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その彼の名を誰も知らない  作者: 龍華ぷろじぇくと
第二話 そのパーティーメンバーの日々を僕は知らない
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その武器屋の一日を僕らは知らない

 葛餅三銃士の一人、ラーダはドワーフの娘である。

 本日も父の手伝いで店のカウンターに立っていた。

 可愛らしい顔立ちなのだが、その口元には立派な髭が生えている。


 武器屋の看板娘なのだが、やはり髭が問題なのだろう、初めて来る冒険者などは彼女の姿を見て驚く事が多い。

 ドワーフの女性を見た事があれば問題はないのだろうが、人里に出てくるドワーフの女性がなかなか居ないのだ。居てもファッションのために髭を剃っている人が多い。

 ただ、髭を剃ると青髭が残る事があるので、殆どのドワーフ女性がニューハーフと勘違いされているらしいのだが。


 そういう顔になるのが嫌だったラーダは、逆に伸ばして自分のファッションにしている。ドワーフ達からは髭がチャームポイントだとむしろ喜ばれるのだが、ラーダとしては少し複雑だった。

 武器を買って帰る冒険者に笑顔で接客を終えると、丁度次のお客が入ってくる。

 知り合いだった。


「ひゃっはー。しけたモンばっかじゃねーかぁ。よぉーお嬢ちゃん、俺様が遊びに来てやったぜェ?」


 ネフティアとアキオが出現した。

 あまりの迷惑客じみた言動に、思わず身構えるラーダ。

 そんなアキオとラーダを放置して、ネフティアがカウンターへとやってくる。

 懐から何か取り出し背伸びしてカウンターの上に置く。


 どうやら予約札らしい。

 そういえば今日はお前の知り合いが武器取りに来る。とか言われていた気がする。

 ネフティアにちょっと待っててと告げて工房へと向かう。

 ラーダが店番してくれているので、久々に工房に籠り切って武具を打つ父親に告げると、指先だけを明後日の方向に向けた。


 そこにあったのはネフティアが良く使っている武器に似た剣だった。

 両手剣だが鍔の部分に引き金があり、これを引くことでエンジンが掛かる仕組みだ。

 そして無骨な剣先に巻かれている鋭いチェーンが回転を始める。

 スマートになってはいるがどう見てもチェーンソウである。


「ヒヒイロカネで作るのはかなり面倒だったが、なんとか形にゃなった。あとは使い心地で確認しろっつとけ」


「は、はい」


 歯の部分を持たないように柄を持ち、ラーダはゆっくりと工房を後にする。

 カウンターに戻ってくると、ネフティアの背後に数人の冒険者が並んでいた。

 どうやら武器を取りに行っている間に並んだようだ。


 まだかよ。みたいな言葉を吐いている。

 おまたせしました。と告げて武器をカウンターに置くと、周囲から驚いた視線が向けられた。

 ネフティアが届かなかったようなのでアキオが持とうとしたのだが、武器が重過ぎたようだ。

 全く動かない。ドワーフですらかなり重いと感じるのだから、人間では持ち上げられないだろう。余程鍛えておけばそれなりに持ちあがるだろうけど。


 仕方無いので武器を再び手にしてカウンターから出る。

 ネフティアに直接渡すと、周囲から制止の声が掛かった。アキオが持てなかった武器を年端も行かない少女に持たせるなと言いたいらしいのだが、この武器自体彼女のリクエスト通りの武器なのだ。


 受け取ったネフティアは片手で持った武器を前後左右上下と動かして眺める。

 気に入ってくれたようで、ゴスを支払い購入。

 今度はアキオの装備を新調するようで、カウンターから離れて別の場所を見始める。

 ラーダは冒険者たちの会計をしながらも横眼でネフティア達をちょこちょこと見る。


 ナイフを手に取り舐めようとしたアキオに背中から取り出した巨大ハリセンでバシリと叩くネフティア。

 衝撃で動いた額にサクッとナイフが刺さっていた。アレはもう売り物にならないので買わないようならアルセ姫護衛騎士団に理由と共に請求書を送っておこう。

 淡々と仕事をこなしながらそんな事を思うラーダだった。


「ラーダ、やってる?」


 しばらくすると、クァンティとカルアがやってきた。

 時々見に来る彼らは、同じ葛餅を師匠と仰ぐパーティーメンバーである。葛餅がアルセ姫護衛騎士団に所属している関係で、彼らもアルセ姫護衛騎士団に入ったような状態になっている。

 元々ぼっちな三人を葛餅が寄り集めたためか、全員の仲はかなりいい。だから、時折こうしてラーダが上手く仕事してるか、困ったことが起こっていないか見に来てくれるのである。


 冒険者への接客を終えてカウンター前が暇になったので二人と話を始める。

 店内に残っている冒険者はもうネフティアとアキオ以外いらっしゃらない。

 今はアキオ用のナイフをまだ選んでいるようだが、アキオはいちいち舐めないとだめなのだろうか? ナイフの舐め具合を見ながらこれは違うとか言って戻そうとする。

 ラーダの堪忍袋がぷちぷちと千切れ始めた。


 話していたクァンティとカルアが逸早く気付いてそちらを見る。

 困った顔のネフティアと目が合った。

 コイツどうにかしてくれないか? そんな少女の視線に、クァンティとカルアは苦笑いしか返せない。


 白銀製の高いナイフに舌を這わせたアキオを見た瞬間、ラーダの堪忍袋は完全に粉砕された。カウンター裏に立てかけてあった自慢の巨大ハンマーをひっつかみカウンターに乗りあげる。


「こ、の、クソボケェッ! 売りモン舐めんなドカスがァッ!! テメーの目玉とチ××抉り取って口ン中詰めっぞクラァ――――ッ!!!」


 この日から数日、コルッカの武器屋が一つ、改修工事で休業する事になったらしい。

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