そのカップルだらけの草原を僕らは知る気はない
その日、レックスは知り合いを誘ってピクニックに出かけていた。
カップルが幾つか出来ていたのでそういう男女で成立済みのカップルを引き連れて近くの草原地帯にやって来たのである。
この辺りはガルーくらいしか出て来ないので、安全地帯、あるいは新人冒険者用の練習地帯としてギルドの保護区に指定されている。
ここではガルーの乱獲が禁止されているのと、凶悪なモンスターを引き入れた冒険者に重い罰金が科せられる。引き入れ行為は大体がトレイン行動である事が多く、意図して引き入れようとする悪質冒険者はまず居ないのだが、冒険者同士のいざこざによる魔物のなすりつけ行為に使われることがあるのでこういう罰則が必要になるのである。
今回ピクニックにやって来たのはレックス、ヲルディーナ、フィックサス、クライア、ランドリック、ライカ、キキル、ファラム、ハロイア、ロリコーン侯爵、セキトリ、その妻の座を狙う三人娘といったメンツである。
皆、彼氏彼女が居るため他のメンバーと話はそこそこ、甘い空間がそこかしこで広がる。
そんなメンバーを見ながらレックスは隣に乙女座りしているヲルディーナを見た。
風に揺れる草原の中、綺麗な顔立ちの彼女は顔にかかった髪を手で払いながら、空を見上げている。
「どうしたの、ヲルディーナ」
「いえ……こうやって、海を離れた場所に居るのが不思議だなって。岩しかない海辺か海草の生い茂った海中だけだったから、こうして陸地の草原で、愛しい人の隣に居られるって、いいなって……」
言った後でレックスを見て顔を赤らめるヲルディーナ。自然と口から出た言葉を自己認識して恥ずかしくなったようだ。
あまりにも恥ずかしかったので慌ててレックスから視線を逸らす。
すると、周囲で同じように視線を逸らす女性陣と眼が合った。
右の方では草原に同じように腰をおろしているフィックサスとクライア。似たような会話をしたのだろう。ヲルディーナと視線が合って苦笑いをしている。多分ヲルディーナも同じような顔をしているだろう。
正面に視線を向ければ助けを求めるような視線のファラムがいる。その身体に寄り添い眼を閉じているキキル。幸せそうである。
父と同等とされる魔王であるファラムが、陸地では村人の少女に良いようにあしらわれているのがおかしくて笑いそうになる。
クスリと笑みを零しつつ、悟られないように左に視線を向ける。
ロリコーン侯爵の膝に寝転ぶハロイアが幸せそうに股間に顔を埋めていた。侯爵が大切なモノを扱うように彼女の髪を梳いている。あそこの変態カップルはとりあえず放置しとけば問題はないだろう。
ただ寝ているだけならば周囲にとっても問題にはならない訳だし。
少し離れた場所には胡坐をかいてどうしてこうなったと言った顔をしているセキトリ。その背後から胸を後頭部に乗せて乗っかっているマクレイナ、右から胸を押し付けているモスリーンと、左に寄り添いながらどんどんセキトリ側に寄っているエスティール。
あちらの恋愛模様には口出しはしない方が良さそうだ。基本放置でいいだろう。
このカップルだらけのメンバーで問題があるとすれば……残る一組だけだろう。
「へ? あ、逃げろ、ランドリ……ランドリ――――ックっ!?」
本日も平凡には終わらない。フィックサスの叫びと共に、走り寄って来たガルーの跳び蹴りがライカに怒られていたランドリックの後頭部に直撃した。
なぜ怒られていたのかは見ていなかったので分からないが、また何かしらの不幸があったせいだろう。ただ、怒られている所に蹴りを喰らったため、ライカを押し倒すようにしてランドリックが倒れ込む。胸を揉みながら。
もう一度言おう。
倒れ込む時、なぜかランドリックの腕が伸びライカの小ぶりな胸を揉んでいた。
それはもうしっかり五つの指を開いてグワシッと。
倒れた後しばらく呆然としていたライカは、何が起こったのか理解すると同時に鉄拳制裁。
ランドリックの顔に拳が突き刺さる。
「っ、なにっ、すんのよエロガッパぁッ」
「ら、ランドリ――――ックっ!!」
ランドリックを拳で引き離すと、そのまま扇を描くように今度はライカが馬乗りに。そのままランドリックの顔面に連打連打連打。
赤面した顔で一心不乱にランドリックを殴打する。
なんとか助かりたいランドリックは必至に止めてくれと手を伸ばし……
もみり。
「……まだやるかド変態野郎ッ!! オラオラオラオラオラァッ」
ライカの胸をさらに揉んで加速した拳の連撃を喰らうのだった。
しばらく呆然としていたレックスとフィックサスが慌てて止めに入るまで、ランドリックはライカの胸を揉みながら殴打され続けたのだった。
引き離されたライカの顔が真っ赤だったのは怒りだったのか羞恥だったのか、それとも……
彼女の想いが何処にあるのかは、他の誰も知らない。ただ、これを機にランドリックと分かれた。などという話は誰も聞くことはなかった。




