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その彼の名を誰も知らない  作者: 龍華ぷろじぇくと
第二話 そのパーティーメンバーの日々を僕は知らない
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その運命の人を僕らは知らない

 チグサとケトルはいつものように学園を歩いていた。昼休憩になったので学食に向おうとしているのである。

 彼女たちの前を歩いているのは最近ハーレム築きやがったと男性陣に敵視されているセキトリと取り巻きの三人娘だ。

 困った顔ながらもどこか嬉しげなセキトリは、後ろから見ても殺意が湧き上がる。

 別に関係のないチグサも、そのイチャつき具合を見ているとこう、心の奥から憤怒の塊のようなモノが蠢くのが分かる。


 そんな彼の元へ、一人の少女が近づいて行く。

 ティディスベアを両手で抱えた召喚師志望の少女だ。

 チグサとケトルが思わず顔を見合わせている間に、彼女はセキトリの前に立ちふさがる。


「あれ? 君は確か召喚の授業で一緒の」


「はい。クルルカといいます。私、運命の人です」


 はぁ? 呆然としたのはチグサだけではなかっただろう。

 言われたセキトリも、その取り巻きの三人も呆然としていた。

 なぜだろうか? チグサは懐かしいテレビ番組のタイトルを思い出していた。そう言えばそんな名前の番組あったなぁ、と。


「あの、え?」


「ふふ。冗談です。私、占いが得意なんですけど、貴方の未来に塔の崩壊の卦がでていましたので忠告をしようかと。もしも全てを失ってしまった時はこの場所に戻ってきてください。きっと道が開けます」


 意味が分からない事を宣言した後、クルルカはそのまま呆然とした状態のセキトリの横をすり抜けて行く。

 セキトリの背後まで歩くと、胸元から取り出す一枚のタロットカード。

 カードを口元に推し宛て、クスリと笑みを浮かべながら去って行く。

 チグサには見えた。そのタロットは、恋人のアルカナ。

 彼女が一体何を目的にしていたのかは謎だが、近づいて来たのはセキトリに自分を主張するためだったようである。


「ふむ。ああいうアプローチ方法もあるんですね」


「チグサ、やるのはいいけど、多分キチガイと思われるだけだと思うよ」


 ごもっともである。

 チグサはケトルの言葉に納得しながら歩行を再開する。


「あ。アルセ」


 丁度中庭の通路に差しかかった時だ。アルセたちが居るのが見えた。

 合流しようとしたチグサ。しかし、直ぐ横にいたケトルは違った。

 突然クナイを引き抜き投げたのである。


 次の瞬間、アルセに直撃するかと思われたクナイは、こっちに気付いても居ないアルセが不自然にバックステップしたことで回避された。

 アルセから外れたクナイは中庭の草叢へと飛び込んでいく。

 遅れて、気付いたアルセとリエラが信じられない顔でこちらを見て来た。


「ちょ、ちょっとケトルさん……?」


「ごめん、手元狂った。もうちょっと手前狙ったの」


 あわや大惨事に繋がると思われた一撃は、本人にも想定外だったらしい。

 チグサも思わず息を吐き出す程の唐突な攻撃だったのだが、コントロールがずれているのがまだまだ見習いといえるケトルであった。


「ま、全くもう。今のアルセに直撃してたら大惨事になってましたよ、ケトルさんが」


「え? アルセじゃなく私?」


「ええ、恐い恐いアルセの保護者が黙ってないでしょうし」


「ん? でもルグス居ないわよ? もしかしてルクルさんに怒られる?」


 首を捻るケトルに、リエラはあーっと頬を掻く。


「ところで、なぜ攻撃を?」


「あ、その、そこの叢に変な気配があったから」


 ケトルの指摘で皆の視線が叢に向けられる。

 アルセではなく叢を狙っていたらしいケトルの言葉は、しかし何の変哲もない叢を見せられても他のメンバーには分からなかった。

 誰かいるのか? とチグサが代表して見に行くが、誰が居る訳も無い。


「気のせいではないですか姫?」


「うーん。確かに感じた気がするんだけど」


「あ、でも最近そういうの多いですよ。試練洞窟から帰って来た後からかなぁ、ミルクティさんも時々意味もなく戦闘体勢に入りますし、私も誰かに見られている気が何度かするんですよね」


 うーんと首を捻るリエラとケトル。

 その間にルクルを引き連れたアルセはどんどん先へと進んでいく。

 気付いたチグサは追うべきかどうか迷ったが、姫の護衛を優先することにした。


 アルセはそのままセキトリたちと合流し、先程の少女の話題を振られて笑みを返していた。

 あの四人が合流したのなら大丈夫か。とチグサはアルセから意識を外してリエラとケトルに意識を向ける。

 ケトルが感じたという怪しげな気配は以後も全く感じることはなかった。


 しばらく中庭を監視していたチグサたちだが、昼休憩の残りも気になるため、さっさと食堂に向いアルセ達に合流するのだった。

 そして、誰もいなくなった中庭で、叢が揺れ動く。

 のっそりと出てきたそいつはただじぃっと食堂のある方角を見つめ、ゆっくりと去って行くのだった。

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