その密着する者を僕らは知らない
その少女を一目見た時。俺の全身に雷が迸った。
緑色の肌、真っ白なワンピース。ぴよぴよと歩くたびに鳴り響くピヨピヨシューズ。
艶やかな緑色の髪は風に流れ煌めきを帯び、頭の上に咲き乱れる花はくねり踊る。
幼い顔立ちに微笑み浮かべ、緑の少女は冒険者ギルドにやって来た。
アルセ姫護衛騎士団マスコット兼真のパーティーリーダーアルセ。
一目惚れだった。
元々はとある国の密偵をしていた俺は、時代劇の逆塔で別の国の密偵に撃破され、先日までこの街で傷を癒していたのだ。
まだ引退を考える気はなかったし、傷が癒えしだい国に報告に向うつもりだったのだが、監視していた相手がアルセ姫護衛騎士団であるということもあり、ついつい長居してしまっている。
アルセが可愛い過ぎるのが悪い。
見ろ、今も、こっちに気付いたように笑みを振りまいてくれている。
思わず手を振り返したくなってくる満面の笑みだ。
別にロリコンの気はないのだが、なぜかあの笑顔を見ると顔がほころぶ。
現に、隣にいるネフティアという少女や、のじゃ姫という少女には恋愛感情など全く湧かない。あのアルセだけなのだ。俺の琴線に触れたのは。
それからというもの、任務にかこつけ彼女をずっと監視していた。
気付いたら報告に向うべき期日が一週間以上も過ぎていた。もう、俺は死亡者扱いになっているだろう。まぁ、それでもいい。もう、俺はあの国の影で過ごすつもりはない。
そうだ。そうしよう。今日からは影に日向に愛すべき彼女を見続けるのだ。
もしも、そう、もしも少しでもチャンスがあるのなら、俺は彼女に告白しよう。
ダメなら拉致って……いや、それは流石にリスクが高い。それに彼女に嫌われたくはない。
そうだ。できるならば彼女と相思相愛になりたい。
だが、今まで影として生きて来たのだ。どうやれば彼女に振り向いてもらえるのか全く分からない。とりあえずは彼女の行動パターンを把握しておくべきだろう。
今までと一緒だ。ターゲットの行動パターンを調べ尽くし、一人になった時に音も無く近寄り一気に。
そうだ。俺が出来るのはそのくらいだ。やれる事をやる。否、やってやる!
そうと決めれば行動は早かった。
まずはアルセの行動を観察する。
どうやらアルセ姫護衛騎士団はアメリス邸の別荘に居を構えているようだ。
中庭に侵入して窓から部屋を覗く。ここからなら充分部屋を覗けるな。
お、来た来た。アルセ可愛い。
ん? ポシェットから何か出した……ネズミ? 縄を持って連なった五匹のネズミが床に置かれる。
するとネズミ共は縄を持って行儀よく一列に並んだまま部屋を出て行ってしまった。
何なんだアレ?
おっと、他のメンバーも来たな。えーっとアレがリエラで、あっちがアメリス、あいつはミルクティだったっけ?
お、アルセが踊り出した。可愛い。何アレ、可愛いっ。
思わず魅入っていた俺の前に、気付けば先程出現した五匹のネズミがやってきた。
ん? と気付いた俺と視線が合うと、なぜか俺を前にして回りだす一番前のネズミ。起った状態から時計回りにくるくると回りだすと、背後のネズミ達が少しづつずれて同じ軌道を描きだす。
え? 何コレ?
しばらくその光景を見ていると、犬のような謎生物がやって来て中庭の一角で眠りだした。
眼を擦りながら彼に付いて来た着物姿の幼女、のじゃ姫が謎生物の身体、パンで出来た部分をむんずと掴みながら昇って行く。
あまりに強く掴んだせいかパンの部分が掴まれた形に……あれ、大丈夫か?
のじゃ姫はパンで出来た犬の頭に乗ると、その場で大の字に寝転んで眠りだした。
魔物も寝るんだなぁ。
っと、なんだ? カレー猫?
いつの間にそこで寝てたんだ? 気付いたら近くで眠ってやがるじゃないか。
その後、なぜかこの中庭に集合してくる魔物ども。
完全に逃げるタイミングを逃した。
上空では無数の鳥型魔物が眼を光らせているし、時折プリカとパイラというバケモノのような女性が見回りに来る。
その時は決まってパン型犬が事前に逃げるので気配を殺すのは訳ないが、この目の前で回り続ける五匹のネズミはどうしたら立ち去ってくれるんだ? さっさと消えてくれ。
アルセは見たいがお前達など見たくないんだ。
結局、アルセが外出するまで奴らはひたすら俺の前で回り続けた。
正直生きた心地はしなかったな。しばらくアメリス邸の偵察は控えた方がいいかもしれない。
いや、それでも、と向った次の日には自己主張の強い猿に見つかって昨日と同じように逃げるタイミングを逃したんだけどな。
姿隠しの魔道具使ってるのに気配察知されるってどうなんだ? 影としての矜持が揺らぐじゃねェか。
だが、俺は負けない。アルセ、君に告白するまで、俺は絶対に見つからないからな!
よし、次は学園での生活を調べるか。




