その王子が存在することを僕らは知らない
「俺に、戻れってのか?」
セキトリ・バチコイ・ドドスコイは本日、寮内にやって来た男と部屋で対面していた。
男の顔は初めて見る顔だが、何処から来た人物かは知っている。
彼は兵士だ。ドドスコイ王国からやって来た、父からの使者である。
「はい。我が国の王子二人が互いを牽制しあっているせいで次代の王が決まらぬ現状、業を煮やした国王陛下はご決断なさいました。この二人を選ぶことなく、第三王子であるセキトリ様を王にすると」
「ふざけてるな。父は俺が邪魔だからこちらに送ったと記憶しているが? お気に入りの弟はどうした?」
「毒殺されました」
あまり聞きたくない話だった。
どうやら、第四王子である弟が毒殺され、王にはどっちの陣営が犯人か分からない。下手に選んでそちらの陣営に犯人がいれば、自身が王にと手塩にかけて育てた王子を殺した相手を次代の王にしてしまう。
ならば、どちらにも加担しておらず、第四王子を殺したはずもない第三王子を王にしてしまおう。
セキトリの父はそんな事を考え付き、わざわざ冒険者学校に行ってしまったセキトリを呼び戻そうと言うのである。
断れば国家反逆罪となり指名手配されるとなれば、向かわざるをえない。
「なんとか我々で卒業するまではと期間を伸ばしはしましたが、どうやら今季の卒業でセキトリ様は卒業扱いになるようで、国王からの圧力で確定しております」
「入って一年でか。いや、冒険者としてのノウハウは所属しているパーティーの御蔭で問題はないけどさ……毒殺か……どうしようかな。皆に一応相談してからの方がいいか。一人で判断して王になっても俺が死んだらアレが暴走しかねないし」
セキトリの不安はただ一つ。自身の召喚獣となったスライムである。
マターラはのんびり屋だが、自分が死ねば契約が無くなる。あの危険極まる生物が野放しになるのである。
確実に、どっかの国が滅ぶフラグだ。おそらく自分の国が一番の被害者になるだろう。
どっちかの王子がセキトリ亡きあと魔物も送ってやるぜ。とかいって攻撃して反撃で中性子爆発くらって……うん、皆に相談してからにしよう。
一人で向ったら多分暗殺まっしぐらだ。
「と、いうわけで、相談に来ました」
セキトリがやって来たのは昼休憩中の学生賑わう食堂。
集まっていたのはアルセ、リエラ、マクレイナ、エスティール、モスリーンといった面々である。
なぜこのメンツだけ集まったのかといえば、暇しているリエラとアルセを見付けた三人娘が合流したと言うだけの話。三人が良くつるむハロイアは少し離れた席で侯爵様といちゃついている。食事をあーん。とかしている横に居たくはなかったようだ。
「なにがというわけ。なのかわかんないけど、私達でできることなら乗るよ?」
「おー」
リエラの言葉にアルセが元気よく答える。
ありがとうございます。と告げながらアルセの隣に座る。
何処から話したものか、少し考え、結局身分から告げることにした。
「えーっとですね。俺、ドドスコイ王国の第三王子なんすけど」
「「「は?」」」
「あらら、また王子様でてきたよ。この学校第三王子とか多いですよねー」
驚く三人娘と呆れた顔でアルセを見るリエラ。そして首をこくんと頷くアルセ。
「昨日親父から使者が来まして、帰ってきて王位を継げと」
「「「は?」」」
「それもまた、よくありますよねー」
再び驚く三人娘。本当によくあるなーとアルセを見るリエラ。頷くアルセ。
「理由を言いますと、父が王位にと考えていた第四王子、弟が毒殺されまして」
「「「は?」」」
「ワンパターンな感じですね。王族には良くあるんですっけ」
三度驚く……以下略。
「で、犯人が第一王子側か第二王子側か分からないからどちらも次期王にはしたくないとのことで、俺に王位指名が回って来たわけっす。これ、向えば確実毒殺されますよね?」
溜息を吐くセキトリに衝撃的事実が多過ぎて付いていけない三人娘。一人うんうんと納得するリエラとそれに頷き返すアルセ。
「なんとか卒業まではここに居れるらしいんですけど今季の卒業で俺卒業させられるそうで、そのまま国に戻らないと国家反逆罪にされるらしいんすよ。もう、王になるしか手が無くて、でも暗殺とかされる可能性高いし、俺が死んだらマターラが暴走しそうで。国、滅ぶんじゃないかなと」
「これはまた凄いことになってるね。うーん。とりあえず王位継いでお兄さん二人を無力化させるしかないんじゃないかな?」
「それはそうなんですけど、宰相やら何やら俺知り合いじゃないんですよね。安心できる存在が一人もいない状況で二人を排除したらどっから暗殺されるかすらわからなくなるというか……」
困るセキトリ。それを解決する術を持つ者は……
すっと、椅子に立つアルセがぽんっとセキトリの肩を叩く。
ん? と顔を向けたセキトリに、アルセは自分の腕をアルセナイフを取り出し斬りつけ、噴き出した血を無理矢理飲ませるのだった。




