ」
不意に、ボナンザがぼそりと呟く。
マズイ。そう思った次の瞬間、ボナンザから高速の水弾が放たれた。
咄嗟に動こうとした俺だが、ふと思いとどまる。
なぜなら水弾の向う先が俺じゃなかったからだ。
別の茂みに飛び込んだ水弾。その水弾に誘い出されるように、気持ちの悪い男が飛び出してきた。
「お?」
アルセがそいつを見て首を捻る。どこか記憶の片隅にあるなぁ。といった様子の彼女は、しかし、直ぐに思い出したように顔を青くした。
あのアルセが、顔を青くさせた、だと!?
「ろ、ロリコーン!?」
「ち、違うよチグサさん。こいつ、アクリコーン!? 上位存在だって!」
ぶふーっと鼻息を鳴らす気持ち悪いぶつぶつ顔の男はアルセだけを視線に収めている。
マズい、非情にマズいぞあの野郎は!
走り出したアクリコーンに飛びかかるようにアルセを守りに向うリエラとチグサ。
しかし二人は距離が離れ過ぎている。
一番近いのはカレー娘だ。彼女は巨大なカレーを何処からともなく取り出すと、思い切り投げ付ける。
しかし、カレー塗れになりながらもアクリコーンは止まらない。
ええい、何処であんなのに引っ掛かったんだアルセ!?




